映画:東京裁判
途中15分の休憩を挟んで、5時間に及ぶドキュメンタリー映画。
内容も軽くはないから、観に行くか迷ったけれども、観て良かった。
良かったと言うよりも、観ないといけなかったのだな、と思った。
東京裁判を描きながら、戦時の世界情勢から、裁判期間中に起きた世情の変化まで、取り込まれている。
戦争を否定しながらも、東京裁判を全面的に肯定する訳でもなく、誰かを擁護する訳でもない。
僅かに挿入される、B級C級戦犯を裁く場面が、主役の東京裁判よりも時に強烈に映ったのは、人々の憎悪の念が、より直接的で剥き出しだからだ。
東京は、寧ろ、戦勝国間の駆け引きの場ともなって来て、微かに法廷も揺れている。
東京裁判を描いたドラマや映画はあるけれども、実際の映像から受ける印象は、決してドラマチックでもなく、スムーズでもない。
当事者の多くにとっては、イライラする長さの裁判だったろうと思う。
中弛みもしてそうだ。
そういう空気感が、巧みに編集され、映画としての緩慢さはないのだけれども、伝わって来る。
どんなに優れたクリエイターが真実を描くと息巻いた所で、実際のフィルムには、到底敵いそうにもない、と思った。
東京裁判自体に就いては、今では、資料も研究も沢山あるのだから、態々、映画という媒体から学ぼうというのも、愚かしい事だろう。
それでも、色々な切り口や、様々な立場から、どんなものかは間接的に聞かされて来て、なんとなくは知っていた東京裁判というものが、実際には、想像していたのとは随分に違いそうだ、という事に少なからず驚き、イデオロギーに染まらない、現実の東京裁判を垣間見られた様な気になった。
それこそは、まんまと小林正樹監督のイデオロギーに嵌まっているだけで、ドキュメンタリーに仕掛けられた罠かも知れない。
どんな名優よりも、東條英機は東條らしく、昭和天皇は昭和天皇らしく見えたのも、写っているのが本人だから当たり前、とはあながち言えまい。
戦争中の惨事も、事実確認として織り込まれて来るので、幾度が、なんのぼかしもなく遺体が無造作に晒され、無下に扱われる場面に出くわす。
デジタルリマスターされて、映像が鮮明になったとは言っても、モノクロームである分、掛かったフィルターは分厚くもあるのに、どんな数字や体験談よりも、映像のインパクトはなお強烈で、直視できない程だった。
だけれども、現実は遥かに壮絶だった訳だから、とても自分には耐えられない事が、世の中には、平然と、あちこちに転がっているのを思い知る。
観終わっての後味は、少しも良くない。
それが、この映画の唯一の救いなのだと思う。