思い出しライブ・レビューVol.2 〜 「2017年、山下達郎 Performance2017」
山下達郎 Performance2017
そのころ、とても気になっていたのが山下達郎さんだった。なぜかは分からない。当時発売されたベストアルバムの初回限定盤を入手していたのもなぜだったろうか。
それまで、しっかりと彼の曲を聞いていたわけではないし、60年代から90年代に至る音楽史の中ではロック、ハードロック、ヘヴィメタルに軸足をおいていたこともあり、彼の音楽的嗜好性(ドゥーワップ、ロジャー・ニコルス、カーティス・メイフィールドら、ポップやR&B)とも合致していなかったし、本当になぜ彼の音楽をコアに聞くようになったのかは不明なのだ。
きっかけが何だったのかもわからない。
でも、ある日、なぜか、山下達郎さんの音楽に関心が湧き、彼のコンサートに行きたくなった。
なにかきっかけがあったはずなのだが。。
2017年の秋のこと。
調べてみると、チケットは既にソールドアウトしており、キャンセル待ちに応募した。まさか当たるとは思わなかったが、大宮ソニックシティのライブチケットを入手することができた。
最上階の最後列である。まあ、行けるだけでも貰い物。
現地で、ご当地プレートという購買意欲を喚起するようなグッズが売っていたが、数量限定とは知らずあえなく撃沈。そしてライブを待つ。
このホール、さほど大きくなく、最後尾でも、天空席というレベルではない。東京ドーム2階や武道館上空の方のような悲劇は回避できている。
聴くと、山下達郎さんは、音と声をオーディエンスにしっかり届けたいという思いから巨大すぎる会場は選ばないのだそうだ。NHKホール、中野サンプラザ、神奈川県民ホール、大宮ソニックシティとか、そういう場所がメインの会場となっている様子。
この点、確かに共感できる部分で、ライブにいっても、ステージは見えないので、巨大なモニタばかりを見ていることも多く、何のためのライブなのか??と思うこともしばしばだったから。
音は生の音だけれども、横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナあたりでも上空の席は、ちょっと辛いものがある。歌手は見えない。が、音はきちんと聞こえる。
余談、雑談
たとえば、
武道館、横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナクラスの1万人~規模の会場ならば、ステージを中央に持ってくれば良いと思う。そうすれば、どの席でも満喫できるのではないだろうか。
逆に東京ドームの場合は、演奏家が立つステージとは別に、歌手が動くエリアを増やすのはどうだろうか。天空席からしたら、あまりメリットはないが、せっかくアリーナが当たったのに後方だったという悲しさは、これでまぎれるのではないか。
そんなことを感じるのだが、あまり実現されないことを考えると、なかなか難しいのだろう。
そんなことを考えているうちに、ライブが始まった。
ヒット曲しか知らない状態で臨むライブ、どんなふうになっていくのだろうか。
Performance2017
「SPARKLE」
ステージが照らされ、シャッフル調の曲が始まった。伴奏を刻む、カットギターが心地よい。弾いているのは山下達郎その人だ。
この曲はSparkleという曲だった。調べると、毎回セットリストの1曲目はこの曲らしい。ライブのオープニングを盛り上げる役割は申し分ない。
そして、初心者にはうれしいCMソング「ドーナッツ・ソング」が続く。ああ、聞いたことがある!これだけで不思議と安心できてしまう。
出だしの数曲で、彼の声は高齢者とは思えない張りをもって、響いてくるのを感じていた。レコードやCDで聞いたあの声がそこにある。
いくつかMCを挟んだような気がする。たしか録音しているようなことも言っていた。そのうち、陽の目を見ることがあるのだろうか。だとしたら、ものすごく記念になる。
序盤は順調に、心地よい時間が過ぎていった。
そして事件が起きた。
「潮騒」
初めて聞いた「潮騒」という曲。これは今も繰り返して聞くお気に入りの曲になったのは、このライブの影響が大きい。
というのも、ある事件が起きたからだ。
このライブ、出だしから、1階席中央部で、妙な拍手や声掛けがあったのに気が付いていた。通常とは違うタイミングで発せられるそれらは、無視できなくもないが、3000名の中の1名といっても、こじんまりとした会場では思いのほか目立つ。天空席最後尾にいた僕ですら感じたから、近くにいた方はどう思っていたのだろうか。
そして、なんと「潮騒」の演奏が始まった時に、その方が拍手をしたのだ。山下達郎さんは演奏を止める。暗転。何が起きたのか?
しばしして戻るが、どうやら怒っているようだ。
彼自身も、合わないタイミングで発せられる拍手が気になって仕方なかったようで、なんと「潮騒」の演奏をミスってしまったのだそうだ。
その思いを、こちらに吐露し、再度「潮騒」の演奏が始まる。
拍手の主は、席を去ったのか、どうなのか、これ以降、そういったことは無かった。
これは、アーチストと観客の関係性を考えさせられる事件だったように思う。ライブとは観客である我々とアーチストで作り上げる共同芸術のようなものだとすれば、やはりある程度のアーチストへの尊重はあってしかるべきだ。アーチストが気持ちよく演奏できるように、観客もノリと声や身振り、拍手で応える。山下達郎さんはこの関係性を非常に大事にしているのだ。
これがクラシックとなると、すでに出来上がった聞き方のルールが徹底されてしまうが、ポップやロック、ジャズはその類ではないのだと思う。
彼はこの「潮騒」の後に、この埋め合わせは今日行うから、と語った。これが後半の盛り上がりになるのだ。
「クリスマス・イブ」
アコースティックセットか何かで、初心者でも聞いたことのある「ターナーの機関車」が始まり、アカペラ?パートへ。
彼はアカペラを得意としているようで(DooWopというのか?)、ライブ中間部では洋楽のアカペラが披露された。
英語の発音が上手いということもあるのだろうが、圧倒的な声量が、そういったテクニカルな部分を越えて、客席に伝わってくる。心打たれるとはこのことか。
そして、あの曲が始まる。
「クリスマス・イブ」
クリスマスにはまだ遠い季節の6月のライブで聞く、「クリスマス・イブ」。初めて生で聞く「クリスマス・イブ」。アカペラの興奮も相まって、ここが一番初めの盛り上がりの絶頂だった。
そして、この曲を聞きながら、映画館で聞いたこの曲を思い出していた。
「君は僕を好きになる」
「君は僕を好きになる」という映画が放映されたのは80年代末期?90年代前半だったろうか。まさに、いわゆるひとつのトレンディドラマの延長にある映画だった。
北海道の田舎町に住んでいると、長期休みの楽しみは近隣の「都会」に出ることだった。特に、町中が雪で閉ざされる冬ならば、特にそうだ。
あの年、年明けだったか年末だったか、父と弟と、近隣の「都会」、函館に赴いた。映画を見る目的で、メインの映画は洋画だった。(「ジュラシックパーク」だったような)。当時は2本立てという仕組みで、この映画の裏が、「君は僕を好きになる」で、この映画の主題歌が「クリスマス・イブ」だった。
中学生からしたら、まだずいぶん先の出来事の様に思える大人の恋愛事情(大人といっても登場人物は20代前半だったと思うが)、別世界の出来事のような気分で見ていた。内容は、覚えておらず、加藤雅也が雪が降りしきる中、延々と誰か(斉藤由貴?)を待っているその背中だけは印象に残っている。たしか、そのときに「クリスマス・イブ」が流れたのだった。
中学生でもすぐに良い曲だとわかった。映画の内容よりもこの曲が印象に残った。当時、自分の部屋のクリスマスBGMは、クリスマスソングメドレーのブラスバンドバージョンだったのだが、あらたに1曲が加わった瞬間だった。
どうやら父もこの曲が気になっていたようで、シングルCDを購入して帰ったのを覚えている。
淡い雪景色の向こうに残る、家族の旅の思い出。
その思い出には「ジュラシックパーク」のテーマではなく、「クリスマス・イブ」が流れている。
「蒼氓」
ライブは終盤へ。
「蒼氓」(そうぼう)。という曲は、実はここで初めて聞いた。黄昏から舞い降りた、、という歌詞を聞いて、ミネルヴァの梟は黄昏から舞い降りるという古い言葉を思い起こしていた。
この曲は、文句なしに、この時以来、山下達郎さんの中で一番好きな歌だ。今もなお、何か区切りをつけたいとき、リラックスしたいとき、そんなときによく聞いている。
*この曲については、noteでも過去書いています。
この曲から始まるメドレーを堪能しながら、始まったのが「Get Back in Love」。この曲もメロディラインが良いし、伸びやかな高音域のボーカルがたまらない。ただただ堪能。
「LET'S DANCE BABY」
アンコール前、最後のメドレー。実は2017年からコロナの休止を除いて毎年山下達郎さんのライブに行っており、このメドレーもオープニングの「SPARKLE」同様、おなじみのようだ。
「LET'S DANCE BABY」という曲から始まるメドレーは、スタンディングで、ひたすら体を動かして楽しむ時間だ。
びっくりしたのは、これも恒例らしいが、この曲のある部分で「クラッカー」を皆が一斉に鳴らすところ。これは、びっくり。何が起きたのか一瞬わからなかったが、お約束の出来事の様子。
こういうお約束もアーチストと観客が創り上げるライブの醍醐味だ。
聴いたことのある楽曲のフレーズを挟みつつ、なんと、岡林信康の楽曲のフレーズも挟みつつ、圧倒的な熱量をホール内に放って、メドレーは終幕を迎える。
この正味、数十分は、まさにものすごい熱量だった。スタンディングしていたとはいえ、心地よい疲労に包まれていた。
「ハイティーンブギ」
アンコールは、まさかまさかの「ハイティーンブギ」。完全なリアルタイムのファンではなかったが、近藤真彦の曲をここで聞くことになるとは!しかも、この曲は、山下達郎さんの提供曲というではないか。
おそらく当時20代前半だったマッチが歌っていた曲を今の山下達郎さんが歌っている。見事に歌いこなしている。すばらしい声量だ。
「Ride on Time」の驚くべき演出を経て(これはライブで体感してほしい!)、最後の曲に向かう。通常は「Last Step」で終わっていたようだが、「潮騒」の件の、埋め合わせということで特別に「YOUR EYES」という曲が演奏された(逆だったかもしれないが、、、5年前のことなので、記憶違いはご容赦を。。)。
最後もアカペラ。
しっとりと歌い上げるバラード曲がおわった。
3時間を超えるライブ、この疲労感は、この会場で感じられた幸せな感情で、カバーされていて、明日への希望しか湧いてこない。なんだろう、この幸せな感情は?満足感、充足感。当てはまるような漢字は存在するが、どれもあの時の感情に、ぴったりこない。
言えることは、あのホールの最後尾の天空席で、一人の山下達郎さんのコアなファンが生まれたということ。そして、さらに僕は、人生を楽しむ術を一つ手にいれることができたということだ。
だって、彼のライブを人生の醍醐味の選択肢に入れることができることになったのだから。
【セットリスト】
2017年6月16日 於:大宮ソニックシティ
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