【恋愛詩】ジャズクリスマス
今朝 日の出と同時にラヂオからビル・エヴァンスが流れた ワタシは10年前に恋人と観にいった映画のことををぼんやり考えていた その映画はビル・エヴァンスがどんなに辛い体験をしたか どれほど音楽を愛していたかが描かれていた 暗闇で恋人は号泣していた 観終わった後 彼は 「ピース・ピース※」を口ずさんだ ワタシは恋人のそんなところが好きだった
※1958年のビル・エヴァンスの楽曲で、直訳すると「平和のかけら」を意味する。アルバム「Everybody Digs Bill Evans」に収録されている。
恋人はチェット・ベーカーに憧れていた チェットの伝記映画を2本 誘われて一緒に見た 白黒のドキュメンタリーと イーサン・ホーク主演の映画
「いいジャズをやるには 幸せじゃダメなんだ」
恋人はそんなことを話していた ワタシは そんなことはない と思ったけど反論しなかった 恋人はジャズの演奏家ではなかったけど 誰かの真似をして 乱暴な運転をして 翌年 交通事故で死んでしまった 傷心の私にジャズ好きな友人が「バード」という映画を勧めてくれた 初めてチャーリー・パーカーを知った こんな映画を撮る人が市長だったら 街はさぞかし素敵だろうなと思った チャーリー・パーカーの人生については あまりにつらすぎて 思い出したくない
ジャズは昔 無頼漢の音楽だった そして天才の音楽だった モーツァルトがそうだったように
新しい音楽を生み出すのは だいたい狂人か風来坊だ
ワタシはパートナーに天才を求めていない でも好きになる人はみんな なぜか天才になりたがっていた
昔 天才に憧れる人は 天才になるためにある種の麻薬を使ったらしい 阿片とか ヘロインとかLSD 人生を縮めて超人的な作曲や演奏をすることができた 大衆はそれを賛美した 人間は残酷だ
その恋人が死んでから今日までに ワタシは2人の恋人と付き合った なぜか2人ともジャズが好きだった クリスマスには ワタシがせがんで ジャズを聞きに行った
一度だけニューヨークのライブハウスに連れて行ってもらったことがある ハービー・ハンコックの生の【カンタロープ(Cantaloupe)アイランド】を聞くことができた 私は子供の頃 この曲を ヒップホップのアレンジで知った 演奏後 フロアに出てきたハービー・ハンコックに握手をしてもらった その手の感触が忘れられない 彼はワタシが日本人だと知ると自分はBuddhists(仏教徒)だと話してくれた 天才なのに早死にしなかったのは きっとそれが理由だ
ワタシの中でジャズはクリスマスと接続している それはキリストの誕生を意味する 上手く言えないけど ジャズはキリストの悲劇とセットになっている クリスマスにジャズを聞くのは 一年間溜まりに溜まった 罪や悲しさを洗い流すためなのではないか できれば最愛の恋人と
その時間を共有する
残念ながら今のワタシには クリスマスを一緒に過ごせる人はいないけど 記憶のプレイリストには これまで聞いてきたジャズが【カンタループ(Cantaloop)】している
※「カンタロープ・アイランド」(Cantaloupe Island)はハービー・ハンコックの1964年の作品。
タイトルは架空の島で、オリジナルLPのライナーノーツには「この島のカンタロープを一口食べれば、不死身になれると言われている」と説明されている。「カンタループ(loop)」は1992年に「カンタロープ・アイランド」をサンプリングしたUS3のヒットチューン。loopは同じリズムやメロディを繰り返す意味で.ヒップホップでよく使われる手法。ここではクリスマスに好きなジャズの曲をループする意味で使っている。