魔法をかけてやる〜I put a spell on you
お前に魔法をかけてやる。Screamin' Jay Hawkins という人の歌に『I put a spell on you』という曲がある。しゃがれた声で愛憎をがなり立てるスローなロックンロールに、なんとも不思議な気持ちにさせられる。1950年代の曲。呪文のような叫びは今聴いても妖しさを失ってはいない。ところで、私の住む地域には魔女がたくさんいる。
写真は穏やかな水面をパドリングする魔女達。狙ってないけど光の加減でモノクロっぽい写真が撮れた。『Stranger than paradise』という白黒映画を思い出した。モノクロのシーンが淡々と続くこのロードムービーに、不思議な彩りを与えていたのが『I put a spell on you』だった。
まあとにかく、呪詛を生業とする人たちでさえふらふらと海に出かけ、ぷかぷかと浮かびたくなるような自然豊かな場所に私は住んでいる。何かと不便な場所ではあるけど、残酷な日常でかき集めた大小の呪いの数々も、穏やかな海に吸い込まれてゆく。その海では牡蠣が取れる。
人々にギトギトした感情の食物連鎖の中で育ったこの牡蠣は、とにかく美味しい。港には業者の直売店があり、生牡蠣を1ダースずつ持ち帰りで購入できることを最近知った。この数週間は、週末の牡蠣を楽しみに頑張っているようなところがある。1ダース18ドル。
円換算すると高いかもしれない。円安だから二千円超えのラーメンが普通にあったり、ちょっとランチに行こうものなら20ドル、30ドルすぐに消えるイカれた物価の市場において、品質を考えても、週末の楽しみとしても、良い買い物だと思っている。しかも、今日はお釣りの関係で3ドルまけてくれた。
土曜日の朝。新鮮な牡蠣を港まで買いにいく。朝の爽やかな日差しと海からの風を全身で浴び、薄いコーヒーを飲む。昼は牡蠣の酒蒸し。夜は牡蠣のパスタで栄養をたっぷり摂る。今日は幸せだったと思う。この国は決して楽園では無いけれど、こんなに気持ちが晴れるのは、魔女が呪いをかけてくれているからかもしれない。