セルフビルドと伝統的建造物群保存地区 〜東近江市五個荘金堂エリア〜
伝統的建造物群保存地区
伝統的建造物群保存地区とは、「後世に残すべき歴史的な集落・町並み」で、
保存対象となっているものです。
その中でも、国から特に重要な価値があると判断されたものが「重要伝統的建造物群保存地区」となります。
私の住む滋賀県では4地区が選定されています。
①大津市坂本 〜里坊群・門前町〜
このエリアは、里坊(比叡山で修行を経験し、隠居した僧侶の家)群を中心に、穴太衆(あのうしゅう)の石積みなども合わせた歴史的な地区です。
②彦根市河原町芹町地区 〜商家町〜
彦根城下町の町屋が残るエリア。彦根城から少し離れ、落ち着いた雰囲気の街歩きができますね。
③近江八幡市八幡 〜商家町〜
豊臣秀次により八幡山城の城下町として開町されたエリア。近江商人の本宅などがあるとともに、時代劇の撮影でも使用される八幡堀や日牟禮八幡宮もある。
このエリアではBIWAKOビエンナーレも開催されており、
大阪在住の自分が「滋賀県いいな」と感じさせてくれた場所でもありました。
滋賀県に移住した原点的な場所です。
④東近江市五個荘金堂 〜農村集落〜
近江商人の本宅群と伝統的な農家住宅が存在するエリア、そして寺社やエリアを囲む田園風景が残る場所です。
ぶらっと五個荘まちあるきというイベントも開催されており、
パレードや、ステージ、弘誓寺さんなどで開催されている街角美術館も行われています。
これらの、地区でセルフビルドを行う場合にはいくつかの留意事項があります。
むしろ、セルフビルドをしていいのか?
伝統的建造物群保存地区とセルフビルド
伝統的建造物群保護地区保護条例
「伝統的建造物群」を保護する地域なので、保護する必要があります。
先ほどの「④東近江市五個荘金堂 〜農村集落〜」の保護についての事例を検討したいと思います。
五個荘金堂がエリアがある滋賀県東近江市には、
『東近江市伝統的建造物群保存地区保存条例』という条例があります。
「東近江市五個荘金堂」エリアにて、セルフビルド(自分で自分の家を建てる)を検討する場合、条例の目的部分に登場する「現状変更の規制」、また「その他保存のための必要な措置」を詳しく知る必要があります。
セルフビルドに関しては、
「(1)建築物等の新築、増築、改築、移転又は除却」が該当しそうです。
また、リノベーションする際にも
「(2) 建築物等の修繕、模様替え又は色彩の変更でその外観を変更することとなるもの」が当てはまるでしょう。
セルフビルドするには、市長の許可が必要です。
では、どのような場合に市長からの許可が出るのか?
新築に注目すると、許可基準として以下の文言が出てきます。
「当該建築物等の位置、規模、形態、意匠又は色彩が当該保存地区の歴史的風致を著しく損なうものでないこと。」です。
「当該保存地区の歴史的風致」とは、どんな雰囲気であるのか?
東近江市五個荘「町並みの景観保存・修理修景ガイド」
「五個荘エリアの歴史的風致」沿った建物について、
「町並みの景観保存・修理修景ガイド」という具体的なガイドラインがありました。
まずは、言葉などの定義から
・「伝統的な建造物」
五個荘金堂における「伝統的な建造物」とは、
『昭和20年までに建てられた建造物のうち伝統的建造物群の特性を維持するもの』
・「修景」 伝統的建造物以外の建物の修理や、新築する行為
・戦後に建てられた建造物の修理や、新築を行う場合の用語について
伝統的建造物以外の建造物を、町並みに合わせて修理又は新築する行為を
「修景」という。
*伝統的建造物については「修理」という言葉を使っています。
ですので、五個荘金堂地区でのセルフビルドは「修景」とされます。
・「修景基準」と「許可基準」
修理などの際に東近江市からの補助金もあるみたいで、
補助を受けて行う場合は「修景基準」、
自費で行う場合は「許可基準」が適用されるそうです。。
*補助金は、伝統的な構造物がある敷地でのみ適用という情報もあります。
ので、このへんは要確認です。
東近江市五個荘金堂エリアにてセルフビルドをする際の流れと基準
セルフビルドかに関わらず、新築する際の流れ。
①事前相談
②現状変更行為許可申請 →判断
もし、申請がOKであれば
③許可・許可決定通知及び許可証の交付
その他、
④工事着手
という感じです。
続いて、基準です。
具体的な外観仕様の事例があります。
【修景基準】
補助金をもらって施工する場合の基準です。
【許可基準】
新築をするなら、どちらにせよこの基準以上は必要とされるものです。
がっつり、日本家屋といったものですね。
許可基準 自分として特徴的だと感じたこと
【形態:1階に庇(ひさし)をもうけて総2階建を避けます。】
このガイドは確かに、良い感じの日本家屋感を出してくれますね☆
この形については、どのような種類があるのか一度調べてみたいなと思います!
【屋根:切妻(又は入母屋)、日本瓦(いぶし)葺を推奨します。】
切妻(きりづま)屋根
オーソドックスな形ですね。髪型で言うと「センター分け」。
入母屋(いりもや)
上半分が切妻造、下半分が寄棟造になっている屋根。
趣がある作りですね。寄棟造がわからないので、下部にのせます。
五個荘エリアには、一部茅葺屋根の住宅が残っています。
この、茅葺き部分は「入母屋屋根」かなと思います。
屋根に注目して写真を撮影していないので、「愛しきものたち」さんのブログより写真を引用します。やはり、色々と知ると視点も増えてまち歩きの楽しさも増しますね☆
寄棟造
四方向に屋根が流れる作りです。切妻屋根ではセンター分けの二方向でしたね。
四方向分けの髪型はできないかな?
中之条ビエンナーレ2021にて、作品を制作した「伊参スタジオ(旧町立第四中学校)」の屋根が今見ると「寄棟造」ですね(運動場にある遺跡が制作した作品です)☆
屋根の種類はたくさんあり、なんだかワクワクしますね☆
どのスタイルを採用するか、またはMIXするか、はたまた作り出すか。
【雨樋 金属製樋とします。通りから見えない部分は塩ビ製が使えます。】
普段、雨樋にはあまり注目しないですが、五個荘にある住宅などでは金属製が使われていたりしました。
五個荘のうどんや「いっぺき」さん、雨樋の集水器も立派な銅製っぽいですね☆
金属製かっこいいですね☆
神は細部に宿ると言いますが、雨樋のような細かい部分が全体的な景観強度を支えているのですね。
そういえば、もともと銅が錆びてできる「緑青」が好きでした。経年変化の味わいも見ることができそな、雨樋です。
最終的には、まちなみ保存会さんとの相談です。
地域の景観を大事にして、形態や素材などを合わせるところは合わせる。
自分の建物が、五個荘金堂の景観を支えるという気持ちですね!
セルフビルドと伝統的建造物群保存地区 〜伝統の継承あるいは伝統の創造〜
セルフビルドを、「ある程度の自由がきく表現」としてみた場合には、
伝統的建造物群保存地区は制限があるのでしょう。
しかし、これまでの日本的な建築の文脈の上に立ち、
可能な限り、自力で伝統を継承していくということであったり、
新たな伝統を作り上げていくという視点では、
伝統的建造物群保存地区にてのセルフビルドはおもしろいのではないでしょうか。
屋根一つとっても、様々な形態があります。これらの種類を視野に入れながら、どのような建築にしていくのかを考えていくことも楽しそうです。
・伝統的建造物群保存地区における建築基準法の制限緩和
あくまで、現在すでに存在する構造物に限りそうですが、
建築基準法の緩和措置があることも伺えます。
道路が狭いであったり、屋根瓦の一部が道路に出ているなどなど、
本来は色々と規制がかかるところを、建造物・街並み保存の観点で規制緩和をしているのではないでしょうか?
自分の興味としては、
セルフビルドの観点を持って、
屋根の形態、雨樋などの素材、壁の素材、仕上げ方などなど勉強すると面白いなと感じました。
それでは長くなりましたが、この辺で!