瀬尾まいこ「夜明けのすべて」を読んだ
映画化もされた話題の小説を読んでみた。
主人公①の美沙は、重いPMS(月経前症候群)に苦しんでいる。特に「感情を抑えられない」症状は、周りの人を巻き込み、美紗の生きづらさを増幅する。
もう一人の主人公、山添君。ある日突然パニック障害になり、生きる気力を失っている。それまで「普通」にできていた行為ーー電車に乗り、会社に通い、外食を楽しむなどのことが、突然できなくなってしまったのだ。
医学的な病名・症状は異なれど、外見的には事情が分かりにくく、内なる生きづらさと孤独を抱えた2人は、街の小さな金属加工品会社の社員として出会う。
こうした設定を聞くと、たいていは「そしてこの後、二人は恋に落ちて、助け合いながら幸せに生きていきました」というストーリーを想像したくなる、というか、想像してしまう。
が、しかし。本作はそこが少しユニーク。
二人は、恋人関係にも、さらには友人とも言えないような関係を続ける。
それは、互いの事情と孤独に触れることで、ある種の「連帯感」を抱き、お互いがお互いを助け合う関係となる。
一読して、「優しい物語」だと感じた。
そして、恋愛でも友情でもないけれど、私たちはまわりの人たちを助け、また自分も助けられる、そんな関係をつくることができるのではないか、という思いを強くした。
現代の日本社会の人間関係は、お互いを競争相手としてしか見れなかったり、少しでも上下の関係で上に立つ(いわゆるマウントを取る)関係が「普通」の状態になっている(自分自身はそうではない、という方もいるとは思うが)。そして、そのためには、相手の尊厳など踏みにじっても構わないという状況。その中で常に生きづらさを覚えるのは、弱者だ。
しかし人にやさしくできない社会は、本来異常だったはず。そんなことに気づかせてくれた作品でもある。
著者はある場所で、「読んでくださった方が、ほっとできる一瞬を味わってくださるのなら、明日を待ち遠しいと思っていただけるなら、幸いです」とコメントしていたのを読んだ。
「待ち遠しい明日」(これはとても素晴らしい言葉)は、夜明けとともにやってくるのだろう。いまの日本と世界の現実は、誰もが等しく、明日を「待ち遠しい」と思える社会とは言えない。
しかし、そう思えるきっかけは、意外にも身近なところにあるのかもしれない。そんな私なりの「夜明け」を感じた。
著者の巧みな会話描写が心地よく、スッと身体に入ってくる小説だった。
ちなみに映画も観た。
というか、映画を先に観た。
原作とは異なるエピソードが、特に後半で展開される。
しかし、うまく言えないが、「原作どおりじゃん」という感想だった。
主演の2人(上白石萌音、松村北斗)がとても良かった。演技が上手とはいいがたいが、とても自然に見えた。
というか、後で気が付いたが、この二人は朝ドラの「カムカムエブリバディ」で共演してるではないか!!
今年は、日本映画を観る機会が増えている気がする。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?