山羊汁
沖縄県民でも、好き嫌いが分かれる食べ物。
それは、山羊汁。
苦手な人は、山羊汁について話題にすると、途端に嫌そうな顔をして「においがだめ」と言う。
どんなにおいなんだろう?
以前、ヤギ刺しを食べた時は、癖のないお肉だったからか、あまりにおいは感じられなかった。
肉肉しいのかな?
癖のあるにおいなのかな?
そのにおいを和らげる為なのか、
フーチバー(よもぎ)と一緒に食べるイメージ。
山羊汁を検索してみる。
山羊汁の主な具材は、山羊肉のみ?!
茨城のけんちん汁のように具沢山ではないみたいだ。
ぶつ切りにした山羊肉と水と泡盛。
それらを煮込んだもの。
それが、山羊汁というものらしい。
臭み消しとして、生姜やヨモギ。
そして、塩はお好みで。
山羊肉を味わう。
シンプルで、無骨で、滋養のある食べ物。
それが、山羊汁というものらしい。
これは、たしかに好き嫌いが分かれるかもしれない。すでに、この時点で、山羊肉を受け入れられない気がしている(ずーん)。まだ食べていないのに(ずずーん)。独特な臭みとは…。
山羊料理は、山羊薬(ヒージャーグスイ)と言われることを、初めて知る。
山羊汁がお祝いの時に食べられるのは、栄養補給源としての山羊が、とても貴重な食材だったからなんだ。
ちなみに「ヒージャー」とは、
うちなーぐちで、山羊のことです。
山羊汁を食べたかったら、
山羊汁好きと食べに行くと良いと言われた。
もし、食べられなかったら、
その人に食べて貰えばいいから。なるほど。
山羊汁好きのSさんにお願いして、おすすめの山羊汁のお店「山羊料理専門店 芭蕉布」に連れて行ってもらう。
食べる前から、ひと口貰うだけでいいかなとか、すでに戦意喪失気味だけど、人生初の山羊汁体験は、とても楽しみ!
山羊汁を知らずに、茨城には帰れない!
と、自分を鼓舞してみるけど、果たしてどうなるやら。
山羊料理専門店だからこそ、山羊料理のみ。
もう逃げられない。
山羊汁に沖縄そばが入ったヤギそばを選択。
お店の方が、注文時に「フーチバー(よもぎ)を入れていいですか?」と確認してくれる。山羊汁未体験の私にとって、何が正解か分からないけれど、郷に入っては郷に従えということで、入れてもらうことにした。
ヤギそばが来る前に、ヤギ刺しをいただく。
薄くスライスされた山羊のお肉。生姜と醤油でいただきます。テーブルに運ばれてきたばかりのヤギ刺しは、まだ少し凍った状態のため、シャリっとした食感。においは特になし。味の癖も特になし。
Sさん曰く「皮付きの方が美味しい」とのこと。
皮付きのヤギ刺しは、なかなか噛みきれないため、口の中で何度も咀嚼する。そうしているうちに、じんわりと山羊肉の旨味が感じられた。ヤギ刺しと言っても、部位や切り方によって、味が変化すると知ることができた。
お店の方が、ヤギそばを運んできてくれた。
ついに、山羊汁(ヤギそばだけど)と初対面!!
思わず、最初に器に鼻を近づけて、においを嗅いでしまった。とてもハシタナイ。下品な自分の行動に反省。
…!?
あれ??
あんまりにおわないけど…。
新型コロナウイルス感染症にかかったあと、嗅覚が変だからだろうか。まだ後遺症、続いていたっけ???
獣臭のような、荒削りで、ガツンとくる、この世のものとは思えないような、悪魔のような臭い(酷い)を勝手に想像していたけれど、そんなことはまったくなく、お肉を煮詰めた時に香るシンプルなにおいだった。
ヤギそばに乗っていた山羊肉のうち、ちょっと苦手そうな部位(皮とか、ぷるぷるしてそうなところとか)の山羊肉を、Sさんの器に入れ込む。
これで、安心だ!
山羊汁もヤギそばも、汁は同じものらしい。
別皿で付いてきた塩や生姜で、好みの味にするのが、山羊汁の食べ方らしい。
まずは、何も入れずに、汁をいただく。
優しい。
優しい味だ。
とろりとしていて、まったりと肉の味が溶け込んでいる。
なんだこれ。
平気なんだけど。
山羊汁と聞いて、とても嫌そうな顔をした人たちの顔が浮かぶ。
あの人たちの食べた山羊汁と、いま私が食べている山羊汁は、まったく違うものなのではないだろうか、と疑ってしまう。
芭蕉布さんの丁寧な調理のおかげなのだろう。
塩を入れなくても、充分美味しい。
山羊肉をいただく。
とても柔らかい。
ヤギ刺しとはまた違った旨味だ。
そばを食べていたら、器の底の方から、ころりと、ちょっと違った部位が出てきた。赤黒い塊りだ。
Sさん「それは血合いみたいなものです。」
生姜を付けて食べることをお勧めしてもらい、勇気を出して食べてみる。
レバーみたいな感じだった。レバーが苦手な為、あまり噛まずに飲み込んでしまう。気を抜くと、すぐに山羊の負の側面が迫ってくるようだった。
それでも、山羊肉の新たな一面を体験させてもらって、おもしろい。
それにしても、食べても食べても沖縄そばが減らないんだが(汗)。結構食べたはずなのに、器には、まだ一人前くらい残っている。どういうことだ。
ゆっくり食べていたら、だんだん汁が冷めてきて、脂が次第に固まってきてしまう。急がねば。
山羊汁のとろみのある汁は、山羊の脂なのだと実感した。そして、気を抜くと、思い出したように山羊臭に打ちのめされて、食べられなくなってしまうのではないかと、ちょっぴり焦る。
ヤギそばと格闘していたら、ヤギ刺しはだいぶ溶けて、食べ頃になっていた。
食べ頃になったヤギ刺しをひと口いただく。
あ、美味しい。
すぐに、もう一枚いただきました。
山羊肉は、何に似ているんだろう。
癖がなく、食べやすい。
脂も少なく、しつこくない。
馬肉みたいな感じだろうか。
食通じゃないから、分からないけれど。
私が山羊肉について想いを巡らせていたら、Sさんはすでに完食していた。
そして、器のなかは、からっぽだった。
え、全部飲み干すの…??
Sさん「栄養たっぷりですから、残さず飲みます。」
そうなのか…!
そばを食べる事ばかり考えていたけれど、汁も飲み切るのか…!
沖縄そばやラーメンを食べる時のように、汁を残すつもりでいた私にとって、新たな挑戦のはじまりだった(大袈裟)。
たしかに、貴重な山羊肉をしっかりと煮込んだ汁は、栄養たっぷりだ。汁まで残さず飲む。これが流儀らしい。郷に入っては郷に従えだ(2回目)。
山羊汁は、山羊薬なのだ。
だけど、体質によっては失神したり、鼻血が出るなどの副作用もあるらしい。それを知って、ちょいとヒヤリとする。苦手な人は、ムリに食べる必要はないのかも。
においが嫌だと感じるのは、自分の体質に合わない事を教えてくれているのだ。きっとそうだ。その感覚は大切だ。
そんなこんなで、ちょっと時間がかかってしまったけれど、すべて美味しくいただきました(祝!完食)。
因みに、テーブルには、味変用の調味料もあったけれど、それらを活用する余裕は、初心者の私にはありませんでした(無念)。
調味料と一緒に、黒糖も置いてあった。Sさんオススメのマンゴ糖をいただきました。沖縄では、ひと口サイズの黒糖が置かれていることがある。甘いものでお口直しというお店の心遣いがありがたい。
人生初の山羊汁。
とても貴重な経験となりました。
山羊汁は、優しい。
これが、私の答えです。
【おまけ】
食べ終えた後の方が、山羊と一緒にいる感じがしました。
おわり