まぶたの奥
前髪を切っていたら。
約1センチ程度の髪の毛片が、
右目に入った。
取ろうとする。
取れない。
取ろうとする。
消えた。
目薬をさす。
消えた。
目に入ったゴミはどこへ行くのだろう。
調べてみたら。
上まぶたや下まぶたにある結膜のポケットに入っているか、角膜の表面にくっついているらしい。
目から発芽。
強烈な事例。
モミをつけたお米なんて、目に入っていたら、ゴロゴロして痛そうなのに、よくもまぶたに数ヶ月も収めていたものだ。
結膜のポケットは、
案外、収納力に優れているらしい。
結膜が目にゴミが入るのを防いでいるので、
目の裏側にゴミが入ることはない。
目の裏に、生まれてからこれまでに入ったゴミ達が溜まっていたら、取り出したいという願いは、本日、綺麗に解決です。
でも、結膜のポケットにゴミが溜まっている可能性はある。モミ米の事例もあることだし。
涙に洗い流してもらうしかない。
以前、元まつ毛だったのか、短い毛が、
律儀に涙点の穴に刺さっていたことがあった。
涙点は、目頭にある涙の出口。
ホールインワンと同じくらい、
珍しい出来事だと思った。
涙点に毛が、イン。
驚いた。
ひとり静かに驚いた。
痛みがあったので、気がつき、
丁重に涙点から毛を抜き、解決。
今回、痛みはない。
どこへいった。
私の目の表面か、まぶたのどこかに、
今日入った髪の毛片は、いるのだろう。
涙や目薬で、流れてください。
明日の朝、目やにと一緒に出てきてください。
目薬をさしてみる。
目薬を一滴、ニ滴、とさして、
目を上下左右に動かしてみる。
水道水を両手にすくい、
目を洗ってみる。
上まぶたをめくってみたり、
下まぶたをめくってみたり。
あ、出てきた!
と思ったら、眼球と下まぶたの境目の影だった。
まぶたの奥は、深い。
私の小さな目の奥は、
見えているよりも広く深い。
それを知ったことで、まぶたをひっくり返しても、眼球をまじまじと見つめても、上下左右に動かしても、それでも、出てこない髪の毛片が、このまぶたのどこかにいるのかと思うと、目の中が未知の世界のように感じた。
このなかにモミ米まで収納できるなんて。
自分の体に、こんな収納力のある部位が潜んでいたとは。
進化の過程で、これらの機能を獲得してきたのかと想像したら、遡りきれないくらい途方もない時間をかけて、人体が形成されて、今ここに生まれている自分の身体の不思議と奇跡に、素朴に驚いている。
約1センチの髪の毛片のことなんか、ちっぽけだな。
睡眠中など目を閉じている時間が長くなるほど、ゴミは排出されやすくなるそう。
おやすみなさい。