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『胎話師 ゆきと』第4話

 俺は誰より先に、自慰を覚えるのが早かった自信がある。小学生以降に自慰を経験する人はそう珍しくはないと思う。幼稚園児以下なら珍しい方かもしれない。幼少期に性器をいじるケースがあるのは男女問わず、自慰という自覚はなく、かゆかったりして触っているうちに快楽を覚えてしまうという偶発的な行為らしい。これが自慰だと自覚して、性器を触る乳幼児はいないだろう。
 
 けれど俺は自慰をしているという自覚が生まれてすぐにあった。というか生まれる以前からあった。母親の子宮の中にいた胎児の頃からすでに自慰をしていたのだ。胎児のうちに自慰を覚えるなんて、世界中どこを探しても俺以外、他にはいないと思う。最も早く自慰を覚えた人間としてギネス記録に認定してほしいくらいだ。でもそれを証明する客観的な方法はないから、認定なんて無理だろうけど。あくまで俺の記憶が胎児期の自慰を覚えているというだけで、それを他者に理解してもらう手立てはない。
 
 小学6年生の頃に、クラスの男子たちが「幸与(ゆきと)はまだ自慰なんて知らないだろ?」と身長も低かったし、声変わりもまだだった俺を、冷やかすように尋ねてきたことがあった。「知ってるよ。生まれる前から…おなかの中にいた時からしてたから。」と答えたら、「そんなのウソだ。ありえない。」と笑われ、まともに相手にしてはもらえなかった。それ以来、クラスメイトがエッチな話をしていても、その輪の中に交じることはなくなった。
 
 胎児のうちに自慰を覚えてしまった俺だから、小学生の頃なんてすでに自慰の達人だった。どうすれば一番気持ち良く、すぐにいけるかなんてよく分かり切っていたし、10年以上、自慰をし続けていたから、その先の、異性との性交にもとっくに興味を抱いていた。けれど誰でもいいから童貞を卒業させてくれる女の子としてみたいというのではなく、大好きな本命の女性が物心ついた時からいて、彼女と初体験したいという欲望があった。彼女は26歳も年上の人妻。報われるはずのない初恋だった。その恋を17歳になった今でもずっと引きずっていて、たまに告白されることはあっても、彼女を作ることはなかった。
 
 なぜ、胎児のうちに自慰を経験したことを覚えているのかというと、母親の子宮の中で性器をいじっていた時の快楽が記憶から消えずに残っているから。胎児の頃の他の記憶は残っていないというのに、自慰による快楽だけは強烈に覚えている。胎児の頃はへその緒を通して酸素も栄養ももらえて、何もすることがないまま九ヶ月もおなかの中で過ごすから、おそらく暇だったんだと思う。他にできることもないし、退屈しのぎに覚えてしまった自慰に、生まれる直前まで励んでいた。陣痛で母親が産みの苦しみに耐えている間、まだ子宮の中にいた俺は、自分で自分の性器を触り、快楽を貪っていた。狭いけど、まだここにいて、自慰だけをして過ごしたいと思いながら…。生まれる前からなんて親不孝だったのだろうと思う。
 
 我が子がすでに自慰を覚えたなんて知る由もない親たちは、4月2日に生まれてくれて良かったと俺が生まれた時、胸をなでおろしていた。一日早く生まれていたら、早生まれになり、学年がひとつ上になっていたから、気をもんでいたらしい。
 
 生まれる直前まで自慰に励んでいた俺を4月2日にとり上げてくれたのは、父親の友人の産婦人科医・佐伯透(さえきとおる)さんだった。父・結生遥人(ゆいはると)も産婦人科医だから、当初は自分で俺を取り上げる予定だったらしいけど、うちは当時、まだ珍しかった無痛分娩も扱っている個人医院で人気だったため、分娩が重なり、母・千紗都(ちさと)の出産は、大学病院の産科に勤務していた信頼できる透さんに任せることにしたらしい。父と透さんは同級生で、当時29歳という若さだった。医大生だった大学生時代から、切磋琢磨し合い、親友であると同時に良きライバル関係でもあったらしい。医師としての腕は、透さんの方が上で、敵わなかったと昔、父はよく話して聞かせてくれた。腕の良い透さんのおかげで、呑気に自慰をしていた俺でも無事に生まれることができた。
 
 母と透さんの奥さん・深琴(みこと)さんも同い年のせいか仲が良かった。父と透さんは産婦人科医として忙しかったけれど、時間さえあれば集まって、俺も含めて五人で過ごすのが習慣になっていた。透さんと深琴さんには子どもがいなかったから、俺のことを我が子のようにかわいがってくれた。俺には二人ずつ父親と母親がいるような感覚だった。何しろ両親より先に俺の命に触れてくれたのは透さんだし、第二の父親に思えた。深琴さんは俺が乳幼児期の頃には、母の育児を助けるように俺の面倒を見てくれた。生まれる前から自慰を覚えた俺だから、母のおっぱいより、深琴さんのおっぱいに興奮していた。もちろん深琴さんは、母乳は出ないけれど、赤ん坊の頃から幼稚園児の頃まではおっぱいを触らせてくれた。母のおっぱいは成長するために必要なもので、深琴さんのおっぱいは恋を覚えるためのものだった。そう、俺は深琴さんに恋していた。
 
 幼稚園児の頃までは触らせてくれたのに、深琴さんは俺が小学生になるとおっぱいを触らせてくれなくなった。「水着や下着で隠れる部分は安易に誰かに触らせてはいけないのよ」と微笑みながら、やんわり拒絶させるようになった。それで欲求不満になったのか、深琴さんと性交してみたいという気持ちに襲われるようになった。仲の良い二組の夫婦揃ってうちに泊まることもあったから、そんな夜は深琴さんの入浴をこっそり覗いたりして、おかずにして自慰をし、自分の性欲をなだめていた。
 
 透さんと深琴さんがうちに泊まっていたある夜…。二人が眠っているはずのゲストルームから妙な声が聞こえてきた。そっと覗いてみると、二人は性交の真っ最中だった。必死に声を抑えようとしていた深琴さんの艶っぽい喘ぎ声に、俺の性器は敏感に反応した。俺にはもう触らせてくれないおっぱいを透さんには触らせていた。触らせるというより、執拗に弄ばれているように見えた。乳首を舐められ、吸われながら、深琴さんの一番大事な部分には、透さんの大きな性器が出たり入ったりを繰り返していた。透さんが羨ましい…。俺の大好きな深琴さんをあんな風に独り占めするなんて許せないと憎しみさえ湧いてきた。羨ましさや憎しみと同時に、性欲も抑えられなくなり、二人の秘め事を覗きながら、気づけば自慰にふけっていた。悔しい状況のはずなのに、自力で止められない自慰は虚しいものだと気づいた。小4の夏休みのことだった。
 
 決して手の届かない人妻だとしても、深琴さんに会えているうちは幸せだった。側にいられるだけで良かったのに、「あのこと」があって以来、うちに透さんと深琴さんが来ることはなくなり、五人で会う機会もなくなった。
 
 俺が中3になったばかりの春、母から妊娠していることを告げられた。弟か妹が生まれることは純粋にうれしかった。いや、純粋な喜びではないかもしれないけど。一人っ子だったから、父から俺が結生産婦人科医院の跡取りになることを期待されていた。それが重荷だった。兄弟が増えれば、俺にこだわることはなくなるだろうし、できれば生まれてくる弟か妹の方が病院を継いでくれればいいと思った。父や透さんと比べたら頭は良くない方だし、他に何か夢があるわけでもないけど、できれば医師にはなりたくなかった。それなのに中学は進学校に入学させられ、高校も医大受験に有利な進学校を受けることを勝手に決められていた。
 
 41歳の高齢出産ということもあり、父は自分の病院で出産させるのではなく、また透さんが勤めている大学病院にお願いすることにした。父も母も俺も、透さんに任せておけば大丈夫と安心しきっていた。
 
 推薦入試で父が希望した通りの志望校に受かり、後は弟が生まれるのを待つだけになっていた2月10日。その日、透さんのいる大学病院で母は出産した。けれど弟は死産だった。
「透に任せておけば大丈夫って思ってたのに…どういうことだ?設備の整っている大学病院だっていうのに、何もできなかったのか?」
自分の患者の分娩を終えた父が大学病院に駆けつけると、透さんに怒りをぶつけていた。
「あなた…透さんは何も悪くないのよ。きっと私が悪かったの。高齢で体力も落ちていたと思うし…。」
泣くことはない人形のように静かな赤ん坊を抱きながら話す母の側で、俺は黙って立っていた。深琴さんは黙って俺の側にいてくれた。
「遥人…すまなかった。陣痛は順調で、予定通り自然分娩のはずだったんだが、生まれる直前になって赤ちゃんの心拍が急減に弱まってしまったんだ。慌てて帝王切開に切り替えたが、取り上げた時にはすでに心拍は停止していた…。助けられなくて申し訳なかった。」
透さんは父に向かって、肩を震わせながら深々頭を下げた。
「高齢出産なんだから、最初から帝王切開にしておけば、もっと早く、この子が死ぬ前に取り上げることはできたんじゃないのか?死なずに済んだんじゃないのか?」
父はさらに声を荒げた。父の肩も震えていた。
「あなた、自然分娩を希望したのは私たちの方よ。透さんは帝王切開も勧めてくれたのに、私が可能な限り自然分娩でってお願いしたの。それにあなたも産婦人科医だから分かるでしょ?お産は100%母子が生き延びられる保証はないのよ。子や母親が命を落とす可能性はゼロではないの…。」
一番悲しいはずの母は気丈にふるまっていた。
「そんなことはおまえに言われなくてもわかってる。わかっているけど、こんなことになるなら、大学病院…透に頼るより、自分の病院で出産させれば良かった…。自分の手で取り上げれば良かった…。」
声を震わせながら父は、母の腕から生まれたばかりの冷たくなった我が子を抱き寄せた。
「愛心(まなと)…ごめんな。お父さん、お医者さんだったのに、おまえを助けてやれなくて。」
性別が確定した時、弟の名前は「愛心」にしようと両親は決めていた。遥人、千紗都、幸与…。うちの家族はみんな「と」で終わるから、「と」で終わる名前をいろいろ考えたらしい。生まれてくる赤ちゃんの名前を知った深琴さんは「そう言えば、私も「と」で終わるわ。あなただけ仲間外れね。」って透さんにいたずらっぽく笑っていた。透さんも「「と」で始まるから、俺も仲間に入れてよ。」って笑ってた。母と父は膨らみ始めていたおなかをさすりながら微笑んでいた。昨日まで四人とも笑顔で、四人が笑ってくれてたら、俺はそれだけで幸せだったのに…。
 
 死産はたしかに悲しいけれど、母の命は助かったんだから、良かったじゃないかと俺は思った。もしうちみたいな小さな病院で出産していたら、母も命を落としていたかもしれないし…。弟と母の命、どちらかしか救えない状態に陥ったら、俺は迷わず母の命を助けてほしいと懇願する。でもそれは親子だからそう思うだけなのかな。父や母からすれば弟は我が子だから、自分たちより子の命を優先してほしいと願うのかもしれない。あんなに負の感情を露わにしている父の姿を見たのは初めてだった。いつも仲の良い四人がこれほど気まずくなった状況を俺は見たことがなかった。たった一つの命が生きて生まれられないだけで、こんなに大人たちが動揺し、すべてが崩れるなんて、命って恐ろしいと思った。命の重みを、弟が死産だったおかげで知った。
 
 父は愛心が死んで以来、自分の病院での分娩をやめた。建前は個人医院での分娩はリスクがあるし、分娩は大病院に集約されつつある時代だからというものだったけれど、本音では怖くなったんだと思う。怖さと同時に、我が子を救えなかった自責の念に駆られたのだろう。
 透さんの方も責任を感じたのか、長年勤めた産科から離れ、分娩は行わない不妊治療専門の婦人科医に転身した。ということを大学病院のサイトで知った。透さんや深琴さんとの接点がなくなった俺は、もう一組の両親と疎遠になってしまった気がして寂しかった。
 
 父の思い通りの高校に進学した俺だったけれど、もはや父は医師になることを勧めては来なかった。親の期待から解放されたというのに、医大を目指す学生がほとんどの学校に通っていたから、居心地は良くなかった。むしろ居場所がなかった。医者にならなくて済みそうだけど、だからと言って、将来やりたいことなんてまだみつからない。将来のことより、深琴さんに会いたかった。昔みたいに何の気兼ねもなく、定期的に家族ぐるみで会えたら、それだけでいいのに…。
 
 愛心の三回忌が終わった翌日。高2の2月11日。昨日も家族でお参りした結生家のお墓に何となく足が赴いた。何かに引き寄せられるように。
「あっ…深琴さん…。」
愛心が眠っているお墓の前にしゃがんで、手を合わせている人の姿をみつけた。
「幸与くん…。」
彼女は少し驚いたように俺の方を見た。
「お参り…してくれてたんですね。ありがとうございます。」
「命日の当日は幸与くんたちと鉢合うと思って、2月10日の前後に来てたの。今日は、透は研究が忙しいとかで来られなかったけど、二人で来ることもあるの。」
「そうだったんですか…。愛心も喜んでいると思います。久しぶりだし、どこかで少し話しませんか?」
深琴さんと会えるなんて滅多にないチャンスと思い、俺の方から彼女を誘った。
「そうね…。幸与くんのお母さんたちに一緒にいるところを見られたら良くないと思うから、外じゃなくて、うちに来る?」
久しぶりに深琴さんの家に行けることになった。
 
 「透は今夜、大学で徹夜の予定で帰れないかもって言ってたから、ゆっくりして行ってね。」
透さんもいなくて深琴さんと二人きりなんてうれしい。もう子どもじゃないし、何かしてもいいってことかな。それはあり得ないか。
「ありがとうございます。久しぶりに深琴さんに会えてうれしいです。その…俺にとって深琴さんは大事な人だから…。第二の母親みたいな存在だし。」
「幸与くんにそう言ってもらえて私もうれしいわ。私だって、幸与くんは我が子同然だから。高校生になったらまた身長伸びたよね。」
紅茶とクッキーを運んで来た彼女は俺の隣に座ると、頭をなでてくれた。軽く頭に触れられただけなのに、股間が反応してしまって、俺はとっさに彼女から離れてしまった。
「ごめんなさい。つい、子どもの頃みたいに気軽に触れてしまって…。嫌だったよね。」
「ち、違うんです。その…俺…もう子どもじゃないから…っていうか子どもの頃から性欲が抑えられないことがあって。特に深琴さんが側にいてくれると…。」
「えっ…?」
俺はズボン越しに、はち切れそうになっている部分を隠すことをやめて、彼女に近づいた。
「あっ…そっか…。ごめんね。もう子どもじゃないもんね。でも私、おばさんだよ?幸与くんのお母さんと同い年だし。」
今度は彼女の方が俺からぱっと離れた。
「母と同い年とか年齢とか関係ないです。俺は小さい頃からずっと深琴さんのことが…。」
告白を遮るように彼女が急に口を挟んだ。
「待って。幸与くんの気持ちはうれしいけど、私は幸与くんみたいな若い子から慕われる資格はないの。偽善者みたいなものだから…。」
「どういうことですか…?俺は深琴さんがどんな人間だとしても、深琴さんのことを嫌いになったりしません。」
彼女は紅茶を一口飲むと静かに語り出した。
「私ね…本当に幸与くんのことを自分の息子代わりに思ってたの。幸与くんも知っての通り、透とはなかなか子どもが授からなくて、子どもがいないからっていう理由と、それから、昔、産めなかった子がいるから…。」
「えっ…産めなかったって…?」
「高校生の時にね、中絶したことがあるの。私は産みたかったんだけど、相手にも親にも猛反対されて…。そのことを透には話したことないんだけど、医者だし薄々気付いてはいるかも。」
清純そうな深琴さんが俺と同じくらいの歳で中絶を経験していたなんて信じられなかった。正直、少しショックだった。
「幸与くんが生まれた時、千紗都ちゃんから名前を聞いて驚いちゃった。もちろん幸与くんのお母さんにも中絶の話はしたことないのに、私が産めなかった子に考えていた名前と同じだったから。雪音(ゆきと)って名付けようと思ってたの。だから、なおさら幸与くんに愛情を注ぎたくなってしまって…。ごめんね、自分のエゴで、自分を慰めるように幸与くんのことをかわいがってしまって。」
「深琴さん…透さんや母さんにも話したことない過去を俺に教えてくれてありがとうございます。つらい過去なのに話してくれてうれしいです。深琴さんがどんな理由であれ、母さんと同じように俺のことをかわいがってくれて、俺は幸せでした。だからこれからもまた時々こうして二人で会いたいです。雪音くんと同じ名前で良かったって思います。」
「幸与くんはやさしいね。ありがとう。でも…その…身体が大人になってしまったのなら、二人きりで会うのは控えた方がいいのかもしれないわね。」
少しは落ち着いたものの、まだやや膨らんでいる俺の股間をチラ見した彼女が言った。
「こっ、これなら、大丈夫です。我慢できます。一人で処理できるし。深琴さんが話してくれたから、俺も誰にも話したことのない秘密を深琴さんに話します。俺…生まれる前から性欲が旺盛みたいで、胎児の頃にはすでに自慰を習得していたんです。母親の子宮の中で、自慰していたんです。透さんに取り上げてもらう前、生まれる直前もしてた記憶が残ってて…。信じてもらえないかもしれませんが…。」
「そう…だったの。そんなことがあるのね。幸与くんが嘘つくなんて思えないから、信じるわ。私も記憶が残っていないだけで、そうしていたかもしれないし。女だけどね、性に関しては早熟な方だったから…。」
「信じてくれてありがとうございます。白状しますが、深琴さんが抱っこしてくれてた頃から、していて、その…おっぱいとかおかずにしてました。」
「まぁ、そうだったの。全然気づかなかったわ。私、早熟で妊娠経験も早かったのに、産まなかったから、バチが当たって、今は不妊症なんだと思ってるの。あの時、誰に反対されても産んでたら、雪音に会えたのにね…。」
「バチが当たるなんてことはないと思います。雪音くんが深琴さんを苦しめるようなことするわけないし。俺が雪音くんになりますから。深琴さんが雪音くんにしてあげたかったこととかあれば、何でも代わりにしてください。」
「幸与くんは本当にやさしいのね。そうよね…雪音が私に悪さするなんて考えたらかわいそうよね。雪音にしてあげたかったことは幸与くんが子どもの頃にいっぱいさせてもらったけど…本当はまたおっぱいとか触ってほしいの。幸与くんに触れてほしい。幸せな気持ちになれるから。でも…幸与くんは困るよね?」
「深琴さんのためなら、俺は我慢できます。一線を越えるようなことはしませんから。深琴さんが幸せを感じてくれるなら、喜んで深琴さんのおっぱいを触りますよ。」
彼女の方からおねだりされたことをいいことに、俺は彼女のおっぱいに手を伸ばした。
「あっ…幸与くん。」
「深琴さんの久しぶりのおっぱい…柔らかくて気持ちいい…。」
おっぱいを揉むと彼女は吐息を漏らした。おかげで俺の股間はすぐにまた、はち切れそうになった。
「直に触ってもいいですか…?」
「えっ?…うん…お願い…。」
彼女は自らブラウスのボタンを外し、ブラジャーを見せた。
「すごい…俺の大好きな深琴さんのおっぱいだ…。」
ブラのホックを外し、彼女のおっぱいに顔をうずめた。
「深琴さん…乳首吸ってもいいですか?」
「う、うん…。」
我慢できなくなった俺は、左手で彼女の乳首をコリコリしながら、もう片方の乳首を思い切り吸った。
「あっ…んっ…幸与くん、ダメ…気持ちいいっ。」
今このままソファーの上に押し倒せば、彼女と性交できるかもしれない。透さんがいない今なら、可能かもしれない。こんなチャンス二度と訪れないかもしれないし。
「深琴さん…俺…我慢するとか宣言したけど、やっぱり、我慢できません。」
ズボンを脱ごうとした瞬間、玄関のドアが開く音がした。慌てて、彼女にブラウスを着せようとしたけれど、間に合わなかった。
 
 「深琴に…幸与くん…?二人で何してたんだ?」
「なっ、何もしてません。透さん、お邪魔してます…。」
「あなた、今夜は帰れないとか言ってなかった?幸与くんは何も悪くないのよ。全部私がお願いしたことだから。子どもの頃みたいに甘えてほしいって…。」
彼女はブラウスのボタンをかけながら必死に弁解していた。
「別に怒らないよ。幸与くんはもう子どもじゃないもんな。そろそろ頼みたいと思ってたから、ちょうど良いよ。あんなことがあったから、なかなか会いにも行けなかったし…。」
慌てる俺たちをよそに、透さんは怒る様子もなく、意外なほど冷静で、逆に不気味に思えた。
「幸与くんが深琴のことを女として好きなのは知っていたよ。子どもの頃から未だに思っていてくれたとはね。今でも深琴のことを好いていてくれるなら、頼みやすいよ。」
「あなた、さっきから頼む頼むって何を幸与くんにお願いしようとしているの?」
「私たちの子…不妊治療をしてもなかなか育ってくれない子に、幸与くんが話しかけて、生きる力と生まれる力を吹き込んでほしいと思って。」
「どういうことですか…?」
話の見えない俺は透さんに尋ねた。
「不妊治療の専門医になる前から、深琴と私は不妊治療をしていてね。何度か着床まではこぎつけたんだが、胎児が育ってくれなくて…流産を繰り返す、不育症なんだ。」
「そうだったんですか…全然知らなくて…。」
「幸与くんには話したことなかったから…急にこんな話、聞かせてごめんなさいね。」
「不妊治療の研究をしているうちに、分かったことがあるんだ。胎児の生きる力や生きたい力を引き出すことが必要だと。出産は親たちだけががんばってもどうにもならないんだ。子の方が生まれたいと生命力を高めてくれない限り、無事に生まれることはないと。」
「なるほど…それは理解できましたが、どうして俺なんですか?どうやって透さんと深琴さんの子に生きる力を俺が与えられるんですか?」
「幸与くんが深琴をおかずに自慰しているのは気づいていたよ。性欲旺盛な人の方が生命力を引き出せると研究で分かったんだ。もうじき受精卵を深琴の体内に戻す予定だから、流産してしまう前に胎児と対話してほしい。深琴の身体の負担や年齢を考えると、次の妊娠がラストチャンスになると思うんだ。」
「胎児と対話…?話すってどうやってですか?」
「海外の研究によると、性欲旺盛な人が妊婦と性交することによって、胎児と話せるようになるケースがあるらしい。つまり深琴が無事、妊娠したら、深琴と性交してほしい。」
「み、深琴さんと性交するなんて…。俺、まだ高校生だし、そもそも透さんって旦那さんがいるのに…。」
「さっき俺が帰って来なかったら、二人はしてただろう?何も今さら、うろたえることはないよ。高校生でも18歳以上なら大丈夫だし、主人の私が許可しているんだから、何も問題ないよ。あっ、でも幸与くんはまだ17歳か。あと2ヶ月もすれば18歳だからタイミング的にちょうどいいよ。」
「透さん、さっきから勝手なこと言わないで。幸与くんが困っているじゃない。私たちの子のことで、幸与くんを巻き込みたくないわ。」
「たしかに…幸与くんの弟の命を救えなかった私が、私たちの子の命を救ってほしいなんて幸与くんに頼むのは虫が良すぎると思うが、研究すればするほど自分の力に限界を感じるんだ。性欲=生命力と言っても過言ではないほど、性欲に溢れている人は医師以上に胎児の生きる力を引き出す才能を持っているんだよ。しかもなるべく妊婦に対して愛情を注いでくれる人の方が胎話師にふさわしいとされている。」
「胎話師…?」
聞き覚えのないフレーズに深琴さんと俺は口を揃えて尋ねた。
「胎児と対話できる特別なスキルを兼ね備えた人のことだよ。幸与くんには、きっとその素質があると、私は信じている。深琴がこれから妊娠する子と話をしてくれる、ふさわしい人は誰かずっと考えていたんだが、やっぱり幸与くんしかいないよ。」
ふざけている様子は微塵もない透さんは神妙な面持ちで言った。
「深琴さんと、せ、性交して、胎児と話すなんて無理です。俺には胎話師なんて無理ですから!」
 
 慌て始めた俺の耳に知らない声が飛び込んできた。
「悪い話じゃないと思うよ?ずっと憧れていた深琴さんとエッチするチャンスなんだから。ぼくを使って胎話師になるための練習をすればいいよ!」
パニックによる幻聴まで聞こえてきた俺は一体、どうなってしまうんだろうか…。

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