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ブルーオーシャン戦略から学ぶ競争優位の築き方 - 核となるバリューイノベーション


伝統的な3つの競争戦略

競争戦略の型は、伝統的に3つに分類されます。

一つ目は、コストリーダーシップ戦略です。

これは企業が競争上の優位性を築くために、競合他社よりも低コストで商品やサービスを提供する戦略です。

一般的にこの戦略を取る企業は、コストを最小化し、オペレーションの効率性を追求することに重点を置きます。

代表的な例としては、マクドナルドやウォルマートが挙げられます。

二つ目は、差別化戦略です。

これは同じように企業が競争上の優位性を築くために、他社とは異なる独自の特徴や付加価値を持つ商品やサービスを提供する戦略です。

この戦略では、顧客に対してオリジナリティや特別感を提供し、競合他社との差別化を図ることが重要になります。

代表的な例は、アップル、そしてシンガポール航空も近しい戦略を執っていると言われています。

どちらかというと以上2つの戦略は、幅広い顧客層を対象に商品やサービスを提供している場合における競争優位の構築方法ですが、それ以外にも集中戦略というのがあります。

これは企業が特定の市場セグメントや地理的領域に集中して事業展開し、競合他社との競争上の優位性を築く戦略です。

この戦略では、企業は特定の市場セグメントや地域での専門知識やリソースを集中的に活用し、競争相手よりも優れた価値を提供することを目指します。

代表的な例は、フェラーリやロレックスです。

彼らはターゲットとする富裕層のニーズを深く把握し、それに応えるように製品サービスをカスタマイズすることで、その特定の市場の中で圧倒的なポジションを確立しています。
 
海外市場で戦う日系企業の戦略を見ていると、日本というブランドを活かした差別化戦略を取るケースが伝統的に多いのではないでしょうか?

ローカルの競合ブランドよりも少し値は張りますが、その分質が高いですよ、という謳い文句です。

実はこれら3つの戦略すべてにリスクがあります。

伝統的な3つの競争戦略のリスク

コストリーダーシップ戦略のリスク

コストリーダーシップ戦略の一つ目のリスクは、価格競争の激化です。

つまり、競合他社と値下げのチキンレースになってしまい、結果両社共に利益を失う可能性があります。

これは日本の牛丼業界の様な寡占状態で発生しやすい傾向にあります。(他社が10円下げたら、こちらは20円下げる等)

またコストリーダーシップ戦略を取るためには通常、大量生産、仕様の標準化、集中購買といった規模の経済を働かせることで単価を落とすという方法が取られます。

つまり相応の投資が必要となりますが、顧客のニーズが変化し、自社製品に見向きもしなくなると、これまでの投資が無駄になる可能性があります。

例えば、トヨタ自動車はガソリン車に対して圧倒的なプレゼンスを誇ってきましたが、市場が電気自動車に全面的にシフトした場合、これまでの投資が負の遺産になるということが起き得ます。(トヨタ自動車は「全方位戦略」を採ると宣言したので、実際にはそうならない可能性もありますが)

その点、差別化戦略のリスクはなんでしょうか?

差別化戦略のリスク

それは他社の模倣により、自社の差別化要因がなくなってしまうことです。

これをコモデティ化と呼び、一般的には模倣してきた競合の方が低価格に抑えるケースが多いため、そちらに顧客が流れてしまうケースを指します。

例えばiPhoneが切り開いてきたスマホ市場ですが、アップルの市場シェアは2023年時点で25%程度です。

これはサムソンを中心とした後発組が圧倒的に安くかつ機能性も良い製品を市場に投入したからです。

またメイソウ(名創)という、ロゴはユニクロ、商品ラインナップは無印、ブランド名はダイソーといった様な誰が見ても模倣しているのでは?と思ってしまうような中国企業がありますが、今では世界80ヶ国に展開するまでに市場を拡大しています。

メイソウの看板

もう一点、差別化というのは一般的に競合製品・サービスとの差別化を指します。

そのため、分析対象が顧客のニーズではなく競合が中心となってしまい、結果差別化はできてもそこに市場がない、ということが起きかねません。

集中戦略のリスク

その点、徹底的に目の前の顧客に集中する集中戦略は顧客ニーズを見失うリスクは少ないものの、それだけ市場範囲を狭めることになるため、売上や利益規模に限界がやってきます。

この様に、伝統的な競争戦略は分かりやすい一方、全てにリスクがあり、結局どれをとっても厳しい競争にさらされるというのが実態です。

そこでこの伝統的な枠組みから抜け出し、新たな価値や競争優位を生み出す源泉としての各社イノベーションを生み出そうと必死になっています。

新たな価値・競争優位を生み出す源泉としてのイノベーション

一言でイノベーションと言っても、以下の様にいくつか種類があります。

  • 製品 - ダイソン 等

  • プロセス - ジャストインタイム、トヨタ生産方式、自動化 等

  • ビジネスモデル - Uber、Netflix,、Amazon 等

  • マーケティング - SNS、Digital、パーソナライズド 等

今回の記事ではこういった数々のイノベーションの中でも、ブルーオーシャン戦略で登場する「バリューイノベーション」に焦点を当てたいと思います。

バリューイノベーション

多くの企業が、コストリーダーシップ戦略、もしくは差別化戦略、といったように戦略の型を「選択」します。

しかし、無料で優良なサービスを受けることに慣れている今の時代の消費者は「いいものを安く欲しい」を考えがちです。

これはアジアの文脈だとより顕著といえ、価格に敏感且つシビアな市場なため、一部のブランド品を除けば安さが必要条件になります。

そういった意味で、品質や機能性が良くとも価格が他社に比べて相対的に高いが故に選択されず、苦しむ日系企業は少なくありません。

顧客の心をつかみ、競合に対して頭一つ抜け出し、過度な競争にさらされず、ブルーオーシャンのメリットを享受されるためには、価値と価格の両方を追求する必要があります。

そういった意味で、コストリーダーシップ戦略もしくは差別化戦略の選択をしてしまっている時点で、自らレッドオーシャンに足を踏み入れている、ということになります。

バリューイノベーションの事例

それができればそんな楽なことはない、というのが多くの方の反応ではないでしょうか?

但し、この様な経営理論は実務の成功事例を研究して構築されるので、理論があるということは必ずそれをサポートする事例があります。

キンバリー・クラーク(Kimberly-Clark Corporation)という、アメリカ合衆国に本社を置く世界的な消費財企業の事例です。

同社は、パーソナルケア製品、紙製品、ヘルスケア製品などの製造および販売を行っています。この事例はブラジルにおけるトイレットペーパーの事例です。
 
トイレットペーパーという究極の消費財、コモデティをの売り上げを伸ばそうとする場合、皆さんだったらどうしますか?

典型的なオプションは、香りを付けたり、品質を上げたり、3枚重ねにして柔らかくする代わりに値段を上げる差別化戦略か、再生紙を用いてできるだけコストを下げるコストリーダーシップ戦略です。

ただ繰り返しになりますが、これだとどちらに進んでもレッドオーシャンになります。

それではこの会社が何をしたか見てみましょう。

https://www.facebook.com/watch/?v=539962876651831

イノベーションは実はシンプル

キンバリー・クラークは具体的に何をしたのでしょうか?

一言で言うと、トイレットペーパーを圧縮しただけです。

これがどのようにブルーオーシャンを生み出したのか見てみましょう。

まず以下の通りコストが下がり、結果粗利が20%以上改善しています。

  • Lower transportation costs

  • Lower packaging costs

  • Lower warehousing costs

通常費やすコストを下げると顧客提供価値も合わせて下がりがちですが、逆に以下の通り顧客が感じる価値が上がります。

  • Easier to carry home

  • Easier to store

  • Better for environment (eco-friendly paper, less packaging, less transportation)

つまり顧客が価値を感じていない部分を削り、逆に価値を感じている部分に集中する。

これによって、コストダウンと価値の向上の両方を同時に実現する。

これがバリューイノベーションの考え方になります。

アジアの事例

先ほどは代表的な事例としてブラジルのケースを紹介しましたが、アジアでもブルーオーシャン戦略のケーススタディとして挙げられる事例があります。

1) QBハウス

利用したことがある方は分かるかもしれませんが、QBハウスには一般的な理髪店にありがちなシャンプーや予約といったサービスはなく、提供しているのは予約なしのカットのみです。

これによってスペースを含めた無駄を徹底的に排除し、便利な場所で早く安いサービス(顧客価値の向上)を提供し、アジアでも成功を収めています。

ちなみに10分で1,000円ということは単純に計算すれば1時間あたり6,000円の売上となり、通常の理髪店よりも高単価になります。

しかし、顧客からすると早くその分安いという価値が得られるため、期待値も下がり、相対的な満足度も高くなるという仕組みが出来ています。

2) AirAsia

AirAsiaは、アジアで成長を続けるLCC(格安航空会社)です。

AirAsiaは、通常航空券とセットで提供される機内食、手荷物、座席指定等を基本サービスから除外し、有料化しました。

更に特定のエリア・航路に集中投資する(全世界に飛行機を飛ばさない)ことで、アジアにおいて圧倒的な安さで高い利便性を実現しています。

3) アイリスオーヤマ

アイリスオーヤマは、売れる金額を初めに考え、それを元にその販売価格に収まるように開発を行っています。

つまり引き算の考え方で製品開発を行うことで、顧客にとって価値を感じない機能をそぎ落とし、デザインをシンプル化し、その分価格を落とす戦略を取っています。

例えば、ドラム式洗濯機では乾燥機能を使っていない世帯が多い事を受けて、価格を抑えるために乾燥機能をなくし、また4Kテレビでは最近では多いネット配信機能を付けていません。

まとめ

未開拓の市場やニーズの見つけるためには、ブルーオーシャン戦略が提唱するバリューイノベーションが新しい発想をくれます。

端的に言うとコストリーダーシップ戦略と差別化戦略の統合版で、顧客が求めていない機能を省くことでコストを下げ、その分顧客が求めている価値を上乗せすることで、コスト競争力がある形で他社と差別化するという考え方です。

特にアジアではいいものは多少高く買ってくれるという仮説は通用しにくいですし(高くするなら集中戦略で徹底的に高くする必要がある)、戦う前から「ローカルと価格競争をするのは無理」という決めつけも起きやすい傾向にあります。

その一種の思い込みを一旦脇に置き、顧客視点で削る価値、上乗せする価値をデザインすると、競合がいない自分達だけのスペースが出来上がるかもしれません。

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