春の雨、鹿児島におでかけ
「鹿児島に雨が降るのは縁起が良い」
と、『旅サラダ』で向井亜紀さんが言っていた。
理由は分からないけれど、向井さんがそう言うならそうだ。
数々の念願を叶えるために、鹿児島へちょっと遠出をしたこの日の降水確率は90%
数日前から天気予報をチェックしても
変わらない数字に悲しさが募るも、
あの言葉が唯一心の救い。
とはいえ、
「そんなに大雨ではないと思うよ〜」と言っていた母の予想は的中し、実際は小雨だった。
春の雨らしいな、と思う。
降水確率の高さを、そのまんま降水量の多さに感じてしまうのは小さい頃から謎。
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目的地へと向かう道中、桜島が見えた。
高速で片道1時間半程度のところなのに、
桜島を実際に見たのは初めて。
「桜島って本当に大きいんだね!!」
火口も裾も、ものすごく大きい。
家々があまりにもミニチュアすぎる。
桜島が大きいというのは周知の事実だけれど、
実際に目で見て、空気に触れて、
その大きさを体感して、ようやく
世の人がいう「桜島は大きい」を、私も私の感情どおりにそう言葉にできるのが、嬉しい。
大きな大きな桜島は、私たちが鹿児島に到着したのも見逃さず、どすんと構えて「ようこそ」と迎えてくれているようで、
「おはようございます、お邪魔します」と答えたのは自然な流れだった。
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そうしてまず辿り着いたのは、
「ぢゃんぼ餅 平田屋」さん
縁側の窓越しに見える海と桜島。
晴れていたら爽快な気分を味わえるのだろうけど、曇り空も曇り空で、なんだか風情があってよい。
店内、(というかお家の中)には、おばあちゃんの椅子と赤ん坊の椅子が共存してほっこりするし、絵巻物の抜粋や、絵画、書も飾られていて、まるで美術館。
「『じゃんぼ餅』じゃなくて『ぢゃんぼ餅』ってところが可愛いよね」
と会話していると、話題のぢゃんぼ餅がテーブルに届いた。
1皿に10本並べられた両棒餅。
わずかな湯気を立てている。
お餅が透けてみえる薄茶色のたれをたっぷりと絡めていただく。
びよ〜んと伸びるお餅。
香ばしさが口に広がって、数回噛むだけですぐに舌の上で溶けて消えてゆく。
両棒餅って飲み物なんだ。(違う)
たれは、甘じょっぱいの甘に寄りすぎるでもなく、じょっぱに寄りすぎるでもなく、味も濃すぎない、ちょうどよい塩梅。
すぐ消えてなくなってしまう美味しい食べ物、いや飲み物、泣ける、、。
次も食べ物が控えていたので、この日は母と2人で1皿いただいたけれど、1人1皿なんて余裕。
「おかわり、、は危ういよね?」と聞く母に「うん、念の為おかわりはやめておこう」と言ったけれど、
できることならおかわりしたかった。
また近々お邪魔したいし、今度は同じ海岸沿いにある桐原家さんや中川家さんの両棒餅も食べたいな。
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海沿いを走り、鹿児島の坂を登りきって出てきた住宅街。
またしばらく走ると、次のお目当て
「TAK BAGERI CAFE」さん。
ここには、私の迎えを待っているパンがいるというので、お迎えにあがった
(=予約を取りに行った)
お待たせ、「パネットーネクラシコ」🤍
昨年、日本初のパネットーネコンテストで、見事優秀賞を受賞されたタックバゲリさんのパネットーネクラシコ。
最優秀賞、優秀賞を受賞したパン屋さんの名前の後ろには「東京」「神奈川」と書かれ、
「そうか〜そうだよな〜」と世の先端は関東だと悟る中、
九州出身の私にとってなんとも見慣れた文字、「鹿児島県鹿児島市」が。
こ、こ、これは買いに行かねば!!と使命感に駆られ、予約をしたのでした。
他のパンを選ぶことよりも、私は早くパネットーネに会いたい気持ちでいっぱいいっぱい。
もう全部美味しいに決まってるから、と母のパン選びも少し急かすようにして会計へと進み、平然とした顔で言う。
「パネットーネを予約していました、」
(次の日)
「あ〜パネットーネ楽しみ」と何度口に出したことが分からないくらい楽しみにしていたパネットーネが、想像を超えてた。
袋を開けた瞬間、オレンジピールの爽やかすぎる香りと、バニラビーンズと洋酒の芳醇な香りが、これでもか!というくらいブワッと広がり、目が眩む。
口に入れた瞬間パサっとしているかと思いきや、噛むとしっとり舌に馴染んでいってとても口溶けがよい、、。
ずっとこの香りを嗅いでいたかったし、あまりの口溶けの良さに、パネットーネを裂く手が止まらなかった。
そして、裂いた後の断面にみられるこの大きな気泡。
酵母の力で自然とできたものを化石化したみたいで、パンは“生きもの”なんだということを、ひしひしと感じる。
あわよくば、この穴の中に住みたくて、この穴の中で眠りたくて、でもそれは無理なんだと思ったら悲しすぎて、おでこがテーブルへと落ちてゆき、コツンと音を立てました。
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話は戻り、パネットーネ以外に買った、タックバゲリさんの素晴らしく美味しいパンたちでお腹と心を満たし、桜島を見ながら鹿児島の空気で深呼吸。
さらに心を満たしたところで、次に向かったのも、念願だった場所。
珈琲と民藝の喫茶店「可否館」さん。
柚木沙弥郎さんの絵画や小鹿田焼、沖縄のやちむんやガラス工芸などが店内に展示され、
テーブルや椅子も全て松本民芸家具のもの。
実は、店主の方が私の地元と繋がりのある方なのだけれど、そういうこととは関係なしに、とても心の広い方で、珈琲や民藝のこと、空間づくりのことなど、さまざまなことを教えていただいた。
心地の良いテンポ感でお話しができて、本当に貴重な時間だった。
私がいただいた珈琲は「サン・イルガチェフ」
ネルドリップの深煎りコーヒーなのが、ここの特徴なのだけれど、この深くて渋いけれど温かみのある味わいが、とても店主の方らしいなあと思えて、微笑ましかった。
春夏秋冬で、内装も変化させているらしい。
また今度お邪魔した際は、その季節ごとの民藝も楽しみながら、珈琲とデザートをいただきたいな。
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帰路に着く。
写真フォルダを見返すと、念願が叶った証で埋め尽くされ、幸せで心がふわふわする。
夢だったものが現実になり、私は実際にそれらを目で見たり手に触れたりできたんだというのが信じがたくも、嬉しい気持ち。
でも、その片隅に、夢が過去になってしまったという寂しさも。
けれど、「また行こう」という夢ができたから、過去になった夢も、さらにアップデートしてまた未来にすればいいねって思えた。
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鹿児島、実はまだ行きたいところがある。
まったく。
鹿児島ばかりに行ってられないのだが?
でも、とりあえず待ってて鹿児島。
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