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「back check」6ヶ月間でエンタープライズシフト成功の舞台裏

はじめに

株式会社ROXX COOの山田です。またnoteの更新に随分と時間が空いてしまいましたが、今回はこの半年間チャレンジしていたことの成果が出始めてきたので、その振り返りをまとめていければと思います。本記事の概要は「立ち上げ2年のタイミングのSaaSがエンタープライズシフトに成功したプロセスを振り返る」というものになります。何かしらお役に立てる可能性がある読者は「SaaSに携わっている方」「HR tech事業に携わっている方」「戦略レイヤーに関わっている方」「スタートアップ企業に携わっている方」と想定しております。従前から最大限リアルかつ具体的なことを書くことで、どこかの自分のようなCOOの方々にお役立ちできないかと思い書いてきましたので、今回も可能な限りそのようなスタンスでまとめていければと思います。長文となりますがこの半年間の山田の試行錯誤にお付き合いいただけると嬉しいです。

back checkとは

まず最初にこの記事の主役となる「back check」について簡単にご紹介いたします。back checkはオンライン完結型のリファレンスチェックSaaSです。採用選考において一緒に働いたことがある同僚や上司からの評価を取得するリファレンスチェックをSaaSで簡単に実施可能にしたプロダクトになります。2019年11月にリリースし、最初の1年でARR1億円を突破し順調なスタートを切りました。

なぜエンタープライズシフトしたのか

この物語は2021年10月に山田がback checkの事業責任者になったところから始まります。COOという肩書きがついていますが、自分のスタイルはROXXという会社の最も大きな課題やレバレッジがかかるところを見極め、その時々でどこに注力していく形をとっています。当時のROXXにとって、まさしくその対象がback check事業でした。リリースして2年。最初は順調だった事業が大きな壁にぶつかっていたのです。この壁を乗り越えることが最もROXXを前進させると判断し、back checkに全集中することを決め2021年10月に事業責任者に就任しました。

本題はback checkのエンタープライズシフトをどう成功させていったのかのプロセスなのですが、そこに入る前に同程度重要である、なぜエンタープライズシフトを行なったのかについて当時の自分が何を考えたのか振り返り、まとめます。back checkがぶつかった壁はSaaS事業にとって最も普遍的で、多くの方々がぶつかる壁ではないかと思います。当時の状況や課題、そして事業の継続的な成長の観点からの思考等を含めて三つの視点でエンタープライズシフトの理由を振り返ります。

ARR3億円の壁

一言で言えば当時のback checkはARR3億円の壁にぶつかっていました。ARR1億円を超えてから3億円に到達するまでの間でARR成長が止まってしまったのです。具体的に以下のような事象が起きていました。これらを抽象化してARR3億円の壁と称します。

  • 「イノベーター」と呼ばれるような、日本においてまだ浸透していないリファレンスチェックに対して前のめりの顧客を一定開拓してしまい、新しいチャネルや概念認知の大きな浸透がない限り新規獲得ペースを上げるのが難しくなってしまった

  • 「年間契約」における契約更新が常時発生するタイミングに突入し解約が一定積み重なることでNetMRRが増加しなくなった

  • どのような顧客が使い続けてもらえる顧客かの定義がないまま獲得が進んでいたため、カスタマーサクセスのサポートだけで解約を防止することが難しい顧客が含まれており、解約を減らすことが難しかった

  • 特に最初は開拓のしやすさでスタートアップ企業中心のターゲッティングとなっており、突然の採用ストップによる解約が多かった

  • 事業の成熟以上に組織の拡大が大きくなり組織マネジメントの難易度が上がり、組織課題が大きくなっていき実行力が下がっていった

  • 事業スタート時に掲げたビジョンと事業成長のための意思決定を接続する組織的コミュニケーションの余裕がなく、経営と現場での乖離が広がった

SaaSは年間契約の場合が多く、ARR1億円までは契約更新の対象企業がそもそも少ない中で進行していくので、新規獲得MRRがそのままNetMRRの増加につながっていきますが、ARR3億円までの過程で解約の影響が強くなっていき、正しいARR1億円を作れていなかった場合にここで立ち往生を余儀無くされます。まさしくback checkもそのような状況でした。そして同時に「イノベーター」と呼ばれるような新しい製品に最初から前向きな顧客の数も少なくなってきます。この新規開拓における変化と解約という要素の追加の二つを起因し事業成長に陰りが見え始める中でも先に組織が大きくなることで組織課題まで浮上するというのがARR3億円の壁の難しさかと思います。

back checkの事業責任者として最初に考えたことはこの壁をどう乗り越えるかでした。そして、そのためにはスタートアップターゲット依存からの脱却が必須でした。特にスタートアップのHRは変化が大きく、事業状況に応じて採用計画やHR施策が半年単位で大きく変わっていきます。確かにスタートアップにとって最も身近で、意思決定も早いスタートアップ企業はターゲットとして魅力的です。しかし特にback checkというプロダクト特性から考えた時にスタートアップにターゲットを依存していては外部要因による解約を減らすことはできず、この壁を乗り越えることは難しいと判断しました。

ARR100億円からの逆算

二つ目の視点は未来からの逆算でした。SaaS事業として当然ながらARR100億円を目指します。その時にどうやったらARR100億円にいきつくのか。今の延長線上にARR100億円の道は見えるのかと考えた時に、全く見えませんでした。そもそも日本のSaaSにおけるスタートアップターゲットの限界は概ねARR10億円(ARPU10万円×1,000社)ではないかという仮説はこの数年のSaaSマーケットを見ていてずっと考えていました。日本のスタートアップが一気に10倍に増えるようなことがない限り、この限界を越える方法は①ARPUが対スタートアップでも30~50万円になるような市場を選ぶ、②マルチプロダクトで10個のプロダクトを当てるの二つしかなく、back checkではそのどちらも難しいと思っていました。そしてリファレンスチェックというまだまだ日本に概念が浸透していないプロダクトを広げていくにはセールス主導であることは必須であったため、そう考えるとエンタープライズシフトによってARPU向上・解約率の減少を狙うことが必然であり、それがいつか必要なのであればベースプロダクトとしてできあがりつつあった今、なるべく早くシフトするべきと判断しました。

マーケット創出のセンターピン

最後の視点は事業の本質における視点でした。back checkはリファレンスチェックという日本に浸透していない、表現を変えればマーケットがない状況であり、マーケットそのものを創っていくことが求められる事業です。短期、長期さまざまな視点はあるものの、そもそも論として市場が大きくなる流れにならない限りは成長はどこかで止まりますし、市場を大きくする動き自体が自分たちに委ねられているという状況でした。その中で考えるべきはマーケット創出のセンターピン。つまるところ、何がマーケット拡大の最大のレバーかという点でした。リファレンスチェックが将来、日本において当たり前になるとしたらそれは何が要因か。たった一つだけその要因を上げるとしたら何かと考えた時に行き着いた答えが「誰もが知ってる企業によるリファレンス取得数を増やす」ということでした。リファレンスチェック市場拡大の最大のボトルネックはリファレンスチェックという新しい活動を行うことによる様々な懸念・不安です。そもそも転職者がリファレンスチェックを知らない。転職者が嫌がるのではないか。母集団形成に大きな悪影響がでるのではないか。このような懸念をいかになくし、やってみることのハードルを下げるかが重要になります。それを分解したのが"誰もが知ってる企業"がリファレンスチェックを当たり前にやっていることと、それにより世の中のリファレンスチェック取得数が増加することで"リファレンスチェックを体験したことがある人を急速に日本に増やす"ということです。これをスタートアップターゲットのみで実現することはできません。むしろスタートアップだけがやる特別なことと世の中に認識されたらマーケット拡大はそこで終わります。だからこそ本質という観点でも行き着いたのがエンタープライズシフトでした。

事業戦略としてのエンタープライズシフト

上記の三つの観点からback checkを「今すぐに」エンタープライズシフトすることを意思決定しました。これは単なるメインターゲット変更というようなものではなく、事業戦略そのものをエンタープライズシフトに転換したわけでそれに基づいてあらゆるものが変わっていきました。

最近のSaaS領域ではエンタープライズという言葉は一つのバズワードに近い形で注目されているものだと思います。ただ一方で短期目線での、どこが一番売れそうかという議論から生まれるエンタープライズシフトを成功させることは極めて難しいことだと思います。事業の勝ち方の定義を変える戦略変更からくるエンタープライズシフトなのか、目の前の売れそうな顧客像からくるエンタープライズシフトなのか。似て非なるものです。back checkは短期・長期・本質の三点からエンタープライズシフトすることが最も正しく、だからこそ事業戦略として転換するという判断ができました。本題ではないにも関わらず、ここまで詳細を記載した理由はエンタープライズシフトの成功の要因の大きな一つが事業戦略の転換としてシフトしたからだと振り返るからです。詳細は後述いたしますがエンタープライズシフトは多くの変化と痛みを伴います。安易に挑戦して成功させることができるものでもありません。それをやり切るには、そこまでやる合理的な理由が経営から現場に至るまで全体で見えているかにあります。事業戦略としてシフトしたこと。これがback checkエンタープライズシフトを成功へと導いた最大の要因でした。

エンタープライズシフトの成果

具体的なプロセスに移る前に、半年間のエンタープライズシフトの成果をまとめます。まだ結果が出始めたばかりなのでシフトに成功しただけで事業として大成功しているわけではまだありません。一方で半年間で生まれた変化としては大きな変化がいくつかありました。

年間のエンタープライズ企業受注ペースが4倍に

エンタープライズシフトを図る前はエンタープライズ企業の受注は良くて年間10社程度。またそれも意図的な成果ではなく、偶然の産物でした。エンタープライズシフトを図った現時点で受注ペースとしては4倍の年間40社ペースまで上昇。また全てが意図的に受注できているという点で、まだまだペースを上げられる余地があります。

ARPUは3倍。今後も継続的に向上する見込み

エンタープライズ企業の獲得によって従来のARPUの3倍にまで上昇。エンタープライズ企業はアップセル余地も多分にあり、今後更なるARPU向上の見込みもある形に。

新規MRRのペースは半年で4倍に

上記の通りエンタープライズ企業の受注ペースが上がり、ARPUも3倍になったことから新規MRRのペースは半年で4倍にまで上昇しました。見た目上の数字も去ることながら、解約可能性が低い企業の比率が高まっていることでLTVという観点では更に大きな改善へとつながっています。

結果として、ARR10億円を超える道筋が明確に見えた

意図的にエンタープライズ企業の開拓ができるようになった結果、ARR10億円を超える道筋がクリアになりました。短期の観点で成長軌道が回復したことは大きな成果の一つですが、それ以上に長期・本質の観点にて大きな成果がもたらされました。今はARR10億の先を考えることができるようになり、そしてエンタープライズ企業の誰もが知ってるような企業の導入が進んでいることで、リファレンスチェックの認知・SMBへの好影響が目に見えて生まれ始めており、マーケットそのものが拡大をback checkが主導できるようになりました。

エンタープライズシフトを実現した9STEP

前置きが長くなってしまいましたが、ここからこの半年間でエンタープライズシフトを実現するためにやってきた内容を9つのSTEPにて振り返ります。当時は試行錯誤をしながらであったため、これ以外にも色々とやっていたことはありましたが、振り返るとこの9つのSTEPが必須のSTEPであり、最短ルートを歩むためにも重要なSTEPだったと振り返っております。

STEP1_ロイヤルカスタマー分析

まず最初に行ったことはロイヤルカスタマー分析です。半年前、ARR3億の壁にぶつかっていたという自覚は明確だったため事業戦略の大きな変更が必要であるという認識はありましたが、一方で必ずエンタープライズシフトでいくと決めていたわけではありませんでした。まずは基本に立ち返り、既存の顧客の中で最もback checkを使っていただいてる、効果を感じていただいているユーザーは誰なのかを定量・定性含めてあらゆる角度から分析をしました。SaaSのARR3億円未満のロイヤルカスタマー分析においては、まだまだ顧客数が豊富であったり、何回もの契約更新を重ねた契約があるわけではありません。そのため例えばARPUが高い=ロイヤルカスタマーと判断することは非常に危険であり、営業やカスタマーサクセスによって何とか成立している契約企業をロイヤルカスタマーと誤認することは最も避けたいことであります。そのため定量において最も重要視した指標はback checkの価値を感じる瞬間を最も反映した「リファレンス取得数」であり、そこに定性としてなぜback checkの価値を感じてもらえるのか顧客毎に明確な理由を説明できるかという要素も分析の中で重要視しました。この分析の結果、浮かび上がってきた企業群が「年間採用人数100名以上」×「平均年収500万円以上」×「インターネットサービス又はコンサルティング業界」という企業群だったのです。これが後々、「エンタープライズ」という言葉に変わっていくのですが、この時には特にそのような言葉も使わずに、当該ロイヤルカスタマーと類似する企業をひたすらリストアップすることに終始し、バイネームでどういう会社を狙うべきか事業全員が共通認識を取れることがこのSTEPにおける重要な要素でした。

STEP2_サービス拡大の循環モデル作成

ロイヤルカスタマー分析の結果によって短期で攻めるべきターゲットというのは具体的に浮かび上がってきます。ただ一方で本当にそこを攻めることが事業の長期的な観点・本質的な観点で正しいのか。事業が目指すビジョンに到達することができるのか。これは必ずしもイコールとは限りません。目の前の1年間伸びる戦略と事業が成長し続ける戦略に大きな乖離が生じる可能性は常にあるのです。だからこそ、本当にロイヤルカスタマー分析で浮かび上がってきた企業群を狙うことが長期の観点でも有益なのかを論理として検証することは戦略を振り切るという意味でも極めて重要な作業であり、この作業を通して「戦略」に昇華することができます。その戦略昇華の具体的な作業がサービス拡大の循環モデル作成です。特定のターゲットを狙うことが、どのような連鎖・循環を生み出し、サービス拡大速度を高める好循環を作り出していくのか。この論理的な整理こそがビジョンと足元の動きを繋ぐ戦略になります

back checkにおいてその最も重要な要素が「リファレンスデータの二次利用」と「リファレンス文化の創出」でした。この論理的整理においては全てが未来の世界を扱います。今を起点にするのではなく、5年後・10年後を想像し、その世界における重要なキードライバーが何かをいわば妄想しながら検討する、抽象的な思考活動になります。おそらく世の中において戦略がセンスであったり、才能のような概念と結びつけられるのは、この思考活動が求められるからではないかと思います。back checkにおいては、リファレンスチェックが当たり前のように行われる世界で、その中でback checkがスタンダードになってる世界とはどのような世界で、そのためには何が重要なのか。これを想像した時に導かれたキードライバーが「リファレンスデータの二次利用」と「リファレンス文化の創出」でした。

リファレンスチェックが広がった世界でユーザーはサービスをどう選定するのか。この問いに対して二次利用という概念が重要になります。リファレンスが広がった世界ということは一人の求職者が一回の転職活動で複数社からリファレンスを求められるということです。その世界において候補者が全てのリファレンスを都度取得する体験を提供することは求人企業は絶対に好まないはずです。採用体験を良くするにはなるべくリファレンスチェックの求職者の負荷は下げたい。そう考えた時に既に取得したリファレンスデータを二次利用という概念で新規取得なしで閲覧するという行為が当たり前になるはずです。その世界においてリファレンスツール選定の判断基準は「二次利用の発生確率」が最重要ファクターになるはずです。back checkが最もユーザーを抱えており、世の中で最もリファレンスを取得しているサービスになることが、この二次利用の発生確率を最大化することに繋がる。競争優位性の根源が「リファレンスデータ量」になるのです。

上記はリファレンスがかなり広がった世界においてのキードライバーであり、一方で今の日本の現状を鑑みれば広がりきるかどうかはまだわからない状況です。だからこそ、もう一つ重要な要素はback checkが主体的にリファレンス文化を創るということになります。リファレンスチェックが当たり前になる世界にどう近づけていくか。それが二つ目のキードライバーでした。

back check サービス拡大の循環モデル

この二つのキードライバーから考えた時の循環モデルの出発点が「エンタープライズ企業の導入によるリファレンス取得数の最大化」に至りました。リファレンス文化を創る近道は当然ながら誰もが知ってる大手企業たちがリファレンスチェックを行うようになることであり、そしてそのような採用人数も大きい大手企業が増えることでリファレンス取得数も最大化されます。エンタープライズ企業が増えることが、リファレンス文化の拡がりを生み出し、そしてサービスの根源的な競争優位性をどんどん高めていくため、サービスが拡がっていくスピードは連鎖的に上がっていくことになります。

この循環モデルが作れた時、エンタープライズ戦略に振り切るという意思決定を確信を持って行うことができました。

STEP3_戦略変更に基づく事業計画策定

エンタープライズ戦略に振り切るという意思決定を行なった上で、それを事業計画にまで落とし込むのがSTEP3です。一方であまりこのタイミングで計画策定に時間を割き過ぎるのも良くないでしょう。まだ不確実なことが極めて多いため、理想的な事業成長をするためにはARPUと受注社数をどのくらに設定することが求められるのか。特に現実的な計画となるためにはARPUがとの程度にまで上がらないといけないのかを正しく理解するプロセスという風に認識しておくのがこのSTEP3では良いと思います。

STEP4_ターゲットセグメント策定

ここまででエンタープライズシフトした後の計画が定まったため、どう実現するかの実行の話に移行します。実行フェーズにおいて最も最初にやるべきはターゲットセグメントを絞り切るというプロセスです。全てはターゲットから始まります。ターゲットをどこに、どの範囲にするかでその後のやるべきことはまるで変わるので、期間とセットで例えば半年はこのセグメントに絞るというような決定を事業全体で共通認識を取ることが必要です。ターゲットは強い意思を持たない限り、自然と広げたくなります。現場からしたらターゲット数が少なければ商談創出の難易度も上がるので当然です。ただ最初は必ずターゲット範囲は狭くすることを推奨します。具体的には300社を上限にする(絶対取りたい100社と次点の200社)くらいがちょうど良いと思います。それ以上広げるということはターゲットを絞りこめていないということです。

STEP5_プロダクトのエンタープライズ対応

ターゲットが定まったらビジネスサイドでのアクションを開始したくなりますが、その前に必ずプロダクトがどう変わるべきかの議論を行い、開発ロードマップの修正を優先するべきです。どれだけエンタープライズシフトに適応したビジネスサイドの動きを行なっても、プロダクトが対応できていなければ成果は×0になりますし、それほどSaaSにおいてSMBとエンタープライズではプロダクトとして求められることは異なります。プロダクトがエンタープライズ対応することなしに事業がエンタープライズシフトすることは不可能です。そしてまたここには強い意思が求められます。既存顧客の大半はSMBのお客様になるため、要望はそちらの方が圧倒的に多くなります。その要望に応えすぎると、エンタープライズ対応が遅れエンタープライズシフトができないという結果に陥ります。まずはエンタープライズのお客様視点絡みた時に、must/should/wantの要件をわかる範囲で整理し、should要件が満たせるまではSMB向けの開発は行わない等の方針を事業として明確に定めておくことが重要です。back checkでも特に以下の要素はエンタープライズ特有の要素であり、戦略変更に基づいて優先順位を上げてプロダクト開発した要素になります。

<back checkで優先順位を上げたプロダクト開発>
- セキュリティ水準の向上
- アカウント権限の細分化
- コンプライアンスチェック機能
- データ一括エクスポート

STEP6_エンタープライズ組織立ち上げ

ターゲットが決まり、プロダクトロードマップの修正が完了したら、ビジネスサイドの動きに変化を加えていくことになります。この時ビジネスサイドの組織において二つの選択肢がありました。一つは今の組織構成のままエンタープライズの動きを強めていく、もう一つはエンタープライズに特化した組織を切り出すという選択肢。ここにおいて我々は後者の特化した組織を立ち上げる方を選択し、それは振り返っても正解だったと思っています。SMBとエンタープライズは同じ営業でも全く動き方が変わります。その差分と言ったら商材が異なるのと同じレベルで違うと言っても過言ではありません。このような中で同じチーム内にSMBとエンタープライズの別々の動きを行うメンバーが混在するのは混乱を生みますし、ましてや一人の人間が両方やるなんてのは不可能に近いことです。またまずは成功パターンを創ることが最初のゴールになるため、いきなり大きな組織を創るよりも機動力高い小さな組織の方が様々なことを試すことができます。従って数名で構成されたエンタープライズ組織を切り出して立ち上げ、半年間で成功パターンを創ることを目標としました。

STEP7_料金プランの改定

ターゲット・プロダクト・組織の方向性が見えた、次に料金プランの改定に着手します。エンタープライズシフトをするなら料金プランの改定は必須の作業になるはずです。SMBターゲットに最適化された料金プランのままエンタープライズシフトを進めると、思ったよりARPUが上がらないというような事態が生まれ、エンタープライズ企業の獲得工数に対して見合わないというような本末転倒な事態にもなりかねません。エンタープライズシフトするならば、料金プランはエンタープライズ企業を起点に0ベースで考え直すべきだと思います。ここでもまた強い意思が必要です。エンタープライズ企業を起点に考えた時にSMB向けのプランを大きく変更することが求められる可能性もありますし、現場からすると変更したくないという声も上がってくる可能性もあります。そのような声は重々理解できますが、本末転倒な事態にならないようSMB向けに配慮しすぎないことが重要です。料金プランが適切に変更されているかにおいての簡易的なチェックポイントとしては以下のようなものになると思います。当該チェックポイントを満たせていない場合には料金プランが不適切か、もしくはそもそもエンタープライズシフト自体が不適切かもしれません。

<料金プラン改定の簡易チェックポイント>
- SMB企業に比べてエンタープライズ企業のARPUは最低でも5倍程度を目指せるか
→5倍以下なら顧客獲得コストを考慮するとシフトしない方が良い可能性もある

- エンタープライズ企業は初回契約後からアップセルが可能な料金設計になっているか
→エンタープライズ企業はスモールスタートを行うケースが多く、利用拡大していくと共にアップセルができない設計の場合にはカスタマーサクセスコストが高くつく

- SMB向けとエンタープライズ向けが明確に分かれるような提供価値の差分が料金プラン内で明示できているか
→エンタープライズ企業がSMB向けのライトプランを選択するような設計になる場合には、思い通りにARPUが上がらない可能性が高い

STEP8_受注までの成功パターン創出

ここまできたら後はターゲットリストに対してのリード獲得・商談・受注までのプロセスにおいて成功パターンを探す長い戦いの始まりです。当然ながらこれまでとは全く異なるやり方になる可能性が高いため、最初から上手くいくことなんてほぼないでしょう。重要なことは再現性高く、拡張できる成功パターンを見つけることであり、最初から細かくKPIを定めて達成・未達成に一喜一憂することは悪手です。特に最初の半年は様々な手法を試しながら最も上手くいくチャネルは何かを見つけることに集中します

そもそも何から手をつけるべきか思いつかない時は上記の手法の中から試していくのが良いと思います。最初の半年間のゴールは上記の施策・チャネルの中で最も有効性が高いのはどの手法で、それはなぜ上手くいくのか、今後の拡張性はどの程度あるのか、エコノミクスはどの程度になるのか。これを完全に説明できる一つのチャネルを見つけ出すことです。

そしてback checkでは様々な試行錯誤の結果、最も有効なチャネルを見つけることができました。この発見を持ってエンタープライズシフトが成功したと判断することができました。back checkの場合、最も有効なチャネルは「顧問」だったのです。これは事業特性やターゲット特性によって答えは変わるものだと思います。back checkの場合には「顧問」との相性が極めて良く、最初の半年で顧問経由からの受注が生まれ、かつそこに再現性と拡張性を見出すことができました。そしてエンタープライズシフトで見えてきたARPUと獲得コストによるエコノミクスを鑑みた時に、顧問チャネルに大きく投資をするべきという判断がついたこのタイミングでエンタープライズシフト後の基本的な戦い方が決まりました。

STEP9_成功パターンへの全注力

最も有効なチャネルが見つかったら、当該成功パターン、チャネルに全注力するべきです。ARR3億円未満のようなリソースもまだまだ多くない状況において複数の施策を並列的、分散的に走らせるのは得策ではないと考えます。そうしないと目標の成長スピードを達成できないという場合には、まだ十分な成功パターンが見つかっていないと判断した方が良いでしょう。少なくともARR10億円まではこの一つの成功パターンを貫くことで達成できるというレベルまで見えることが重要であり、リソースや予算の70~80%は集中して投下する程度にまで注力するべきです。back checkでは現在、顧問にまさしく全注力しており、エンタープライズ企業の受注スピードは投資拡大と共に加速しており、この先のARR10億円までの道のりがこの9STEP目によって完全に見えるところまで来ることができました。

これからのback check

back checkのビジョン

エンタープライズシフトの成功によってARR10億円までの道のりが見えたところまできました。しかしそれはあくまでも見えただけです。事業責任者としては戦略の確実性が高まってきた今、それを最短で実現していく組織作りとARR10億円の先をどう描いていくのかという二点に注力し始めています。まだback checkは全体で40名にも満たない組織です。ここから急速に組織を大きくしながらエンタープライズ企業の開拓・成功事例の創出を加速させていく必要があります。これから3年で誰もが知る大手企業200社以上がback checkを使う状態になり、2030年までにはほぼ全ての大手企業にてback checkが導入される状態を目指します。back checkは二次利用の概念で圧倒的な優位性を保有し、大手企業のシェア100%を本気で取りにいくことができるのです。HR techにおいて大手企業のシェア100%を実現できるサービスがどれだけあるでしょうか。そしてこの大手企業の顧客基盤がアップセル・クロスセルを生み出し、ARR10億円の先を生み出すことができます。back checkのこれからはエンタープライズ企業の開拓によって日本にリファレンスチェックの文化を広げながら、顧客基盤・リファレンスデータを活かしたクロスセルプロダクトを連続的に創出することで2030年までに

「ARR100億円」
「back checkが採用のスタンダードになる」
「信頼が価値になり、信頼によって報われる社会の実装」

上記の三つを達成する道のりです。その道のりは日本の採用・HRにおいて時代の転換点を生み出す道のりだと思ってます。

最後にこの道のりを一緒に創りたい・歩みたいという方がいましたら、ぜひカジュアルにお話しできればと思います。Meetyにてカジュアルにお申し込みください!!!


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