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“脳粗鬆症”−わかりやすさが招く自己不安
以前も表明したが私は「長文失礼します」という冒頭のくだりがすこぶる嫌いである。それは文化の破壊に繋がるからである。
そもそも何文字以上が長文に値するのか明確な規定がないにも関わらず、雰囲気で長文と認定し、「失礼します」と断りを入れるくらいだから「長文=悪い」という体裁を押し付けてくる姿勢に嫌悪感を覚える。
そりゃ、メールを開いたと同時に改行もなく、句読点も少なく、画面いっぱいに文字が並べばこちらも読む気が失せるのは間違いないが、それは長文だからではなく、例えば文章としての体裁が整っていないからであり、駄文の連なりで意図が読めないからであるからして、短絡的に「長文だから」というわけではない。仮に「長文だから悪い」のであれば、新聞は悪いし、文学なんて最悪だし、楽しいおしゃべりだって自粛の果に消滅してしまうだろう。
なぜこんなヘンテコな文化が生まれてしまったのか。
なんでもかんでも短く、かつ「わかりやすい」重視の風潮にその端緒があるように思う。もちろんその背景にはインターネットの出現により情報量が莫大に膨れ上がり、それでも一定の時間でその情報を裁かなれけばいけない現代社会の限界が鳴りを潜めているが、筆者の目にはそれを言い訳にしているだけのように写る。
「わかりやすさ」は「絶対正義」ではない。
なぜなら世の中のほとんどは「わからない」ものだから。
「わかりやすく要点をまとめました!」の要点だけを読めば全体が理解できるか?。否。わからない。わかった気にはなれる。
「猿でもわかる〇〇」を読めば〇〇を得とくできるか?詐欺でなければ〇〇という点は理解できる。だが、それでやっと猿と同レベルである。
点から線、線から面、面から空間を類推する力は間違いなく必要ではある。必要ではあるが、線をしっかりと推測するためには少なくとも2点は必要だし(2点で必ずしも十分とは言えない。例えば地球上の2点を結ぶ線は3本引ける)、面となればその線が2本は必須となるし、いわんや空間をや。決して1点だけ“完ツウ”すれば全体である空間を看破するような銀の弾丸は存在しないはずなのに「これだけでOK」の文句だけが割拠している。100歩譲ってビジネスだからいいとしても、その受け手である我々がそんなインスタント“盛貧”ばかり摂取していては見栄ばかりでスカスカの“脳粗鬆症”になりかねない。健康な骨が適度な負荷を必要とするように健康な脳も適切な負荷が必要なのだ。
ちょっと転んだだけで重大な骨折を引き起こしてしまう骨粗鬆症と同じように、この“脳粗鬆症”の怖いところもそこにある。
なんでもかんでもわかった気になる頭でっかちに待ちかまえている理不尽。
それが「自分」という永遠の伴侶であり、生涯わからない存在である。
本来であればこれは当たり前で
「鏡見てみろ!」とか
「親友に客観的に写る自分を聞いてみろ!」とか、
「まず自分で自分のことはわからない」ことが前提であったはずなのに、
いつからか
「あなたが生涯に成し遂げたいことはなんですか?」、
「夢はなんですか?」のような
「自分のことは当然のように熟知している」という潮流に推移してしまったように感じる。仕方ないからもっともらしく「わかりやすい」アリバイを見繕って面接官等や自分も納得させてみようとするが、前者は騙せても、後者はそうはいかないことは今日の生きづらさの一因であろう。
困ったことに、他者のアリバイ説明に対して、そのもっともらしいストーリーに自分もつい騙されてしまいがちになる。すると、「彼/彼女は自分のことをあんなに明確に、スラスラと解説できているのに、自分は。。。」と自己不安を招いてしまう。
面接だけではない。キラキラが気になるインスタもこのnoteでさえ所詮アリバイ工作に過ぎないのだ。本当は皆、何がしたいのか、何を望んでいるのか、わからない。しかし、わからないからこそ現在という1点を記録している。そうした点の記録が後世になってやっと歴史として認識、理解される。
そういうものだし、そんなもんだ。
だから、わからなくていい。
最初から全部わかろうとしなくていい。
わからなくて当然というスタンスでちょうどいい。
しかし、ずっとわからないままというのは問題がある。
だから、noteを取ろう。
「わかる」と「わからない」の橋渡しとなるのが、記録であり、それは自己表現であり、アートであり、生を肯定するものとなる。
その生の記録を振り返った時に未だ来ず時空に投影されるのが由芽(ユメ)であるはずだから、安易にわかりやすさに飛びつかず、じっくりと回り道と王道を行き来したい。
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