ブリコラージュとしての野生の思考 〜『レヴィ=ストロース入門』より
先日、『レヴィ=ストロース入門』の読書会に参加しました。
課題図書『レヴィ=ストロース入門』は、彼の唱えた構造主義について、代表的な著書『親族の基本構造』『野生の思考』『今日のトーテミズム』『神話論理』の概要をひもときながら解説した一冊。
新書サイズでページ数も多くはないのですが、読書会の会場に集まったみなが口を揃えて「難しかった…」というほど、読むのに苦心した本でした。
読書会人間塾でレヴィ=ストロースを学ぶ
クロード・レヴィ=ストロース氏は、フランスの人類学者・民俗学者で、「構造主義(構造人類学)」を提唱した人物です。ここで言う〈構造〉は、建物等の「構造」とはやや異なり、こんな意味なのだとか…。
レヴィ=ストロースは、構造主義の〈構造〉をつぎのように定義している。「『構造』とは、要素と要素間の関係とからなる全体であって、この関係は、一連の変形[変換]過程を通じて不変の特性を保持する」。
(『レヴィ=ストロース入門』p.46)
読書会では、各自が「強く印象に残ったキーワード」について1つとりあげ、どう定義したか、なぜ気になったのかについて話し合いました。
僕が取り上げたのは「ブリコラージュ」です。
ブリコラージュとは何か
課題図書の著者 小田亮さんは、ブリコラージュをこんな風に解説しています。
レヴィ=ストロースは、具体の科学としての神話的思考を「ブリコラージュ」にたとえている。ブリコラージュは、器用仕事とか寄せ集め細工などと訳されているが、限られた持ち合わせの雑多な材料と道具を間に合わせで使って、目下の状況で必要なものを作ることを指している。(p.135)
ここでのポイントは、
・持ち合わせの材料と道具
・間に合わせで使う
・必要なものを作る
というあたり。
さらにいうと、レヴィ=ストロース自身は ブリコルール(=ブリコラージュする人)について、計画的に準備して何かを作り出すエンジニア(技師)と対比して次のように書いています。
ブリコルールは多種多様な仕事をやることができる。しかしながらエンジニアとはちがって、仕事の一つ一つについてその計画に即して考案され購入された材料や器具がなければ手が下せぬというようなことはない。彼の使う資材の世界は閉じている。そして「もちあわせ」、すなわちそのときそのとき限られた道具と材料の集合で何とかするというのがゲームの規則である。(略) したがってブリコルールの使うものの集合は、ある一つの計画によって定義されるものではない。……ブリコルール自身の言い方を借りて言い換えるならば、「まだなにかの役に立つ」という原則によって集められ、保存された要素でできている。(同書 p.136-137)
ともすれば、場当たり的で刹那的なものづくり、と感じられるブリコラージュが、この本を読んでいる間ずっと、気になって仕方ありませんでした。
「科学的思考」と「野生の思考」
ブリコラージュが解説されている第4章のタイトルは「ブリコラージュ vs 近代知」。レヴィ=ストロース以外の人物(ミシェル・ド・セルトー、ディック・ヘブディジら)による意味付けを紹介しながら、「ブリコラージュ」にどんどん肉付けされていきます。
僕なりに解釈をまとめると、こんな対比リストができあがりました。後者がブリコラージュ的なもの。
・「計画的実行」ではなく「臨機応変」
・「部品」ではなく「断片」(まだなにか役立つの基準で収集されたもの)
・「理性的」ではなく「感性的」
・「概念(シニフィエ)」ではなく「記号(シニフィアン)」
・「戦略」ではなく「戦術」
・「非真正(まがいもの)な社会」ではなく「真正な社会」
最後の「真正さ」に関しては、このフレーズが気になりました。
レヴィ=ストロースが線を引いているのは、(略)間接的コミュニケーション(書物、写真、新聞、ラジオ、テレビなど)によって結ばれている大規模な共同体の非真正さと、個別の顔のみえる関係による小規模なローカル諸社会の真正さとのあいだである。
(略)
この区別は社会の規模からくるというより、社会の想像の仕方からくるといったほうがよい。つまり、あたかも神の眼から一望したように境界の明確な全体としての社会を、メディアの媒介によって想像する仕方と、全体を見とおす視座などもたずに、人と人との具体的なつながりを延ばしていって、境界のぼんやりとした社会の全体を想像するしかないという想像の仕方の違いである。 (同書 p.27-28)
ブリコラージュ的な考え方を
近代社会や文明での「科学的思考」とは線を引き、ブリコラージュとしての「野生の思考」をこそ重視すべきだとしたレヴィ=ストロース。
これからの時代、彼の唱えた「ブリコラージュ」的な考え方や行動方法がますます大切になる気がします。
野生の思考に心開いていきたいです。
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参考情報
・読んでいる最中から「ブリコラージュ」がかなり気になっていました。
・副読本として読んだ、100分de名著の『野生の思考』テキスト