「強くあろうとする若者たち」小説4選②
さて、今週は先週に引き続き、「大人になろうとする若者/こども」をテーマに本を紹介していこうと思います。
子どもたちは、ときに大きな選択を迫られ、それを乗り越えて大人になっていきます。困難な境遇や悲しい別れが子どもたちを次のステージへと導くのです。
今回は、
■米澤穂信「リカーシブル」
■森見登美彦「ペンギン・ハイウェイ」
この2作を紹介します!
「リカーシブル」は中学生、「ペンギン・ハイウェイ」は小学生を主人公にした作品です。子どものまだ幼い世界観と、それに対する厳しい現実。それらをテンポのいい筆致で描写しつつ、現実に立ち向かう力強い子どもたちの躍動を描き出します。
米澤穂信「リカーシブル」
父が失踪したことによって、中学校に上がると同時に引っ越しをした主人公のハルカ。友達のいない不安感と、どこかよそよそしく薄暗い雰囲気の町が、少女を否応なく取り巻いていきます。舞台は寂れた地方都市。閉鎖的で排他的な社会性が見え隠れする町の中で、少女は居場所を探ろうとします。
この作品は、「得体の知れない不気味さ」がテーマのミステリ。高速道路誘致を巡る暗い過去や、犠牲になった少女の悲しい伝承が、不気味な空気を醸し出します。普段ミステリを読まない方でも、そっと背後から忍び寄るような正体のわからない恐怖感と、物語の最後に謎がひとつの線でつながる解放感はきっとクセになります。普段ミステリを読む方も、実体のつかめない捉えどころのない謎に翻弄されてしまうはず。
味方のいない見知らぬ町で、大人たちの思惑と矛盾の交錯する中にからめとられたハルカ。こどもたちは、本来守られるべき存在です。しかし、子どもを犠牲にしてでも、町は何かを追求している。そんな拠り所のない境遇の中で、ハルカはどんな「生き抜く指針」を打ち立てるのか。どんな強さを手に入れて、大人になろうとするのか。
森見登美彦「ペンギン・ハイウェイ」
空晴れ渡る夏の暑さと、草原をやさしく撫でていく風。とある少年がひと夏の間に経験した、ペンギンを巡る冒険譚です。主人公のアオヤマくんはまだ小学生ですが、たいへん努力家で、大人に負けないほどいろんなことを知っていると自信満々。歯科医院のお姉さんとは、「海辺のカフェ」でチェスをする仲です。
ある日アオヤマくんは、街に現れたペンギンたちが、お姉さんの不思議な力に関わっていると知ります。街に次々現れる、未確認生物の謎や消失する郵便ポストの謎も、すべてひとつにつながっていると仮説を立てたアオヤマくんは、すべての解明に向けて走り出します。
森見登美彦といえば、「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」などの、京都を舞台にした冴えない大学生の愉快な物語が有名。「ペンギン・ハイウェイ」はすこし毛色が違いますが、くすっと笑ってしまうようなユーモラスな場面はそこかしこにあります。
作中でアオヤマくんは「世界の果てを見るのはかなしいことでもある」ということを知ります。そしてアオヤマくんは、切ない決意を胸の内に固めて、成長の一歩を踏み出します。とても印象的な場面なのですが、重大なネタバレになってしまうので、あまり詳しく書けないのが残念なところです笑
森見登美彦の一つの魅力は、軽快で面白おかしい語り口の中に、過ぎ去ってしまう時間や人との別れについての、ちょっと切ない世界観が時折顔を出すこと。「ペンギン・ハイウェイ」でも、そういった世界観が描かれ、読む人に強い印象を残します。
夏が終わったころ、アオヤマくんがどんな成長を見せてくれるか、ぜひ読んでみてください。
大人になるということは…
「ペンギン・ハイウェイ」のアオヤマくんは、人生に一度しかないような気持ちをノートに記すことは、とてもむずかしいということを学びます。今回紹介した小説の主人公たちはみな、「やりたいようにやれない」自分を知り、そこからすべてを始めようとします。大人になるってことは、もしかしたらそういうことなのかも知れません。
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