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「結」ーphase 1~10ー

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”むしょく“のおっさんが絵描きになるまでの物語。 仕事もせずにプラプラ遊び歩く私がひょんな事から「絵を描く仕事」を依頼されて描き上げるまでを下らない文体で書いています。
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「結」ー PROROGUE ー Uzumakism

「結」ー PROROGUE ー Uzumakism

神戸の靴の街「長田」にあるDINING BAR「MUSUBINA KITCHEN」へ2021年のクリスマスに提供した作品「結」の制作過程を少しずつ投稿しようと思う。
“むしょく”として初めての“納品”となった作品だ。

トップ画は“無色”だが納品時は着色済みだ。色が付いて行く過程を是非見て欲しい。ただし、「未完成」でのお渡しとなっている。詳細は後々述べる事としよう。

まずは、作品制作に至った経緯

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「結」 ー Phase 1 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 1 ー Uzumakism

吾輩は描である。名前はまだない。
どこで生まれたか頓と見当がつかぬ。
人生、じゃない。猫生に少し嫌気が差している猫である。飼い猫なら幸せだったかも知れない。
何もない山から街へ降りて来たけど、誰も拾ってくれそうもない。
何ヶ月も続く土砂降りの雨の中、野良猫をするのも辛いなと思いながら路地裏の一角に雨宿りの為の軒を見つけて眠りに落ちた。
夢の中に現れた女神さまが吾輩に優しく声を掛ける。
「猫をしてい

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「結」 ー Phase 2 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 2 ー Uzumakism

人生の海には波がある。荒波で時化ている日があれば、波のない穏やかな凪の日もある。時と共に海の様子は変化する。シケた面では辛い旅になるから凪を待つ。長い航海に出て後悔しないためにも出航日は凪を狙う。そうだ、あの港の名前は“ナギ”にしよう。

▼前回をお読みでない方はこちら

いつものガールズ・バーでいつもの姉ちゃんにいつもの様に閉店まで相手して貰う。私はこの娘を“幸運の女神”と憚らずに呼んでいる。“

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「結」 ー Phase 3 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 3 ー Uzumakism

ナギと名付けた港を出て、大陸を目指して航海に出た。とても穏やかな波の上を滑るように船は進んで行く。帆を大きく張り、風を統べる神さま頼りで航海を続ける。出港した事を後悔しそうなくらいに冬の夜風が一番冷たくなる頃、綺麗な海に辿り付いた。ここは、ななつの海の一つ、静かな海。
美しい海なので「美海」と名付けよう。だけどこの海は時々荒れる。しっかりと舵を握らないと船員の命が全部持っていかれるのだ。

▼前回

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「結」 ー Phase 4 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 4 ー Uzumakism

突然の嵐が襲って来た。静かだったセイレーンが竪琴を奏で、歌を唄い始めたのだ。
ななつの歌声がそこら中に響き渡る。
美海が真っ黒の波を次から次に生み出して、我々一向に襲い掛かる。私たちはこの海で藻屑となってしまうのだろうか…。
船員は甲板上を右往左往して、それぞれの役目を果たそうと必死になった。
少し遠くに光が見える。雲から太陽が放つ光が天国へ導く階段のようだ。
まだ、死ねない。人間ににゃったばかり

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「結」 ー Phase 5 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 5 ー Uzumakism

荒れ狂う海を越えた頃には船員の殆どが体の何処かしらをぶつけて負傷していた。
私も波で激しく揺さぶられた所為で酷い船酔いに苦しめられている。航海に向けて船出したあの“港のナギ”は、もう随分遠く振り返っても見える筈もない。
すっかり太陽が登った水平線の向こうに二基の灯台が見えて来た。少し背の高い方には“虎”を象った彫刻が施されている。背の低い方には見事な“龍”が壁面を取り囲む様に描かれている。
ジャッ

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「結」 ー Phase 6 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 6 ー Uzumakism

荒くれ者と夜の海へ旅に出る事に少し飽きて来ていた私は、この船旅を終えたら内陸を一人旅する事にしていた。とは言え、どんな困難が待ち受けるか分からない旅を自分の足だけで乗り切れる自信がない。下船して夜の港街を彷徨きながら、さてどうしたものかと考えを巡らせていた。しばらく大通りを歩いていると酒場の入り口の明かりが私の目に入って来た。そこで妙案を思い付く。
そうだ、あのキッシュが美味い酒場で誰彼構わず話し

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「結」 ー Phase 7 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 7 ー Uzumakism

キッシュが美味い酒場で隣に座る紳士に話しかけた。この近くに猫が屯している場所があると言う。少々猫には飽きていたのだが気休めに覗きに行ってみた。人間になってしまったら猫を見る目が変わったみたいだ。少しこの子たちでは物足りない。船に乗る前に遊んでいた猫たちは虎だったのかも知れないな。
それから数日は猫に興味を示す事もなく、港街で出会う人間たちに声を掛けては談笑し楽しい時間を過ごした。
暫く、色んな所へ

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「結」 ー Phase 8 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 8 ー Uzumakism

ふむ、女神さまは「猫をしているのが辛いにゃら、、、じゃない辛いなら、人間になってみるのも良いかもしれないですね。どう?一度人生と言うものを味わってみては如何かしら?」なんて言っていたけど、どうも人間になったのじゃなくて、人間に取り憑いているだけみたいだ。
この身体の人間の記憶を吾輩が共有出来てていると言う事は、吾輩が私を乗っ取り始めていると言う事だ。吾輩?私?ややこしいニャ〜。

人間が気に入って

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「結」 ー Phase 9 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 9 ー Uzumakism

キッシュの美味い酒場の馬屋に繋がれた暴れ馬と仲良くなりたくて、酒場の女将に馬について色々聞いてみた。どうやらこの馬は猫が好きらしい。だけど普通の猫ではなくて“魔力”を持った猫が好きなのだとか。魔力? 何のことやら。
魔法の猫が酒場に来た時は馬が大人しくなるそうな。
「で、その魔法の猫ってどんな猫かニャ? あ、いや猫かな?」と私は尋ねた。

女将曰く誰も見た事がないから、どんな猫かは知らないらしい。

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「結」 ー Phase 10 ー Uzumakism

「結」 ー Phase 10 ー Uzumakism

どうも最近、私は様子が変だ。
時々記憶が飛んでいる。この間なんて酒場の馬屋で知らない内に眠りこけていた、酒を飲んだ訳でもないのに。
目が覚めたら藁の中で猫みたいに丸くなっていたのだ。
手をぺろぺろと舐めて、顔を擦りありもしないヒゲを整える。無意識に猫の様な仕草をしているではないか。私は一体何をしているのだろう…。
そうして、起き上がり藁の山の向こうにいる馬に目をやった。
暴れ馬は今日も大人しい。例

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「結」 ー EPILOGUE ー Uzumakism

「結」 ー EPILOGUE ー Uzumakism

“魔法の猫”を追って随分と走り続けた。
自分でも驚くくらい早く走れる。まるで足が四本になったみたいだ。
いつの間にか私は街と外界を隔てるブロック塀の所まで辿り着いていた。
辺りを見渡したが、白い猫の姿が見当たらない。
どうやら塀を越えてしまったようだ。

この塀の外に私は出た事がない。何でも、外へ出た者は戻って来れないらしい。
誰も戻って来ないから、誰も外の話を知らない。この外は人智の及ぶ世界では

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