「結」 ー EPILOGUE ー Uzumakism
“魔法の猫”を追って随分と走り続けた。
自分でも驚くくらい早く走れる。まるで足が四本になったみたいだ。
いつの間にか私は街と外界を隔てるブロック塀の所まで辿り着いていた。
辺りを見渡したが、白い猫の姿が見当たらない。
どうやら塀を越えてしまったようだ。
この塀の外に私は出た事がない。何でも、外へ出た者は戻って来れないらしい。
誰も戻って来ないから、誰も外の話を知らない。この外は人智の及ぶ世界ではないと聞く。
誰も見た事がない猫は、私が見た事がない世界に出て行ったのだろうか?
白い猫が飛び越えたであろう塀の周辺をフラフラと歩いてみた。
塀はぐるりと街を囲んでいるので飛び越えずに外へは出られない。
今更、航海の旅に戻る気もないし、それならいっそ塀の外に出て広い大地を旅してみたいのだ。
私は冷たいブロック塀に耳を押し当てて外の様子を探ろうと試みた。
キーンキンと金属音のような響きが延々と続いている。ふとその時脳裏に「渦巻き」が浮かび上がった。
「外で何かが回っているのか?」
私はどうしてもこの外が知りたいと思い、塀に沿ってさらに歩いてみた。
しばらく歩くとそこに小さな扉を見つけた。扉の取手を回して押したり引いたりしたがピクリとも動かない。
その時、頭上から「ニャー」と猫の声がした。
ふと塀の上を見上げるとあの白い猫が私を見下ろしている。
穏やかな優しい声が、私の心の中に話し掛けて来た。
「人間をしているのが辛いなら、猫になってみるのも良いかもしれないですね。どう?一度猫生と言うものを味わってみては如何かしら?」
「なにを言ってるのニャ。吾輩は猫である」
とこれまた別の声が頭の中で叫んだ。
私はその声を無視して、首を縦に振り「ミャー」と答えた。
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この絵は「未完成」です。
これから先、この絵は床に落ちて角が折れたり、誰かに踏まれて足跡が付くかもしれません。
模様替え中にコーヒーの染みが付いたり埃が積もったりもするでしょう。
陽の光で焼けて色も薄れて行くに違いありません。
そうやって付いた傷や汚れ、時間の流れと一緒に刻まれて行く変化の一つ一つが作品の一部です。
だから大切にしないで下さい。
この絵はMUSUBINA KITCHENで調理された美味しい料理の香りを吸い込み、働く人たちやお客さんの話し声と笑い声を聞いて少しずつ完成に向かって行きます。
このお店に関わる全ての人達で作り上げて行く「作品」です。
そしてこの絵にはもう一人の画家が必要不可欠です。
「結」の文字には色がありません。
是非、色のセンスが抜群な“小さな画伯”にお願いして好きな色に塗って貰って下さい。
自由に線を描き足すのも良いでしょう。
真ん中は白いキャンバスとして空白を用意しました。
“小さな画伯”に思うように使って貰えると幸いです。
直接絵を描いても良いです。
描いた絵を貼り付けても良いです。
何ならお気に入りの写真や野花を貼り付けても良いです。
沢山の大人に見守られて、自分の意思で自由な選択をする事を学ぶ教材としてご活用ください。
そして成長して行く「孫、子、小さな店員さん」をお客さんも巻き込んで皆んなで育んで行きましょう。
ここで出会った人々が沢山結ばれて幸せになって行く事を願っています。
絵描きの野良猫より
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母親がハキハキとした声で私の手紙を読むのを聞いた“小さな画伯”が一言感想を述べた。
「しょーもな」
一同爆笑である。そりゃそうだ。酸いも甘いもまだ知らない子供には、こんな手紙しょうもないに違いないさ。
だけどいつかこの小さな小さな人類にも、私の言わんとする事が分かる日が来るだろうと信じている。
世界や宇宙があるから、人と人が出逢い、信じ合い、結ばれ、繋がり、育まれて、我々の世界や宇宙が完成していくのだから。
それが出逢いの文字の中に「愛」がある理由なのだ。
にゃんつって🐱
ー 完“結” ー
▶︎▶︎▶︎ あとがき
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「MUSUBINA KITCHEN」
〒653-0811 兵庫県神戸市長田区大塚町4丁目1−11
hidenori.yamauchi
https://www.instagram.com/hidenori.yamauchi/
私の伯父「山内秀德」の遺作を投稿しています。是非ご覧ください。