『三流シェフ/三國清三』読了
『三流シェフ/三國清三』を読んだ。
内容はシンプルに、もうすぐ70歳になる三國シェフの半生を綴った自伝だ。
オテル・ドゥ・ミクニの三國シェフといえば、名前は昔からときどき聞いていたし、2020年から始められたYoutubeの番組は自分もたびたび見ていた。特にコロナ禍で出かけられない中、様々な料理人たちがYoutubeの番組を始めたのは自炊生活をするなかで確実に何らかの影響があったし、その中でも三國シェフの明るい人柄と鋭い技の片鱗は見ていて本当に楽しくて気持ちが前向きになるものだった。
とはいえ、自分はフランス料理を食べるような機会はあまりなく、こういってはなんだけれど興味もそこまではなかった。ただ、フレンチの流れを受けた家庭料理は実家でもときどき食卓に並んでいたのと、フレンチの技法自体にはとても興味があった。でも、それだけといえばそれだけ。わざわざフランス料理を食べに行くようなことはなかったし、ましてやコース料理を食べるような機会は、たぶん今まで一度もなかったんじゃないだろうか。
そんな人間なので、三國シェフについても「明るくて楽しいフレンチの凄い人」くらいの印象しかなかった。けれどこの本を読んで、そんな印象が全くの間違いだったことを痛感した。
三國シェフ、本当にすごい人だったんだな……。
この自伝を見て、似てるな、と思ったのは『バンビ〜ノ! / せきやてつじ』だった。
フランス料理とイタリア料理という違いはあるものの、厨房という戦場での戦う姿や「なぜ日本人が外国の料理をつくる料理人となるのか」というアイデンティティ、地元の食材を使った料理という考え方、いろいろなところで同じ考えに基づいた話が出てくる。
なんというか、一方がもう一方を参考にして書かれているような気もしてくる。それくらい似たような話が出てくる。もしかしたら、バブル期前後の料理人と料理体系の歴史を語る上では、絶対に避けては通れない必修科目のようなものなのかもしれない。
『バンビ~ノ!』は、かなり好きで何度となく読み返している。特に13~14巻のニューヨークと、Secondo の6~7巻のジュリアあたり。イタリア、というかシチリアに興味が出てきたのはこの漫画の影響なのだけれど、残念ながらまだイタリアには旅行に行けずにいる。
三國シェフに話を戻して。
読み終えた後、なんだか凄い映画を見たような気分になった。フィクションの小説や映画でも、こんな作品、こんな人物はそうそう見られるものじゃないのでは。それくらい凄まじい生き様だった。
一度は彼の料理を食べてみたいとは思うものの、流石に今となってはもう叶わないかな。このレベルのフランス料理をしっかりと楽しむ舌が自分にあるとも思えないけれども、美味しいかどうかはわかるし、一度くらいは最高峰の味を経験してみたいなあ、とは思う。