え!10㎡に セミ400匹!~2021年9月と10月に読んだ本から
読んだ本を忘れないため、毎月、読んだ本の中から 印象に残った本 を 記事にしていく8回目。
9~10月(今回は2ヶ月分)に 読んだ本の中から、印象に残った本6冊。
1 羊と鋼の森 宮下奈都
少し、人付き合いがうまくない外村。高校生の時の 運命的な出会いが、彼を 調律の世界に導く。
調律師の先輩たち、そして お客さんたちとのかかわりの中で 成長していく外村。
このお話の空気感を、どう表現したらいいのだろう。
始まってから終わりまで、区切りがないお話のためか、ずーーーっと 森の中に入っていたという印象。
調律の奥深さを 少しのぞけたような気がした。メモをとりたくなるフレーズもいっぱい。
いつか読もう、読もうと思っていた一冊なのだが、「調律で なぜ羊なのか?」ずっとわからなかった。数ページめで、「なるほど!それが『羊』か」と納得した。
2 バスクル新宿 大崎梢
たくさんの人が利用する長距離バス、そして、多くの人が行き交う巨大バスターミナル。
○休憩のサービスエリア、戻ってこない女の人がいるのに バスは出発してしまう。彼女はなぜそしてどこに行ったのか。
○部費をつかいこんだかもしれないサークルの仲間。彼は本当に犯人なのか?
○友達に渡したはずのお土産を、なぜか警察が持っていた。
○いきなりバスに警察が乗り込んできた。事件か?
4つの物語が最後に結びつく。
ひとつひとつは、独立した物語。
でも、あちこちに ちらばっていた 小さな出来事が、最後につながって一つの事件となる。
読み終えてすぐ、もう一度読み返したくなった。
バスと言えば、遠出をしなくなったので もう1年半以上乗っていない。
「バスに乗って出かけたいなあ」という私の気持ちを さらに増大させたお話。
3 わたしの容れもの 角田光代
減らない体重、食べ物の好みの変化、欠点の増長・・
加齢にともなう、身体や内面の変化のエッセイ集。
最近、こういう「老化」や「老後の生活」についての本を読むことが増えた。
思わず うなずいてしまうこと多数。
人は年をとっても、よりよい人間になったりはしない。
ものごとに動じなくなるかもしれない、アドバイスもできるようになるかもしれない、けれど、知恵がつくとはかぎらないし、学び賢くなるともかぎらない。(中略)
どちらかというと、美点より、欠点のほうが、増長されていくような気もする。
ドキッ・・ここ数年、たまに「私、性格が悪くなったんじゃないか」と思うことがあるのは、気のせいじゃないのね。
一昔前の文庫本は みんな字がちいさくて、びっしりしていた。それが ふつうだった。
けれど、今のように、字も 間隔も 大きくなった本に慣れて、さらに 年齢を重ねてみると 読書にも 年齢は関係するなあ としみじみわかる。
ああ、角田光代さん、私もしみじみわかります。
4 ミュゲ書房 伊藤調
新人作家・広川蒼汰を つぶしてしまった責任を感じ、出版社を退職した宮本章。
ひょんなことから 死んだ祖父の残した書店「ミュゲ書房」を つぐことになる。
ミュゲ書房に集う様々な人々の力、そして 依頼された本の編集を通して、章は また 本に対する情熱を とりもどす。
そして、あれ以来 消息不明の広川蒼汰は・・・。
寝る前に「ちょっとだけ読もう」と思ってページを開いたら、おもしろくて 結局最後まで読んでしまった一冊。
実は、最初、「傷心で田舎に行って 書店をつぐ」とか「正体不明の作家」など「あれ?読んだことがある 設定だなあ」と思っていた。しかし、すぐそれは気にならなくなり、もうすっかり 本の中にどぼーーん と入り込むことができた。
「本好き」の人々の描写や「本を作ること」にかける情熱にひかれる。
北海道が舞台ということで、「どこだろう」「あそこかなあ」と ずっと考えながら読んでいた。最後の方でやっと「あそこだ!」とわかった。
お話の中に、たくさんの児童書が 出てくるのも嬉しい。
特に、ミュゲ書房でのクリスマス特集~装丁や翻訳の違う「飛ぶ教室」を並べる~に心ひかれた。見てみたい。
5 素数ゼミの謎 吉村仁
アメリカに13年または17年に一度だけ大量発生するセミがいるという。何十億匹のそのセミは 数週間だけ 大音量で鳴き、死んでいくのだ。
①なぜ そんなに長い間 地中にいるのか。
②なぜ こんなにいっぺんに 同じ場所で大発生するのか。
③なぜ13年と17年なのか。
この 3つの謎 を解き明かす。
「素数」が 生き物の生態に かかわっているというのは 驚きだ。3つの謎を とてもわかりやすく説明してくれる本。数字好きや 生き物好きの人には 興味深いのではないか。
それにしても、その大発生は
「10平方メートル(6畳強くらい)に400匹のセミがいっせいに鳴く」
くらいの規模だそうだ。それは、ちょっと勘弁してほしい。
6 海岸通りポストカードカフェ 吉野万理子
そのカフェは、壁じゅうにポストカードが貼られている。
常連さんが、カフェ宛てに出した葉書もあれば、「ポストカードカフェ気付 ○○様」と 送られてきた葉書もある。
突然、このカフェのマスターから、自分宛の葉書が届いてることを知らされたのは、女子校勤務の丈司。
初めて訪れたそのカフェで見せられた 自分宛の葉書には、京都の町並みが写り、「さき」という名前が。でも、丈司には差出人が思い当たらない。いったい誰?そして何のためにこの葉書を出したのか。
喫茶店を舞台にした本は 数多く読んだが、こういう設定は初めて。
時代が進んでも、人間は テレパシーでやり取りし合う能力を まだ獲得していない。だから 言葉にしなけらば 伝わらない。
綴らなければ 届かない。
私も 絵はがきを 出してみたくなった一冊。
「チェックしていた本を借りたら すぐ帰ってくる。」
最近の、私の図書館の利用法だ。
実にもったいない。
図書館(そして本屋でも)の楽しさといえば、書棚をめぐり、背表紙に目を通し、全く知らない作家さんに目をとめたり、読んだことのない分野の本を手に取るということが大きいと思っている。
「書棚の前を、すっと通り過ぎようとしたら、なぜか1冊の背表紙だけ、浮き上がって見えた。後戻りして手に取ったら、名前も知らない作家さん。借りていって読んだら、とても面白かった。」
というような経験も何度かした。(「本に呼ばれた」ということだろうか。)
そんな楽しさも、放棄している過ごし方だ。
時間がなかったとか、リクエストした本をとりにいっただけとか、いろいろ理由はあるが、一番の理由は、私に気持ちの余裕がないということだろう。
この2年間、図書館が開館している幸せというものをしみじみ感じた。
この次こそは、ゆっくり書棚の間を歩き、読んだことのない分野の本を手に取ってみよう。