今が一番 人生で若いとき~2022年5月に読んだ本から
読んだ本を忘れないため、毎月、読んだ本の中から 印象に残った本 を 記事にしている。
5月に読んだ本の中から、印象に残った本3冊。
1 森に願いを 乾ルカ
「ここはとても気持ちの良い森なんです。どうか歩いてみてくださいませんか?」
不治の病、就職、リストラ・・・
さまざまな思いをかかえて森に入り込んだ人々に、「テノールの声の森番」は声をかける。そしてその声は、静かに人々の心にしみこんでいく。
「こんなすてきな森を 毎日歩く生活をしたいなあ。」というのが、まず最初の感想。
でも、読み終わって、「この森だけでなく、まわりの自然の素晴らしさを 感じられるような心持ちで 暮らしていきたいなあ」と思った。
7つある短編。登場人物たちのほとんどは、その森の素晴らしさなどに気づけない精神状態である。
1つめの話「色づく木」。
息子が不登校になってしまった母親の 出口のない悩みが痛々しい。だれかに相談できれば楽になれるんじゃないかと思うが、渦中にいるときは、そんな余裕も無くて、どんどん悪い状態になっていくんだよね。
同じ作者の「わたしの忘れ物」も良かったが、次のような一節があったので、こちらの本をとりあげた。
「今が一番 人生で若いとき」
ずっと覚えていたい言葉だ。
2 十三番目の子 シヴォーン・ダウト
「一人の女が産んだ 十三番目の子は、その十三回目の誕生日に、いけにえとならなければならない。」
こんな言い伝えのある村で、十三番目の子として生まれた娘ダーラ。
生まれてすぐ、親や兄弟から離され、いけにえとなるべく育てられる。
しかし、明日十三歳の誕生日を迎えるその晩、ダーラは、衝撃の真実を知ることとなる。
正直、読んでいて怖かった。
言い伝えも怖いし、いけにえの方法も怖くて息苦しくなった。いざ、いけにえをささげるというとき、周りで見ているたくさんの人々も怖い。
でも、読むのをやめることはできなかった。
短編の部類に入るのだと思うが、印象に残るか残らないかは、お話の長さではないと再確認した一冊。
3 線は、僕を描く 砥上 裕將
突然の事故で両親を亡くし、ひとりになってしまった青山霜介。バイト先で出会った水墨画の大家 篠田湖山に気に入られ、水墨画を始めることとなる。
湖山の孫で、才能にあふれる若き水墨画家の千瑛は、そんな霜介と「湖山賞」を争うと宣言する。
湖山は、霜介の中の何を見いだして 水墨画に導いたのか? しだいに水墨画の魅力にひかれ、自分とも向き合う霜介。
「静かでやさしい」という印象を受けたのと同時に、水墨画にかける なみなみならぬ情熱も感じたお話。
水墨画のことは全く知らないが、とても詳しく書かれていて、「作者の方は、かなり取材したんだろうな」と思っていたら、作者自身が水墨画家であった。
2020年の本屋大賞3位の作品だが、全く知らない作品だった。10月には実写映画が公開予定とのこと。
お話に出てくる「春蘭」と「菊」を砥上さんご本人がかいている 水墨画動画を視聴した。
「ふえ~すごい!」
「きれい!」
水墨画、恐るべし!
本を読んでいると、思いがけなく昔の記憶がよみがえってくることがある。
「線は、僕を描く」を読んでいる時、突然ふっと墨の香りを思い出した。
25年ほど前、習字を習っていたことがある。
市販の墨汁を使うだけでなく、自分で墨をすって書いたこともある。
固くひんやりした墨の手ざわり。すずりに水を入れ、静かにすっていく。
ほどなくただよう墨の香り。
とても落ち着くし、大好きな香りだった。
「水墨画ではないが、やっぱり『線』を書くのは難しかったよなあ。」
「画数の多い字より、少ない字の方が形をとれなかったよなあ。」
などと、今まで忘れていたことも次々とよみがえってきた。
「また、習字をやってみようかなあ。」 と、ちらっと思った私だった。
(25年ほど前に習った習字。墨の香りは大好きだったし、楽しかったのだけれど、やはり長続きせず 私の中で「ものにならなかった習い事BEST3」に君臨しています。)