何者
絶賛就活中ですが、本を読んでみました。
『何者』(朝井リョウ著)という小説です。
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎が率いるバンドの引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから―。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に潜む本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えてゆき・・・。
(『何者』あらすじより)
感想(※以下、ネタバレを含みます。)
就職活動中に読めてよかった。
おかげで、より世界観に入り込めたように思います。
グサッと刺さる言葉は増えましたが…。
主人公「拓人」の考え方が、少し自分と似ているように感じたんです。
序盤から中盤までは、「うんうん、確かに!」と、「拓人」の考え方に納得する感じで楽しめていたのですが、終盤にさしかかるあたりで、大勢の前で怒られているような、恥ずかしい感覚に陥りました。
p.249の瑞月の「ねえ」から、流れが変わったかなと。
そして、p.299の理香の「ねえ」から、あ、これは、ヤバイかもと思い始めました。自分の薄っぺらい思考を見透かされてる感じで、胸をえぐられました。
個人的には、考え方の深さの構図がこんな感じで変化していったような気がしました。
~p.249
拓人>他の4人
pp.249~299
拓人、瑞月、理香、光太郎>隆良
p.299~
拓人<光太郎、瑞月、隆良、理香
序盤は、「拓人」めっちゃ深く考えてるんだなあと思っていたけど、そう見えてるだけで実は…という流れだったように感じます。
「拓人」のように考えてしまうことが自分もたまにあるので、とても心を揺り動かされました。完全に「拓人」のような考え方をしているわけではもちろんないです。けど、冷や汗が出てきて、胸が苦しくなった、ということは、図星ということで…。そんな自分が、少し嫌になりましたね…。
巻末の解説を読んで、救われた気がしました。
僕のように、自分は拓人に近いかもと思ってしまった方は、解説まで読むことをおすすめします。
もっと泥臭く生きよう、そう思えた本でした。
心に残った言葉集
「就活をしない」と同じ重さの「就活をする」決断を想像できないのはなぜなのだろう。
(p.88)
「だって、短く簡潔に自分を表現しなくちゃいけなくなったんだったら、そこに選ばれなかった言葉のほうが、圧倒的に多いわけだろ」
「だから、選ばれなかった言葉のほうがきっと、よっぽどその人のことを表してるんだと思う」
「ほんの少しの言葉の向こうにいる人間そのものを、想像してあげろよ、もっと」
(p.204)
「最近思ったの。人生が線路のようなものだとしたら、自分と全く同じ高さで、同じ角度で、その線路を見つめてくれる人はもういないんだって」
(pp.249-250)
「十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。これから目指すことをきれいな言葉でアピールするんじゃなくて、これまでやってきたことをみんなに見てもらいなよ。自分とは違う場所を見てる誰かの目線の先に、自分の中のものを置かなきゃ。何度も言うよ。そうしないともう、見てもらえないんだよ、私たちは。百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって」
(p.254)
「たとえば、結婚とか、子どもができたとか、転職とか?何でもいいんだけど、これからは、もう自分で動かないと自分の名前って変わんないのかとか、いきなり思っちゃったんだよなー。俺、これから何もしなかったら、今の俺のままじゃん、これから先ずーっと」
(pp.281-282)
「まるで全知全能の神みたいなさ。人生の師みたいなさ。さっきの後輩の子とか、俺が内定ふたつ持ってるって言っただけでそうなったもんな。」
(p.290)
「自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。」
(p.310)
「自分が笑われてることだって分かってるのに、名詞作ったりしてるのは何でだと思う?」
「それ以外に、私に残された道なんてないからだよ」
「ダサくてカッコ悪い自分を理想の自分に近づけることしか、もう私にできることはないんだよ」
「ダサくてカッコ悪い今の自分の姿で、これでもかってくらいに悪あがきするしかないんだよ、もう」
(p.311)
「いつか何かのきっかけで自分は変われると思ってる。未練たらたらで演劇系の企業受けてたのだって、どっかで『君は他の子と違って面白い考え方をしてるね』なんて評価されることを期待してたんじゃないの?そんなエピソードはね、誰のところにだって降ってこないんだよ。」
(p.313)
「距離をとって観察していないと、頭がおかしくなっちゃいそうになるんだもんね。でもね、そんな遠く離れた場所にひとりでいたって、何も変わらないよ。そんな誰もいない場所でこってりと練り上げた考察は、分析は、毒にも薬にも何にもならない。それは、誰のことも支えないし、いつかあんたを助けたりするものにも、絶対ならない。」
(pp.316-317)
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