【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 17
斑鳩寺の寺司である聞師は、寺主の入師に僧坊に呼び出され、不恰好な仏像を2体見せられた。
「これは……?」
「今朝方、若いのが燃やそうとしていてね。塔内を掃除していたら見つけたそうだよ。それで、どうしたものかと相談していたら、寺法頭が燃やすように言ったらしいが……」
格子窓から漏れる明かりを頼りに、入師は経典の文字を目で追いながら話す。
「はあ……、それで?」
聞師は、手元の仏像と入師を交互に見た。
入師は顔を上げる。
「うむ、お前に、その仏像に心当たりがないかと思ってね?」
「はあ……」
聞師は、再び仏像を見た。
仏像と言えるだろうか?
傷が付いている、ただの木片のようだが………………
「ないこともないですが……」
「ほう、それで?」
「入師様、この仏像、私に預からせて頂けないでしょうか?」
「……いいでしょう、好きにしなさい」
聞師は2体の仏像を抱え、入師の僧坊を後にした。