大人になっても、キッカケさえあれば成長し続けることができる!~構築発達理論①~
これまでに、「物の見方」の重要性についていくつかのポストでお話させていただきました。
(留学時代のお気に入りの授業紹介もぜひ↓)
今回は、その「物の見方」に着目した「構築発達理論」(Constructive Developmental Theory)の基本的な考え方について紹介したいと思います!
日本で丁寧に解説されたことがあまりないので、
何回かのシリーズに分けて、英語の文献を分かりやすく説明していきますね。
1. 一昔前の「大人の成長」の考え方
10年ほど前、仕事が軌道に乗ってきた頃の自分。
自らの付加価値だけでなく、チーム全体のパフォーマンスをどう向上させるかに関心が向いていた時期でした。
ただ、そんな中難しさを感じ、こう思ったことも…。
「〇〇さんってこういう人だから、何を言っても変わらないな」
「正直、自分の力でこの人を変えるのは無理」
この当時の私の考えと同様に、30年ほど前には、学術界でも、
「物の見方」や精神的な成熟度は、遅くとも20台までで一定程度に達し、その後は成長しない
と考えられていたということなんです。(以下の図参照)
2. 現在の「大人の成長」の考え方
ところが、近年、そうした研究を覆す結果が出てきているということです。こちらの図をご覧ください!
いかがでしょうか?
この海外の成人を対象に年齢とMental Complexity(精神的な成熟度)を調査したリサーチによれば、以下のようなことが分かっています。
・年齢が上がるごとに、緩やかに精神的成熟度も向上している。
・他方、どの年代でも精神的な成熟度の異なる人々がいる。
・例えば、30台でも70台より成熟している人もいる。
一見意外かもしれませが、
実は皆さんの職場や周りの人を見た時に、「確かに!」と思われる部分もあるのではないでしょうか。
私の職場でも、50代なのに精神的に成熟していない人もいれば、入社したばかりなのにものすごく大人な考え方をする人もいるな、と振り返ってみると思います。
3. 成長は行きつ戻りつ?
さらに、このリサーチ結果では、
成熟度は単純に時間をかければ比例して上がるものではない
ということも分かってきています。(以下の図参照)
成熟度が向上していった後、少し停滞している「高台」のような場所がありますよね。
この「高台」は、異なる「物の見方」に対応しており、
・ある一定の成熟度に到達すると、一定期間そこに留まる。
・次の段階に移ることは段階が上がるほど難しく、時間がかかる。(※右にいくにつれて線が細くなっているのは、そのためです)
ということです。
次回以降、この「物の見方」について詳しく見ていきますが、
大人の成長も、行きつ戻りつ、ということなのかもしれませんね。
4. 構築発達理論とは?
構築発達理論は、こうした考え方を踏まえてRobert Kaganらが提唱した理論で、その根幹は以下の図のように3つあります。
では、1つずつ見ていきましょう。
①Constructivism(構成主義)
「人間はその発達段階に応じて、事象を「構成」・「意味付け」し、周りにある現実を解釈する」
というのが、Constructivism(構成主義)です。
以前、こちらの記事で、同じ物事に対しても人によって解釈の仕方が全然異なる!ということを紹介しましたが、まさにその話です。
人間とロボットとの違いは、わたしたちの脳が身の回りの事象を捉える時に「解釈」や「意味付け」を加えることにあります。
例えば、リンゴがテーブルに置いてある時に、私達はそれを「リンゴ」として認識するだけでなく、
「お腹が空いたので、食べたい」
「どこからこのリンゴは来たんだろう?」
「アップルパイを作ろうかな~」
といったことを同時に考えたりしています。
これは単純な例ですが、困難な課題に向かっていく上で、その「意味付け」や「解釈」に、「発達段階」が関係しているのでは?という仮説なわけです。
②Developmentalism(発達主義)
「構成・意味付けの仕方(物の見方)は、発達段階に応じた適切な支援と困難が与えられれば、生涯を通じて発達させることが可能」
というのが、Developmentalism(発達主義)です。
私はこれを構築発達理論の根幹と捉えており、講演したりするときにはこうお話しています。
「人間は大人になったら「変わらない」「変われない」と思われがち。
でもそうではなく、
誰でもキッカケさえあれば「成長し続ける」ことができる。」
ここのポイントは2点あって、それは
・「発達段階に応じた」ということ
・「支援(サポート)と困難(チャレンジ)」ということ、です。
つまり、発達段階が異なる人に同じようなアプローチをしても上手くいかない。
支援(サポート)だけでは不十分で、困難(チャレンジ)も提供する必要がある。
ということなんです。
1点目は、相手のパーソナリティが異なるからまあそうかな、という気もしますが、2点目は分かりづらい部分もあると思います。
私はこれを、以下のように定義しています。
・「支援(サポート)=居心地の良い場所(環境)づくり」
・「困難(チャレンジ)=居心地の悪い一歩を踏み出せるキッカケづくり」
これらについては、また次回以降詳しく触れていきます!
③Subject-Object Balance(主体ー客体の均衡)
そして最後に、Subject-Object Balance(主体ー客体の均衡)。
「これらの発達現象は、自分が一歩距離を置いて捉えることができるもの(Object:客体)と、自分達がその中に埋め込まれていて(真実として捉えているために)見えないもの(Subject:主体)とのバランスの下に成り立っている」
という考え方なのですが、中々難しいので図示しているものを探してみました。
要すれば、
・「客体」というのは、一歩引いて客観視することができるもの
・「主体」というのは、自分が支配されている「暗黙の前提」や「大きな想定」
・左から右に発達段階が成熟するにつれて、以前は「主体」として客観視出来なかったもの(一番左の四角形、真ん中の五角形)を、「客体」として一歩引いて見ることができるようになる
ということです。
「まだこれでも分かりづらい!」とか、
「暗黙の前提とか、大きな想定って何?」とか、色々あるかもしれません。
でも、おそらくこの構築発達理論シリーズを全部お読みいただいた後にここを読むと、お分かりになると思います(のでご心配なく!)
最後にまとめると、
構築発達理論を理解する上で共通して重要になってくるのは、以下の2点です。
・自己を一歩引いて「客観視」すること
・そのために、「物の見方(Ways of Knowing)」に着目すること
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
まず導入でしたが、いかがだったでしょうかー?
次回以降は、この「物の見方(Ways of Knowing)」としてある「4つの発達段階」について詳しく見ていきたいと思います。
引き続きフォロー、御覧のほどよろしくお願いいたします^-^
4. 参考文献
・Drago-Severson, E. (2009). Leading adult learning: Supporting adult development in our schools. Corwin Press.
・Kegan, R., & Lahey, L. L. (2016). An everyone culture: Becoming a deliberately developmental organization. Harvard Business Review Press.