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20241002 マダンテとフロス

かつてとある時間労働をしていた時、Bさんという会員さんが従業員の悩みの種になっていた。想像を絶するレベルの潔癖症のBさんはほとんど毎日やってくるのだけれど、その対応には受付からなにから特別の対応が必要とされ、やたら神経を使わねばならず、ほとんど全てのスタッフがBさんのことを疎ましく思っていた。

▼個人的には「さわらぬ神に祟りなし」ということで勤務時間中にBさんが現れた時にはなるべく接点を少なくして、あまりそばへと近づかないようにしていた。そもそも一応の体としてはそこがラグジュアリーな感じの施設だったこともあって、やってくるゲストや会員さんは軒並み高所得者層であり、彼らは施設のスタッフに対してはあんまし人を人と思わない様子が散見されていたので常に少し警戒しながら勤務していた。

▼ゲストや会員さんから話しかけられることはそもそも何かしらのトラブルやクレームを意味するのでとかく鬱陶しいことではあった。「なんだその勤務態度は!」と思われるかもしれないし、実際「この場、この施設にふさわしい接客を」と引き継ぎ書に書いてあったりはしたものの、それにふさわしいだけの時給をもらっている感覚がスタッフ一同微塵もなかったので総じてモチベーションが低く、なんだかチグハグなオペレーションになっていた。

▼やれ床の水を拭け、だの洗面台がちょっと汚れているから掃除しろ、だのタオルをもってこいだの他のゲストがうるさいから注意しろ、だの、そういうことばかり口うるさく命ぜられるので、Bさんが来館すると「うわBが来た!!」「Bが来たぞ!」「来んなよもう!」と、スタッフが気怠げにインカムで交信を交わすのがお決まりになっていた。改めて書いてみるとひどい話ではあるが接客業なんてそんなもん、という気もする。

▼Bさんはあるとき、積年のその横柄な態度に堪えかねた社員さんの”マダンテ”と呼ばれた方法によってその施設を退会させられていた。いろんな証拠を揃え、従業員にも聞き取りを行い、周到に準備した上での”マダンテ”だった。「ああ、大人になっても人はマダンテを放つんだな」と思ってその様子を見ていた。その社員さんは半年後に退職を控えていたので文字通り捨て身というか、刺し違える形でBさんを追い出したのだった。

▼Bさんから言われたいろいろな腹立つことは今となってはほとんど覚えていないが、彼が窓際のベッドに寝っ転がりながら言った「フロスだ。悪いことは言わない、歯磨きのときにフロスだけはしとけよ…」という言葉だけはなんでだか私に刺さって、フロスは今でも欠かすことのできない習慣となっている。あれ以来、おかげで歯の調子はすこぶる良い。こうして思い出してはみたものの、Bさんが今元気かどうかということはまあどうでもいいな、と思ってしまうのだった。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
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