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渋いけどなかなかいい       『地図と読む 現代語訳 信長公記』

渋いけどなかなかいい。側近の大田牛一が近くで実際に見たこと聞いたことを時系列に淡々と書き連ねている。現在進行形のノンフィクションを読んでいるようで、大河ドラマ『麒麟がくる』のお供にぴったりだった。

読んでいると、これまで知らなかった話もたくさんあることに驚く。信長が祭りで天女の格好をして踊ったり、村の衆に対して踊りの感想を話して打ち解けて「お茶を飲まれよ」と振る舞ったりしている。ときには山に住む不具な乞食に木綿二十反を与え、村人を呼んでその者の面倒を見るように伝えたりと寛容で人懐こくて情に厚いエピソードも多い。

その一方で、有名な、朝倉義景と浅井久政、長政の首を漆加工して膳に置き、首を肴にして酒宴をするシーンも出てくる。自分を狙撃した鉄砲の名手を捕え、穴を掘って中に立たせて肩まで土を埋め、首をのこぎりで引き切ったりする苛烈なシーンもある。信長の、情に厚いエピソードと苛烈な行為のかけ離れ方がすごい。

しかし戦国の状況を考えると、道徳から離れることも必要で、果断さがなければ戦乱を突破することはできなかっただろうと思う。信長がいなくても信長的な人間が出現していたはず。歴史上の人物とはその時代の役割のことで、人間は周囲が求める役割からは逃れられないのだと思う。当時の状況地図も載っていて、小見出しも多いので非常に読みやすいです。

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