学習意欲の科学を、体系的かつ簡潔に、具体的アクションまで整理したい(前篇)
《まえがき》
子どもには、もっと前向きに、自立的に学んでほしい。
そのために【学習意欲(やる気)の科学】を、できる限り簡潔に整理することを試みる。
1.研究はこんなに進んでいるのに
学び始めた当初、「褒められるとやる気が下がる」心理作用(アンダーマイニング)について知って驚いたものだった。
よく考えて学んでいくと、それは学生の頃の自分が何度も経験していたとわかった。もっと勉強しなきゃ、と思った。
その後、出会う本出会う本、
【専門的に知りたい人のための理論書】
または
【断片的な理論をもとにしたテクニック本】
ばかり。頭を抱えながらも、とりあえず本をたくさん読んだ。
類に漏れず、学習意欲に関する科学も、「◯◯理論」「◯◯モデル」が多様に存在し、
「結局、現場ではどうすればいいの?」
というところまでうまく落ちていない現実があると感じている。
2.結局、現場は「褒める」と「叱る」に偏る
すべての先生たちが、本を読めるわけじゃない。
また、特に私教育の現場では、科学的に正しいかどうかよりも、保護者が納得するかどうか大きな影響を持っている側面もある。
その結果、「褒める・叱る」のような手法(賞罰教育)に帰着せざるを得ない状況が、続いているのだと思う。
安易に正解を求めるのは、適切な態度ではない。それはそう。
でも、我々の前には、今日も生徒がやってくる。
“そこそこ正しく、そこそこわかりやすい結論”というのも、必要なのでは。
3.無理を承知で、簡潔にまとめてみたい
目的は、「体系的で、簡潔で、具体的アクションが見えるまとめ」。
基本的な理論をベースにしながらも、複雑さを削ぎ落とし、私教育の現場で活用しやすいレベルまで落とし込むこと。
理不尽なチャレンジなので、厳密でないどころか、かなり乱暴にまとめている点は申し添えます。
それをご理解いただいたうえで読んでくれた方、ぜひ、ご意見ご感想ください。可能ならば討論もしましょう。
『理論なき実践は無謀、実践なき理論は空虚』
では、前篇、いきます。
4.その前に、参考にする書籍(一部)
三宮真智子『メタ認知 学習力を支える高次認知機能』
櫻井茂男『自ら学ぶ子ども』
鹿毛雅治『モティベーションをまなぶ12の理論』
ダニエル・ピンク『モチベーション3.0』
ジョン・ハッティ『教育の効果』
ポール・タフ『私たちは子どもに何ができるのか』
村中直人『叱る依存が止まらない』
《現状分析①》モチベーションの3つの構成要素
全ての子ども・生徒にあてはまるアプローチは存在しない。
まずは、その生徒がいまどんな状態なのかの分析・把握が必要。
構成要素1.欲求
①自立性の欲求
…行動選択の自立・目標の自立・感情の自立 等
【やる気を下げる関わり方の例】
・やるべきことを細かく指示する
・監視する
・「〇〇を目指しなさい」
・「もっと焦りを感じるべきだ」 等
②関係性の欲求
…友人関係・良い先生・家庭・居場所 等
【やる気が下がる場合の例】
・友人関係のトラブル
・先生が信頼できない
・家でくつろげない
・話を聞いてもらえない 等
③有能感の欲求
…自己効力感・成長している感覚・役に立てる感覚 等
【やる気を下げる関わり方の例】
・理想とのギャップばかりに注目する
・評価ばかりする
・他者と比較する 等
④知ることの欲求
…知的好奇心
【やる気を下げる関わり方の例】
・(好奇心を発揮しているときに)
「そんなことより〇〇しなさい」等
構成要素2.感情
快・不快/安心・不安/興味/フロー 等
構成要素3.認知
①自己への認知
…私の存在は肯定されている?
②行動への認知
…私はその行動をとることができる?
(自己効力感)
③結果への認知
…その行動は、結果に結びつく?
④価値への認知
…その結果には、どんな価値がある?
【自己効力感を高める4つのポイント】
自己効力感は、「有能感の欲求」「行動への認知」に特に影響する。
自己効力感の高める4要素として、
①直接的達成経験
⇨いわゆる「成功体験」。
自己統制感を伴う成功体験であることが重要なので、強制的に勉強させてテストで高得点を取らせても無意味。
②言語的説得
⇨「応援/期待をしてもらえる」など。
成果への期待よりも、行動への期待。
「あなたはやればできる子」は不適。
期待がプレッシャーになってしまう例にも気をつける。(後述)
③代理的経験
⇨他者の達成経験を見聞きすること。
偉人伝や、友人の経験など。
「成功者との比較」にならないように注意必要。
④生理的・情動的喚起
⇨心身のコンディションを整えること。
心理的安全性。
【まとめ】
・生徒の欲求は、適切に充足されているか
・生徒はどのような感情を抱えているか
・生徒はどのような認知を持っているか
を把握することが、モチベーション向上を促すための重要なファクター。
《現状分析②》モチベーションの4段階
※有機的統合理論における6段階を、勝手に4段階に圧縮しています。
※「モチベーション」=「動機づけ」とします。
①動機づけなし
「学習しようと思わない」
文字通り、意欲がなにもない状態。無気力状態。
学習性無力感との関係も強い。
②他律・外発的動機づけ(外的調整/取り入れ的調整)
「やらないと怒られるからやる」
「やると褒められるからやる」
「恥をかきたくないからやる」
「高い順位を取りたいからやる」
自分の行動→他者の評価→成果 の流れ。
行動と成果に、必然的なな因果関係がない。
統制感が低い(成果を評価者に委ねる)状態。
持続性やパフォーマンスが低い。
③自律・外発的動機づけ(同一化的調整/統合的調整)
「やらないと進学できないからやる」
「将来のために必要だからやる」
「自分の価値観と一致しているからやる」
自分の行動→成果 の流れ。
行動と成果に必然性が高い。
統制感が高い(成果は自分次第)状態。
④内発的動機づけ
「興味があるからやる」
「おもしろいからやる」
自分の行動=成果
自己目的性が高く、パフォーマンスが高い。
【まとめ】
一般に、動機づけが上記①⇨②⇨③⇨④と進むとパフォーマンスや精神的な健康状態が良い。
ただし、安易に「内発的動機づけが最善」と捉えるのは適切でない。子どもたちが人生の中で向き合う課題は、すべて内発的に動機付けられるものではない。学業成績との相関も、④より③の方が高いことがわかっている。
そこで、
①の生徒には②への支援、
②の生徒には③④への支援、
③④の生徒には、そのバランスをとりながら強化する支援を目指したい。
前篇ここまで!
これだけまとめるのにめっちゃ時間かかった。
後編を書きながら、前編もまだ修正するかも。