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伝説の安心感 #毎週ショートショートnote

「あの...すいません、安心屋さんでしょうか」

そう声をかけると、男はびくっと驚き無言で立ち去った。


「無駄だよ。奴はもう店を畳んだ」

近くにいた老人が言う。

「あんた、なぜ安心屋を?もう知ってる人間なんていないと思ったよ」

「噂を聞いて...この町の安心屋さんが一番優秀だと伺ったんですが...」

「そりゃあ優秀だったさ、安心屋の中でも奴はピカイチだった。ありゃ伝説だね。商談、プロポーズ、試合に受験。色んな人が安心感を求めて相談事をしに来た。でもそれも昔の話さ。時代は変わった」

「何があったんですか?」

「努力もせずに無茶な願いに対して安心させろと言ってきたり、ひどい客になると結果が思い通りじゃないと責任を取れなんて言うようになった。しまいには目に見えない安心感を貰いに来てるってのに根拠を問い詰めたり、依頼もしてない周りの人間が奴を叩くようになった」

「そんな...。私はただ安心したかっただけなのに...」

「最初はみんなそう言うんだよ。ただ大丈夫だと奴に言ってもらえるだけで安心した。感謝こそすれ恨む人間なんていなかったのに。安心屋は世の中が変わっちまったせいで消えた仕事なんだ」


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