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そういえばもう、久しく怒ってないな。
僕は怒らない。
怒らないと決めているわけではないが、怒ることは少ない。
ちょっと偉そうな表現で言うと世界を色々諦めていると言ってもいいかもしれない。
期待もしていない分、がっかりもしないので苛立たないのだ。
どんなことがあってもまぁ大体「そうか、仕方がないな」と思える。
しかしこんな穏やかな僕を、あいつはまたおびやかしてきた。
なんの前触れもなくいきなりかけてくる電話。いつものことだ。
話という話がないのもいつものこと。
「最近どう?」と聞きながら、本当は自分の最近の話を聞いてほしいのもいつものこと。
普段なら「僕はいつも通りだよ」と言ってお望み通り話したいであろう近況を聞いてやるのだが、たまたま僕はその日なんだか虫の居所がよくなくて、相手の話に耳を傾ける前に、聞かれた通り素直に最近の僕について話してみた。
そういえばもうしばらく怒ることがなくなったと。
するとさっそく話はあいつのものに変わる。
「へぇ。でも怒らないことが大人だとも思わないし、いいことだとも思わない。なんていうか"怒る"っていうのは、乗り越えようとする力っていうかさ。そういう意味であらゆるパワーを含んでると思うけどな。」
「お前のその"パワー"とやらで、乗り越えるどころか壊れたものもあるけどな。」
「まぁ、そこは否めないね。」
珍しく、僕の放った矢を正面からくらったのか、越に入った弁は続かず電話の向こうは僕の声を素直に受け止めた。
もしもあいつがぶつかり合う前に、いくらかそうやって受け止めることができていたら。
あるいはもっと僕に、怒りを表に出すパワーとやらがあったのなら。
今頃僕たちはどうなっていただろうか。
もっと激しく殴り合っていたかもしれないし、深く抱き合っていたかもしれない。
だんだんと想像するのが簡単じゃなくなってきたその姿を思い描きながら、僕は冷たい携帯の向こう側の、確かに熱が灯るその声に、静かに耳を傾けた。
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