理想に近い鋭利なもの。 -『傷なめクロニクル』読書感想文-
こんなに面白い連載に、私は17年間出会いそびれていたなんて。
やはり世界は知らないことだらけだ。
今年の秋、私が4冊目に読んだのはこの本だ。
娘がアイドルになりたいと言い出した」――アイドル目指すなら透明感。“頑張り感”ではありません。「今度200万くれるという妻子持ち男ってあり?」――なぜ今、払えないのか? それを考えてみましょう…といった悩み問答が繰り広げられている光浦靖子さんのTV Bros.悩み相談連載『脈あり?脈なし?傷なめクラブ』。2013年以降に掲載されたものの中から、厳選回を書籍化します。見方を変えると世界が変わる。ハッとすること間違いなし! 教科書どおりの答えなら誰でも知っている。それができないから悩むんでしょう?
<傷なめクロニクル>
本書がそうだという話ではないのだが、基本的に私は「女」を語る女の人があまり好きではない。(皆そうかも知れないが)
そして今まさにそれをやっているというのを全力で棚にあげて話を進める。
厳密に言うと女性ということを強く出しながら何かを語ったり「これだから○○(性別)ってやつは…」みたいな女性あるある、男性あるあるを得意げに話す人が苦手なのだ。ポイントは多分得意げ。
それしか正解がないかのように、決めつけるように弁を振るわれるのがなんとなく嫌なのだと思う。
自サバ系、たるもの/らしく系、権利主張系、どれもあまり好きではない。
男だろうと女だろうと仲間を集わせることなく各々黙々と好きにやればええがなと思ってしまう。
そんな私にかなりの鋭さを持って突き刺さったのが本書だった。
本当にその通りだなと思ったり、全くそうは思わなかったりするある種の「決めつけ」に近いくらいの仮定や想像、持論がとにかく秀逸なのだ。
こんなにも決めつけが気持ちいいのは初めてだった。
そしてなぜだかこの本は、私を"女でよかったなぁ"と思わせてくれた。
もちろん男性でも女性でもこの本を楽しめるとは思うが、著者と同じ性別で、社会の見方や感覚を近しい気持ちで察知できたからこそ、より楽しめた部分も多かった気がして、日頃あまり女でよかったなぁと思わない私だが、そんなことをふと思ったのだ。
それくらい、面白い。
ここで私は気がついた。
私は決めつけや言い切りが嫌だったのではなく、今までその決めつけられたものが、あまり自分にとっては気持ちのいいものではなかっただけなのではないだろうかと。
言い方や書き方、態度、内容、目的。要因はさまざまあるだろうが、何か自分とはズレを感じることを、強い勢いを持って提示されるのがおそらく苦手だったのだ。
しかし、自分とは全く違う考えの場合でも、本書にはその気持ち悪さは起こらない。それどころか自分とはズレているものですら、なぜか肯定的に捉えられることができた。
そこには圧倒的に鎮座したユーモアがあったからだ。
ここにあるユーモアは、どんな言葉をまとっていようと根底に読む人への愛にも似た「楽しいを届ける」という心が備わっている気がする。
そう思った。
以前私はTwitterで「誰も傷つけない鋭利なものが欲しい」という、そこだけ切り取るとちょっとイタめなつぶやきをふと書いたのだが、これはまさに誰も傷つけない鋭利なものの塊だと思った。
著者の操る言葉の絶妙な塩梅が、この本の鋭さと面白さをつくっているのだ。
「文章」に特にそういった垣根のような捉え方は必要ないのかもしれないが、私は今まで芸能人、有名人の書いた本というのを読んだことがなかった。
率先して敬遠していたわけではないのだが、たまたま出会わなかったのと、もしかしたら小説などの場合は「書いた人」というのがあまり想像できない方がその小説自体と0から向き合える気がするからその方が好きというのはあるかもしれない。
本書は、これをどんな人が書いているのかわからなくとも、もちろん面白い。そして著者が著者であるからこそ、そして私がなんとなくその人をテレビなどで見たことがあって知っているからこそ、もっと面白かった。
とは言っても、私は特に光浦靖子さんの何を知っているというわけでもないのだが。むしろ顔や声、テレビに出ている時に映し出されたそのキャラクターしか知らない。
これを読んで、私はもっとこの人について知りたいと思った。
この本によって、私にとって著者は「テレビでよく見る芸能人」から「ものすごく面白いことを考えたり書いたりしている興味深い人」になった。
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