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電脳虚構#14 | ザッピング・ルーム(下)


Chapter.4 シェア・ホスピタル からの続き

Chapter.5 暴露


彼女は以前、この「シェア・ホスピタル」チームのチーフプログラマーだった。
もともとは彼女の提案からスタートした社運をかけたこの計画。

「天才」と言われる彼女はいつでもクレバーで最高の仕事仲間だった。
才色兼備、女性としても魅力があり「相棒」からいつしかそういう関係にもなってしまう。

その噂が社内に広まり彼女はこのチームを、会社を追いやられしまった。
僕は彼女を庇わなかった、自分の地位を失うことを恐れて。

しかし「医療を必要としている人の為に、この計画。必ず成功させてね」
と、彼女は恨む言葉もなく去っていった。

その後「計画の成功を祝いたい」と彼女から連絡があり、久しぶりに会った。
彼女はやはり奇麗だった。
そしてその罪悪感から、家に誘いこのザッピングルームで暮らすことになる。

彼女とはいいパートナー関係を築いていたと思っていた。
記者になったとは聞いていたが、こんな下衆なゴシップ誌のライターをやっているとは。

プログラムの構造を熟知している彼女を、ここに住まわすその危険性は十分に理解しているつもりだった。
僕しか知りえない「ザッピングルーム」の名称が暴露されたということは、彼女は確実にプログラムにアクセスし解析を行ったということだ。

その週刊誌の記事は大きく話題になり、メディアでSNSで一斉に集中砲火の大炎上がはじまった。

世間からはいくらでも誹謗中傷を受けても構わなかった。
問題なのは「ザッピングルーム」で僕の帰りを待つ彼女たちだ。

実名の報道だ、全てばれているだろう。

まずは1chのイチカにチャンネルを合わせ、家に帰った。


Chapter.6 イツキ


「ただいま」の声を投げたがしばらく返答はなかった。
リビングにはあからさまに週刊誌が置いてある。

イチカはキッチンで背を向けたまま、声を震わせ話し始めた。

・・やっぱりダメだ。

僕はイチカの言葉をさえぎるように、すぐにチャンネルを変えた。


フタバは感情を察する間もなく、嫌悪感をぶつけてきた。

そこいらに落ちているモノを見境なく投げつけてきた。
問題の週刊誌が宙を舞い、僕の額めがけて飛んできたのを避けるようにチャンネルを変えた。


ミツキに変えた瞬間に拳が飛んできた。

彼女とは利害関係の一致、身体の関係。
きちんと割り切った関係だったはずなのに、実際はそうではなかった。

きっといつのまにか僕に依存していたのだろう。
普段はクールでも最も繊細だったのは、彼女だったのかもしれない。

感情のタガがはずれたミツキ。
もう我を忘れている目をしていた。

次の拳が僕の頬に当たる瞬間、急いでチャンネルを変えた。


ヨシコはさすがに気の知れた相手だ。
もともとの僕の「浮気癖」は知っている。それでも今回のことは堪えてるようだ。

「今度こそ僕を信じて」と、その言葉を彼女に投げ、それをなんど裏切ってきたのだろう。

声を殺して泣いている彼女をみるのがたまらず、チャンネルを変えた。


そして5chに合わせた瞬間に、激しい頭痛を感じた。

普段、この「ザッピングルーム」は僕の脳波や身体情報など、たくさんの要素をリンクさせている。
その情報をもとにAIを形成したり、他のチャンネルとの整合性を保っている。

そのリンク機能が暴走していることはすぐにわかった。

どうしようもない頭痛にうずくまる僕。
その背後にいるのは・・イツキだった。

「・・・どう?気分は。
ここは”5チャンネル”っていうのかしら?

この部屋のプログラムにトラップを仕込んだの。
その頭痛。いま、あなたのAIを急速に書き換えているわ。」

確かに脳内の情報が洪水のように流れているのがわかる。

「他のチャンネルの皆さんとの”修羅場”。
その相手している”あなた”は今頃は暴走しているでしょうね。

殺しあったりしてなきゃいいけどね。」

Last Chapter. レイカ


そのイツキの言葉を聞き、慌ててチャンネルを変えた。

イチカは普段は感情を露にしない女なのに、泣き叫び僕に掴みかかっていた。
その手には包丁を持っていた。

フタバは僕のゴルフクラブを振り回し、家中の物を破壊しまくっていた。
僕を睨みつけ「ゆるさない」と、クラブを振り上げこっちへ向かってきた。

ミツキは倒れうずくまる僕に構わず、容赦なく何度もこぶしを振り上げた。

ヨシコもパニック状態になっていた。
「今度こそ信じてたのにナ・・」と、血だらけの手には割れたグラスの破片を強く握っていた。

チャンネルにイツキに戻すと、彼女は高笑いをして僕を蹴とばした。

「どう?面白いことになってたんじゃない?
あなたがいままでしてきたことのツケが一気に来たみたいね。

あの”人を助ける為”の私のシェア・ホスピタル計画をこんなことに使うとはね。
許せるわけないじゃない!

だからこのプログラムの深い階層の下にウィルスを仕込んだのよ。
最高のタイミングで復讐できるように、時限装置のようにね。」


このチャンネルはまずい。ウィルスが脳を侵食して頭が割れそうだ。

たまらずチャンネルをザッピングするが、どのチャンネルも狂気に満ちていてもう逃げ場がない。

「イツキ・・僕が悪かった。君を裏切ったこと、システムを改造して欲望のため悪用したこと。全て謝る。だからもうやめてくれ・・。」

イツキはニヤァと笑い、僕にスマホの取り上げた。

「あれーー?逃げ場がないみたいね?そうかしら?
あなたには”帰るべきチャンネル・・家があるんじゃないの?

・・・チャンネル・ゼロに」


チャンネル・ゼロ・・・。
そこにはもうずっと寄りついてはいない。

もともとの僕の家だ。封印してからはずっと僕のダミーに任せたままだ。

あの部屋には帰れない、もう二度と。
あそこは地獄だ。

でももしかしたら・・?という思いもあった、きっとAIがずっとうまくやっていてくれたはずだ。
このままどのチャンネルにいてもどの道、結末は地獄だ。

割れそうな頭を押さえながら、イツキからスマホを奪い返した。

「よーやく決心したのね、行ってらっしゃい。

 よろしくね、、、レ・イ・カ・さんに」

僕はチャンネルをゼロに合わせた。



目の前がかすみ、意識が遠のく。
そして・・すでに冷たい金属の感触があった、そう僕の心臓に。

血まみれで僕に馬乗りになったまま、包丁を握りしめ泣きわめく女。

それは3年ぶりに再会した「僕の妻・レイカ」だった。




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