イラストレーターは絵を描くんだから、デザインもできるんでしょ、という方へ
イラストレーターと似たお仕事シリーズ(?)、長々とお送りしてきたが、これが最後(たぶん)。前回までの「イラストレーターと画家の違い」については、ひとまずオシマイ。今日はタイトル通り「デザイナー」のお話。
「イラストレーター」と混同しやすい仕事の一つが「デザイナー」だ。たまに私も「デザインもお願いします」と言われることがあって戸惑う。このふたつは、よくよく知れば、赤面するくらい全く違う職業である。しかし遠巻きに見ていると、区別がつかないものの筆頭のようだ。
知ってる人からすれば「今さら?」と言う話だけれど、意外と混同されている方も多いようなので、サクッと書いてみようと思う。
なぜか混同されやすいイラストレーターとデザイナーの仕事
「イラストレーター」は、ざっくりいうと「絵を描く仕事」である。
前回までに、イラストレーターと画家の違いについて書いたけれど、どちらも絵を描く仕事であることには変わりはない。
しかし、イラストレーターとデザイナーは仕事内容が全く違う。デザイナーは絵を描く仕事ではないからだ。デザイナーの仕事は、ちょっと絵が得意だからと言ってできるような単純な仕事ではない。
イラストレーターはパーツ、デザイナーは全体をつくるひと
ではデザイナーは何をするのか。表題の通り「全体をつくる」のがデザイナーの仕事である。
例えば本を作る場合、出版社は挿絵やカバーの「絵」ををイラストレーターに、本全体のデザイン(装丁)をデザイナーに依頼する。
イラストレーターはカバーのためのイラストや、中の文章に合わせた挿絵(カットイラスト)を描く。あくまでも、個々のパーツを作るに過ぎない。
それに対して、デザイナーの仕事の範囲はもっと大きい。カバーの紙選びから全体の色合い・トーン・イメージの決定、文字のフォントや大きさ、(イラストを入れる場合)どこにどんなイラストを入れるか、イラストレーターの選定、中の文字の書体や配置などが含まれる。デザイナーの仕事はまさしく、本全体を作る仕事なのだ。
さまざまなデザイナーの仕事と役割
世の中のプロダクツには、ほぼすべてのモノにデザイナーの手が加えられていると言っても過言ではない。洋服、車や電化製品、お菓子のパッケージから書籍、街角のポスターまでとジャンルは幅広い。
ファッションデザイナー、工業デザイナー、パッケージデザイナー、エディトリアルデザイナー(ブックデザイナー)、グラフィックデザイナーと名前は変わっても、その全体、形を「デザインする」のがデザイナーの仕事と言うことには変わりはないのだ。
「デザイン」とは絵を描くことではない。目的に沿って「最適な形」に落とし込むことである。
ファッションであれば、防寒などの用途はもちろん、体のラインをキレイに見せたり、着ている人の魅力を引き出すと言った目的でデザインされる。
工業製品は洗練されたデザインで購買意欲を持たせる以外に、どこにボタンをつけるかなど、使い勝手も考慮されるのだ。
パッケージやポスターは、見た人に訴えかけ、購買やイベントに足を運ぶなどの実際の行動に結びつくような効果が期待される。
イラストレーターは基本デザインはできない、と考えてほしい
イラストレーターの中には、キチンと勉強をしてデザイナーを兼ねている人もいるが、ほとんどのイラストレーターはデザインはできない、と考えた方がいい。
私にも「印刷までお願いしたい」などなど、ざっくりとした感じでデザインまでの依頼が来ることがまれにあるのだが、私はデザイナーではないので、残念ながらデザインはできない。
繰り返すが、デザインとは、絵がちょっとかけるからと言って簡単にできるものではないのだ。キチンと専門的な勉強をした人だけができるものなのだ。
イラストレーターにデザインを頼むのは、野球選手に水泳やフィギュアスケートでメダルを取れ、歌手にピアノやギターを弾きこなせと言っているくらい、いやそれ以上に無茶な話なのだ。
(おしまい)