見出し画像

オフィスひめの通信 19号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2012年2月

-子どもの栄養療法 まず家族の食卓を豊かにしよう-

 子どもを育てる上で大きな悩みの一つは、何を食べさせようか、好き嫌いをどうしたらよいかといった食事の問題ではないかと思います。栄養療法を始めて実感したことがいくつかあります。

  • Simple is Best(料理ではなく食材を大事に!)

  • 空腹は最上のソース(お菓子やスナックで空腹を紛らわさない)

  • 生きることは食べること(食べ物で日々の体が変わっていく)

 サプリメントを使った栄養療法というと人工的なイメージがありますが、基本は豊かな食材の栄養をそのままいただくことにあります。あくまで食事が基本であり体質的に不足する栄養素をサプリメントで補うという考え方が重要です。
 世代間で同居することが少なくなったり、親一人と子どもだけの食卓が多くなったりするとどうしても子どもが好きな物を作りがちですね。これでは食材の幅が狭くなってしまいます。親はまず自分自身の健康のために食事を作りましょう。毎日の食材を豊かに変化させていけばそれだけ栄養素不足の可能性が減っていきます。子どもには少量ずつ、味付け薄めで食べてもらえばよいのです。
 子どもの時は灰汁(あく)の強いもの、苦みや香りの強いものはあまり好きではないのが普通ですから食べなければ無理強いせずまた次に料理した時に出してみます。子どもが食べないからといって、子ども用に別に料理を作るのはあまりお勧め出来ません。親が楽しそうに食べていればそのうち食べるようになると楽観しましょう。最終目標は「楽しく健康的な食事が出来る大人」に育てることです。気長に楽しく子育てしましょう。

-子どもに必要な栄養とは?成長に必要な栄養素-
 体重当たりの代謝が活発で成長を続ける子どもには、体を構成したりエネルギーを産生させたりする栄養素がよりたくさん必要です。基本は妊娠期に必要な栄養素と同じです。たんぱく質、ビタミンB群、ビタミンC、鉄、亜鉛、カルシウムやマグネシウムなどが重要でしょう。脳や神経細胞も発達するので必須脂肪酸(EPA、DHA)やレシチンなどの脂質も食べさせたいですね。加工食品を出来るだけ使わずに素材の味を覚えてもらいましょう。作っても子どもが食べてくれない場合は、あまり神経質にならずいつか食べると開き直りましょう。子どもに合ったレシピなどお気軽に栄養士にご相談ください。

-子どもにも低血糖があります-
 いくつから機能性低血糖症の可能性があるのでしょう? 5歳程度でも低血糖症の症状が出ることがあります。実際に当クリニックでは10歳のお子さんに糖負荷試験を行って低血糖症であることを確認したことがあります。
 低血糖症は甘いものを食べると一時的に落ち着きます。常に糖分を欲しがるようになることから糖中毒という呼び方をすることもあります。親もついつい甘いものを多く与えがちになり低血糖症を悪化させてしまいます。子どもは一般的にお菓子やピザなど糖質・炭水化物が好きですからやめるのには忍耐がいります。
 でも一度糖質・炭水化物をやめる期間を長くとることが出来れば、本人が「お菓子を食べた後は不調になる」と気付くようになります。幼稚園生でも小学生でもよく話をすれば理解してくれます。
親も一緒になって炭水化物やお菓子をやめましょう。親もさらに健康になります。

子どもが不登校になった時-
 
栄養ですべての不登校が改善するわけではありません。でも私たちのクリニックでは小児精神科や心療内科と提携して多くの不登校の方の相談に乗っています。不登校の原因の一つとなる体調不良の原因に栄養の問題があることが多いからです。
 その際に次のようなことを心がけ、相談の方々にもお話しています。

  1. 不登校の状態にある子どもをまるごと受け入れる(そのままでも十分素晴らしい)

  2. 栄養療法の目的はその人本来の力を発揮させることにある(人それぞれ、到達点は異なる)

  3. 最終目標は健康で自立し自分の能力を発揮できる大人になること(学校に行くのは手段の一つであって目的ではない)

 物心ついたお子さんの場合の栄養療法は、大人とほとんど同じです。血液検査をし、ご本人にもよく理解、納得していただき、サプリメントを含めて食事の実践をしていただきます。
とは言え、お子さん自身がこういった治療法を望まない場合もあるでしょう。その場合にはまずご両親自身が栄養療法を実行してみてください。栄養療法の利点は誰でも安全に毎日の生活で実践できることです。親が出来ないことを子どもに強制してはいけません。
 栄養療法を行うことで親自身が抱えていた問題に気付くでしょう。家庭全体で食事に対する意識や食材を変えていき精神や体の変化を実感していければ、おのずからよい方向に向かうのではないでしょうか?
中学高校を不登校で過ごしても自分の希望する大学に進み好きな学問をしている子どもや自分の希望する職業についた子どももいます。子どもがのびのびと能力を発揮できるようにゆったりと見守りましょう。
 次回は成長期~受験期の栄養についての話題です。お楽しみに!


亜鉛の話 ~アトピーかも!!あわてるのは早いですよ~

 赤ちゃんが生まれてからも母乳やミルクは足りているかしら?成長が遅くないかな?などお母さんの悩みはつきません。
 そして生後3か月ぐらいに多くなるのが皮膚のトラブルです。顔が赤くなったりひっかいてしまったりかゆみでぐずって眠ってくれなかったりすると親子ともども睡眠不足で困ることもあるでしょう。アトピー性皮膚炎かも!食べ物が悪いのかしら?毎日ダニをなくすために掃除機をかけなきゃ!ステロイドの外用薬を使って大丈夫?などなど心配なことが山ほど浮かんできます。
 症状がひどい場合には信頼できる小児科か皮膚科の医師にかかりながら上手に治療していくのが一番でしょうが、ここでは病院に行く前の話―栄養欠乏によりアトピー性皮膚炎に似た肌のトラブルが起こることがありますよ―という話に限定して話を進めます。皮膚を形成するのに大切な栄養素はビタミンA、たんぱく質、ビタミンB群、ビタミンC、鉄などたくさんあります。その中でも亜鉛は皮膚と粘膜のミネラルと呼ばれるほど大切です。
 細胞分裂の時には必ず亜鉛がかなりの量使われるので、成長の活発なこの時期に症状が出やすいのです。前号では「赤ちゃんは鉄を蓄えて生まれてきますよ」という話をしました。ところが亜鉛は蓄えることが難しいので母乳に頼ることになります。お母さんが亜鉛欠乏だと母乳中の亜鉛が足りなくなって赤ちゃんの亜鉛も不足します。
 母乳を飲んでいる赤ちゃんに症状が出たらお母さんの栄養診断をしましょう。そしてまずお母さんの足りない栄養を補いましょう。お母さんも赤ちゃんも一緒に健康的なプルプルお肌になりましょうね。


~食事療法の嘘? 本当?~

-血糖値と酸化ストレス-
 前回まで、糖質制限食と脂質の話をしてきました。その中で動脈硬化の原因は酸化・変形したリポ蛋白という話を繰り返し述べてきました。酸化とは何でどのように起こるのでしょうか。
 酸素が関わる重要な代謝が体内にはたくさんあります。代謝反応中にエネルギーの高い酸素、反応しやすい酸素が作り出されます。これが活性酸素です。活性酸素は両刃の剣で代謝には役立ちますがただちに消さないと、周囲の正常組織を傷つけてしまいます。フリーラジカルも活性酸素と同じで電子を奪い、正常組織を傷つけます。フリーラジカルと活性酸素は相手を酸化することで性質や形を変えます。
 酸化する力と消去する力のバランスを酸化ストレスの強さと定義することにします。活性酸素やフリーラジカルの方が多ければ、酸化ストレスは強い、消去システム(抗酸化物質や抗酸化ビタミン)が十分にあれば酸化ストレスは少ないと表現します。

アークレイグループ からだサポート研究所より 生体内糖化反応(グリケーション)とAGE's

 糖尿病では、酸化ストレスが大変強い状態になります。血液中のぶどう糖は200mg/dlになると血液中のたんぱく質などと化合物を作ります。(グリケーション)。この結果出来たアマドリ化合物は糖化最終産物に変わり活性酸素発生のもとになります。またこの化合物は沈着するだけでなく、合併症に通じる余計な反応を引き起こします。
 困ったことに、酸化を消去するシステム自体もグリケーションにより酸化消去力が低下します。酸化が増え抗酸化が減り酸化ストレスは大変大きくなります。酸化ストレスは血管や正常組織を破壊します。
 血糖は低ければよいというわけではなく、急激な上昇や下降も合併症を増やすと考えられています。空腹時の血糖値を下げることに神経質にならず食後のピーク時の血糖値を抑える(180mg/dl未満)工夫をしましょう。インスリンや経口糖尿病薬を使用するときにも急激な血糖の低下を起こさないことは大変重要です。次回は糖尿病と細胞内の酸化ストレスについて説明します。


暮らしに役立つ栄養療法-受験に勝つ!?栄養素 ビタミンB群-

 寒い気候が続いています。受験真っただ中の方や受験期のお子さんを持つご家族も多いことでしょう。皆さんが志望の学校に合格出来ることを心から応援しています。
 さて、受験期には脳細胞をたくさん働かせなくてはなりません。記憶に関わるアセチルコリンなど神経伝達物質をつくったり神経どうしのシナプスをつなげたり、電気信号を伝えたりするためにはエネルギーと材料が必要ですね。
 このエネルギー産生と物質作りに最も役立っているのはビタミンB群です。脳のエネルギーには糖が必要といわれていますが糖を摂りすぎて血糖値が下がると却ってマイナスです。それよりたんぱく質とビタミンB群が大切!受験期こそ肉、魚、卵を摂りましょう。魚には良質の脂質が含まれていて神経細胞の膜をつくるのに役立ちますし、卵黄にたくさん含まれるレシチンはアセチルコリンの材料にもなります。
 運動部をやめたら太ってしまったというお悩みの中学生・高校生にもビタミンB群はお勧め。代謝を上げて糖や脂肪をしっかりエネルギーに変えてくれます。
 ビタミンB群は感染抵抗力を上げるにも役立ちます。ビタミンCとともに摂ると抵抗力も代謝も神経活動も高まります。
 塾や自習室で遅くまで勉強して夕御飯がスナックやお菓子、おにぎり、カップ麺ばかりになっているとたんぱく質とビタミンB群があっという間に不足します。ストレスのかかる長期戦を乗り切るために、食事にも心を配りましょう。


サプリメント小話-オリーブ葉-

 今回は万能の抗菌薬・抗ウイルス薬ともいえるオリーブ葉エキスをご紹介します。
 オリーブ葉エキスは、オリーブの葉から抽出したオーレユーロペンを主成分とするサプリメントです。古来から上気道感染に対する薬草として使われ、イボや皮膚疹にも効果ありと重宝されてきました。フランス―スペイン戦争ではマラリアの特効薬として使われたそうです。
 その後、様々な抗生物質の発見・発明により影が薄れていましたが、多剤耐性菌(薬の効かない細菌)が問題になっている昨今オリーブ葉エキスが見直されてきています。
 オリーブ葉エキスは、消毒薬に近い効果を持つため(人体には安全です)細菌だけでなくウイルスや寄生虫などにも幅広く効果を発揮します。さらに免疫増強効果もあります。長期に使用しても耐性菌を作らないメリットがあります。
 インフルエンザなどいくつかのウイルスには抗ウイルス薬が出来ましたが、ほとんどの風邪ウイルスには抗ウイルス薬がないのが現状です。ぜひ風邪のひき始めにはオリーブ葉エキスを試してみてください。また、抗生物質にアレルギーや副作用があって使えない方、慢性の感染があり薬を使っても再発したりなかなか治らない方にもお勧めです。
 強い感染症状がある時には、一回の量を増やし数時間ごと(症状が出てきたなと思うたびごとに)追加で飲む方法が最も効果があります。感染と一口に言ってもウイルスや細菌の強さと量はその都度違いますから対抗できるだけの濃度を維持することが大切です。こんなことも安全域が広く一日の上限がないサプリメントだからこそ出来る技!
 まだまだ寒く乾燥した日が続きそうです。ぜひオリーブ葉エキスを常備して万全の感染対策をたてましょう。


-出産後に襲う不調 マタニティーブルーを撃退しよう!-

 妊娠、出産はお母さんにとって大仕事!でも出産直後から育児というさらに大きな仕事が待っています。出産後になんとなく気分がすぐれない、涙ぐむなどの兆候が見られたらマタニティーブルーかもしれません。早めのサポートを開始しましょう。
 マタニティーブルーの時には鉄欠乏の可能性を真っ先に疑いましょう。赤ちゃんは生まれるまでに鉄の蓄えを作るためお母さんの鉄をどんどん奪ってしまいます。貧血でなくても鉄欠乏のことがあります。そして鉄欠乏になると幸福感を維持するセロトニンを作ることが出来ません。妊娠中も育児中も予防のためにヘム鉄をたくさん摂りましょう。


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。


いいなと思ったら応援しよう!