オフィスひめの通信 52号
執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2016年3月
ー24時間働けますか?ー心臓は偉いー
栄養医学は細胞内の一つ一つの分子の働きを理想に近づけることを目標にしながら、体を一つの小宇宙と考え、全体を一つのシステムとみる考え方です。「心臓だけの治療」「肝臓だけの治療」ではなくすべての細胞を元気にし、全身のバランスを整えることが栄養療法の目的です。それでもあえて各臓器にフォーカスして栄養療法を考える試みをしてみようと思います。各臓器の特徴や役割を理解し具合の悪いところに重点を置くことにより、効果の高い治療に結びつくと思うからです。トップバッターは心臓です。
心臓は私たちが寝ている時も起きている時も24時間365日働き続けています。心臓にとって重要なのは持続的に効率よくエネルギーを産生することです。そのために心筋細胞には通常の細胞よりも多くのミトコンドリアが存在しています。
ミトコンドリアは糖や脂質からエネルギー(ATP)を効率良く作り出す装置です。コエンザイムQ10はその装置の重要な部分に組み込まれています。
エネルギーがたくさん作られるところには常に活性酸素が発生しています。コエンザイムQ10は活性酸素を消去する役割も持っています。
コエンザイムQ10は体内で合成できますが、高血圧などで心筋が肥大している方やアスリートのように心臓の収縮をより必要とする方では相対的に不足する可能性があります。高齢者やコレステロールを下げる薬を飲んでいる方も注意が必要です。加齢によって合成量が低下しますし、コレステロールを下げるスタチン系の薬は、下図のようにコエンザイムQ10の合成経路も阻害して、産生量を減らしてしまうからです。
心臓の強力な味方コエンザイムQ10!それぞれの状態に応じて上手に補充しましょう。
ー冠動脈は心臓の命綱 ー動脈硬化を予防せよー
心臓がエネルギーを生み出すためには、酸素と栄養分が常に供給されている必要があります。心臓は酸素の消費量が多く心臓に血液を供給している冠動脈が詰まると心筋が壊死してしまいます。心筋梗塞です。動脈硬化の予防が心臓を守ることにつながります。
太い血管にプラークが出来て血管が細くなるアテローム硬化は、活性酸素の発生や血管内膜の傷などによって進行しやすくなります。細菌などの感染による炎症も動脈硬化を進めるとの説があります。
動脈硬化の対策の第一は活性酸素を増やさないことです。血管内で活性酸素が発生する原因の一つに血糖値の上昇があります。
ですから糖尿病の方は、動脈硬化を発生する確率が高くなります。糖尿病でなくても、食後の血糖値が急上昇すると活性酸素の発生が増えます。
明け方に起きる狭心症の原因の一つに冠動脈のれん縮があります。交感神経の緊張が原因と考えられています。夜遅くに飲酒したり炭水化物のドカ食いをしたりすると翌朝に血糖値が下がりやすくなり、血糖値を上げようとして交感神経が緊張し、血圧・脈拍の急激な上昇や狭心症の原因になります。
動脈硬化がかなり進んでいる方の場合、カロリー制限ダイエットと運動を急激に始めるのは危険です。血液が濃くなって血管が詰まりやすくなります。たんぱく質と野菜をたっぷり食べ、楽な歩行から運動を始めるなど、自分のペースで始めることが大切です。糖質制限食は食後の高血糖を防ぐことで活性酸素の発生を減らしたり、低血糖を防いで自律神経のバランスを整える効果があり大変有効ですが、間違った方法や、体の状態に合わない方法で実施している方も見受けられます。食事療法を開始する前に、血液検査や動脈硬化の検査などで自分の状態を把握し、専門家のアドバイスを得ることを お勧めいたします。
ー心不全の早期発見 ーBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)ー
心臓は血液を送り出すポンプの役目をしています。ポンプがうまく働かずに心臓に血液がたまったり、動脈が硬くなって血液を押し出すために力がたくさん必要になったりすると、心室の細胞は「大変だ!何とかしなきゃ」と思って二つの対応をします。一つは心筋の肥大、もう一つはBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の生成と分泌です。
BNPには、尿をたくさん出したり、血管を広げたり、心筋の細胞を保護したりする作用があります。心臓にかかる負荷に応じて分泌量が変わるため、心不全の早期発見や治療の効果の判定に役立ちます。BNPとNT-ProBNPという二種類が測定可能です(基準値は異なりますが数値の意味は同じです)。
BNPは、心不全の状態をみるためにはとても有用な検査ですが、原因を知る検査ではありません。BNPが高めの場合には、心不全の原因を調べて治療することが大切になります。
※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。