倒れ体質と向き合う
私は外的刺激により、倒れやすい性質を持っている。採血をする時、予防接種をする時、手術の番組を観た時、人から手術や暴力の話を聞いた時、医療映像を観た時……などなど。とにかくありとあらゆる外的刺激によって、脳が勝手に反応し、神経がショートする。
それらを自分自身が恐れているわけでなくても、大丈夫だと言い聞かせてもだめ。脳が勝手に反応してしまうのだから、心で止められるものではない。
だから私は極力、手術番組や医療系ドラマを観ないようにしているし、人からそういう話を切り出されたときも、あまり深く聞かないようにして過ごしている。
今日はこの倒れ体質について、これまでの経緯と対処法を話したい。
初めて注射で倒れたのは7歳
私が初めて倒れたのは、確か小学2年生、7歳の時だった。その日はツベルクリンの予防接種の日。赤ちゃんの時に腕に打ったハンコのようなワクチン、BCGの抗体が切れていないかを検査し、切れてしまっている場合は、その場でまた打ってもらうというものだった。
針を刺して膨らんだら、ハンコ注射は打たなくてOK、膨らまなかったらその場でハンコ注射、という流れだった気がする。
私は膨らみを確認するための注射がすごく痛いと聞かされていて、打つ直前まですごくドキドキしていた。結果、膨らんだのでハンコ注射はしなくて済んだ。
打った後、終わった〜!という安心感と開放感が大きかった。打つ時もその直後も何も起こらなかったのに、倒れたのはしばらく経ってからだった。
帰る準備をしようと、教室後方にある戸棚からランドセルを取り出し、自分の席へ向かう間にいきなりぶっ倒れた。
当時は倒れ方も知らないから、気づいたらランドセルを持ったまま仰向けになっていて、意識が戻ってきた頃には、私を覗き込むクラスのみんなの顔がぼんやりと見えた。「大丈夫?」という声があちらこちらから聞こえて、私は間も無く起き上がったが、自分でも何が起きたのかわからなかった。担任の先生が状況を説明するように、私の席の隣の男の子に聞いていて「ランドセルを出したらそのまますこーんって」と説明していたことを覚えている。
その後、保健室に行くと、注射を担当していたお医者さんが偶然かかりつけの先生で、「注射の後に倒れることはよくあるんです。何も心配はないです」と説明してくれて安心した。
注射でも刺激映像でも倒れてばかり
それから私は注射のたびに倒れることが多くなった。病院で予防接種をして外に出たら、病院前の道路脇で失神して、通りすがりの女性に「大丈夫?」と心配そうに言われたり。
歯医者で麻酔を一気に打たれた時も、治療途中で気分が悪くなり早退。帰りの車でもずっと気持ちが悪くて吐いた。当時小学生だった私はおとなしいから、「一気に大量に麻酔を打ちすぎちゃったのかもしれないね。今度からはゆっくりやりますね」と歯医者には言われたのだが、これも自分の体質の問題だったのではないかと私は思う。
テレビで整形手術の番組を観ていた時も倒れ、それ以来「観ないようにしようね」と親が気遣ってチャンネルを変えてくれるようになった。
高校の時は電車の中で倒れた。家庭内暴力が怖いという友達の話を立ちながら聞いている間に、気持ちが悪くなりしゃがんだ後、気を失った。この時には既に倒れることを予想できるようになっていたため、倒れそうになったらしゃがむ、または頭を横にするという術を身につけていた。こうすることで、怪我をすることからは免れる。
駅に着くと、同じ学校の面識もない親切な先輩が駅員さんを呼んでくれた。駅ホームの休憩室に初めて入り、ベッドに横になった。友達には心底心配され、「死んじゃったのかと思った」と言われた。迷惑をかけて本当に申し訳なかった。
大学1年生の時は、脱毛サロンのカウンセリングで、脱毛について話を聞いているだけで倒れそうになり、「そういう方は保証ができないので、施術をお断りさせていただいています」と言われて、すごくショックだった。自分の体質のせいで脱毛ができないなんて、悔しかった。それから6年後、耐性がついたのか、脱毛に関しては話を問題なく聞けるようになってリベンジを果たせたので良かった。
一度だけ原因なく倒れ、通院したことも
少し余談だが、小学高学年の時、一度だけ原因なく倒れたことがあった。その時お尻から血が出たため、親が心配し大きな病院で脳波の検査を受けた。そこで私は一度だけ脳波に異常な動きが見られたため「局材関連性てんかん」と診断を受け、しばらく通院することになる。
私はこの診断結果を受けて、倒れることが怖くなり、次倒れたらどうしようどうしようと過剰に気にするようになった。そのせいで数日間は教室にいると倒れそうになり、机の上で頭を横にしたり、どうしようもないときは先生に保健室に連れて行かれたりした。これは完全に自分の気持ちの問題だった。どうしようどうしようと思っているから、倒れるのだ。何も気にしなければ倒れることはない。
毎日てんかんの薬を飲み、数カ月おきに通院して脳波の検査を数年間続けた。脳波に異常が見られたのは初めの1回だけで、それ以来ずっと正常で原因なく倒れることもなかった。健康なのに薬を飲み続けているのもバカバカしくなり、別の小さな病院で検査したところ「何も異常はないですね。薬も飲む必要はないでしょう」と言われ、拍子抜けした。別の病院に診てもらって良かったと思う。
倒れないためにどうするか
この体質はどうしようもないものだ。自分で脳にダメージを与えないように、そういう映像を観ないようにしたり、話を聞き流すようにしたりするしかない。
あとは塾のクラスメイトがいきなり失神した時、私も倒れそうになったが、その時は一生懸命息を吸って酸素を体に取り入れる&水をたくさん飲むことで、回避できたことがある。息を吸い込むのは、焦っている場合は過呼吸になることもあるので注意が必要だが、酸素をいっぱい吸って水を飲んで気を紛らわせることで、気分が落ち着き、倒れずに済んだ。横になる以外の方法で初めて失神を回避できたので、あの日私にとってはすごく喜ばしかった。
それと合わせて、採血やワクチン接種の際に、倒れないように意識して行っていることがあるので、紹介したいと思う。
①注射はベッドで寝て受ける
私はいつも採血やワクチン接種の時、寝て受けたいと申し出ている。いい歳した大人が寝て注射なんて恥ずかしいが、倒れて迷惑をかけるよりマシだ。私のような人は一定数いるようで、どの病院の看護師さんも親切に対応してくださるので助かっている。
寝て受けると不思議とリラックスした状態でいられる。頭が横になっているので、酸素が頭に届かなくなる現象が起こる心配もない。もちろん針を刺しているときはそこを見ないようにしている。
寝て受けるようになってからは、倒れることが格段に減った。寝て受けてその時は大丈夫でも、終わってから暫くして次の検査を待っている間に気分が悪くなることもある。心配な場合は、受けた後も数十分横になって休んでいるのも大切だと思う。
②検査前に水をたくさん飲む
針を刺している時間が長いと、それだけで血の気が引いていきそうな感じがする。私は元々血管が細いこともあり、血の出る量が少なくて「ちゃんと水飲んできましたか?」と聞かれたことがある。その日、一応ちゃんと水は飲んできたがたっぷりは飲まなかった。なかなか採血できず針を刺している時間が長く感じられて、気分が悪くなってしまった。
私はこの失敗を活かし、翌年から意識して健診の前はたくさん水を飲むようになった。いっぱい飲んだなと思うくらいまで飲む。水をたくさん飲むことで、血の流れが良くなり、採血もしやすくなる。水をたくさん飲むのと飲まないとで、針を刺している時間は結構違う気がする。
③注射中は看護師さんと会話すると良い
とにかく脳を刺激させないようにすることが重要なので、針を刺している間は、看護師さんとお喋りするなどして気を紛らわせるのも効果的だ。「こうやって寝て受けている方は他にもいるのですか?」などと他愛もない会話を繰り広げ、気づいたら注射が終わっていたこともある。最近私は会話しなくても倒れないようになったが、会話すると意識が会話に向くので、刺激に弱い脳には良いと思う。
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以上が私の倒れ体質の経緯と、そこから編み出した対処法である。今でも採血の後に倒れそうになってベッドに運ばれることはあるし、友達の話を聞いているだけで倒れそうになることはある。その度に自分が心底嫌になるし、こんな体質に生まれなければ楽だったのになと思う。
私は不思議と刺激的な小説や映画は大丈夫なんだ。小説は読み飛ばしたりして自分で想像力を調整できるところが大きい。嫌な映像だなと思ったら、あまり深読みせずにサッと読めば全く脳に刺激はこない。実際に見たら恐ろしいであろう映像も、美術さんによって精巧につくられたフェイクだと思い込むことによって、なぜか怖くなくなった。ただし医療系ドラマは内容的にも全く興味が持てず、観る価値を見出せないので観ない。結局のところ手術映像は無理なのだ。
私はこれから先もこの体質と付き合っていくしかないのだろうと思う。みんなどうか、私には病気や手術の話を詳しくしないでくれ〜!概要だけに留めてくれ〜!想像力が豊かすぎるんだよ自分(怒)と言いたいところだが、この心の悲痛な叫びは、ほとんどの人には届かないから、自分で自分を守るしかない。
周りに私のような人がいたら、気遣わなくてもいいから、理解してあげてほしいと思う。横になればすぐに治るし、寝ていれば回復するから。
厄介な体質だが、いずれは耐性をつけて克服したいものだ。