理想と現実
私の父はもう他界している。母は数年前祖父の葬儀で二十年以上ぶりに会ったきりで、今どこに住んでいるのかも知らない。性転換手術を受けて現在は男性としてパートナーと幸せに生活しているらしいことは祖母から聞いた。母の念願が叶ったということは、息子という立場ではなく、一人の人間としては喜ばしく思う。
私が9歳の頃母親が蒸発して父とは離婚が成立していた。母方の両親も母が20歳の時に離婚している。私もうつ病が原因となり離婚をした。私の姉も数年前に離婚している。結婚生活を続けていくのは本当に大変な事なのだとしみじみ思う。
両親が離婚した後一人暮らしの祖母のところに預けられた私は、いつも周りの普通の家庭を羨ましがっていた。特別に裕福でなくとも親がいるという事が私にとっては特別なもののように感じていた。
若い頃は、贅沢は出来なくても、夫婦が仲良く、子供にもたくさんの愛情を注いで、毎日を楽しく過ごすというのが私の夢であった。
今の自分は何なのだろう。ベッドに横になり、スマホの画面を見つめながら、ふとそんなことを考える。今の私は、私が子供の頃に感じていた寂しさよりもずっと大きな寂しさを子供に与えてしまっているではないか。
『こんなはずではなかった』そう思っても今更遅いのである。『うつ病にさえなっていなければ』そう考えても仕方のない事なのはわかっている。
もう40も過ぎた今の自分に何が出来るのだろうか?うつ病を克服することが出来るのか?出来たとしてもその後はどうなのだろうか?考え出すとキリがなくなり頭の中がパニック状態になって思考が止まってしまう。そんな自分がほとほと嫌になり自分で自分を殺してやりたい気分だ。
薬を飲み、落ちつく音楽を聴きながら気持ちの波を整えていく。
今から人生をやり直すのは無理な事だが、これから先の人生は少しでもいいものになるよう努力してみよう。
息子や娘に子供が出来たとき、いいおじいちゃんと思ってもらえるようになりたい。そんなことを考えながら目の前にある小さな画面に依存している。