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【探偵は甘すぎる後日談】仮称モリアーティの独白

★探偵は甘すぎる〜限定スコーンの後日談
ごく微量のネタバレを含みますゆえ、本編読了後推奨でございます。

番外編▶︎仮称モリアーティの独白


物心つく頃にはすでに探偵小説が好きだった。
魅せられていたと言ってもいい。

美しい洋館、集められた招待客と謎めいた住人、そして起こる装飾過多な殺人事件の数々ーー

探偵はつねに事件の謎を解く。
解かれてはじめて、舞台は物語として完成され、幕を閉じることができるからだ。
私は中でも、復讐を動機としたものに心惹かれた。
罪は相応の罰によって償われなければならない。
もし悪しき術で贖罪を免れられたとしても、それはほんの一時のものだ。
探偵は必ず罪を暴く。
そうして最後の最後、起きた惨劇の裏でどんな復讐劇が演じられていたのかを詳らかにし、被害者を過去の加害者として糾弾せしめる。

だからだろう。
探偵はいつも最終章に至るまで惨劇を止めたりはしない。
事件を未然に防いだりもしない。
探偵は、復讐者がその想いを遂げるまでは手出ししない。
もしくは、手出しできない。
物語はいつも、生き残るべきものとそうあらざる者の選別を終えるまで、事件を続けさせるようにできていた。

私はそこに、『神の意志』を視る。
まさにその一点に深く強く魅了され、ひとつの啓示として受け取るに至ったほどだ。

ゆえに私は、探偵業に付随して復讐代行業を立ち上げた際、己にひとつのルールを課すことにした。

ーー復讐代行における犯行のすべては『未必の故意』とする

調査し、探査し、謎を解き、そうしてもっとも相応しい復讐方法をクライアントへ提案する。
だが、その生死は、相手が迎えるであろう最期の瞬間は、『神の審判』にゆだねるものとした。
死ぬかもしれないが、死なないかもしれない。

そうして仕掛けた罠に、神の意志が宿る。
真に裁かれるべきものならば、神の審判により死に至り、もしそうでないならば生き残るだろう。
致死率の高いその罠にかかってなお生き延びたのなら、その人間の罪はすでに贖われたと考えなくてはならない。
あるいは、生き残ることでよりふさわしい罰を受けるのだと。
神の意志を冒してまで、己で手を下すことは許されない。

また、復讐とは、それに値するだけの強い動機がなければ成立しないと考える。
罪を犯すことで罪を暴くのだから当然だろう。

ある男の願いは、誠実で切実で、叶えるべきと思ったから手を差し伸べ、志半ばであったところを引き継ぎもした。
ある男の願いは、くだらない嘘と我欲にまみれていたので、逆にその罪を手紙を介して告発しておいた。

神の前に、虚偽は許されない。

己の罪と向き合えぬもの、断罪の鐘を自らの手で鳴り響かせる気概がないものに、手を貸したりはしない。
己の首を断頭台に乗せる覚悟がないものに、どうして価値を見出せようか。
私は願うものの覚悟を観て、そうして神の意志を問うに値するかを測るのだ。

だから、私は祈る。
復讐する者、される者、みなに等しく祈りを捧げる。

「あなたに、神のご加護がありますように」



そういえば、彼らはどうしているだろう。
シナリオの最中に出会った、探偵と探偵助手。
まるでかつて読んだ探偵小説のように、私の計画に気づき、あえて他者のいない場所でこの罪を糾弾してきた時には、久しぶりに心が躍った。
願わくは、彼らともまた相応しい舞台で再び対峙できたらと思う。


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