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【読書】切断島の殺戮理論〜切り刻まれた価値観と美学の行方

■切断島の殺戮理論
■作:森晶麿

身体の欠損が美とされる特殊な価値観で形成された島で起きた切断死体の謎

読書アカウントでおすすめにあがっていて、手にした一冊です。

大学の研究室の調査と称して上陸した地図にはない島でのフィールドワークは、嵐の孤島ものとしてのクローズドサークルであり、独自の価値観で形成されたが故の歪さが際立つ特殊設定ミステリでもあり。

研究の名のもとに、文化的価値観や習慣、常識が揺さぶられる作品でもあります。

交わされる会話は議論的で、可能性の検討という名の多重推理を随所に散りばめられているところには惹かれずにはいられません。

そうして続く陰惨なクローズドサークルでの殺戮を追いかけたのちに残るのは、不可思議さ。

価値観と理論の相互作用に感情がおかしな混ざり方をしてくる不思議な読後感。

自分は何に対して心振るわせ『美しい』と判断するのか、そうして、どう『価値』を見出すのか?

『おぞましい』と『うつくしい』の認識の差はどこで生まれるのか。
それを誰が判断するのか?

自分自身の価値へどう向き合うのかも含め、実験的観測者的研究者的視点で触れる機会すら用意されてます。

舞台装置と殺害動機の間に生まれる違和感ともども、ラストのラストまで世界に引き込まれ、巻き込まれ、酩酊に近しい味わいを堪能させてもらいました。

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