夏を呼ぶポオリイ/もちはこび短歌(7)
ポオリイのはじめてのてがみは夏のころ今日はあついわと書き出されあり
石川信雄『シネマ』(1936年、茜書房/復刻版:2013年、ながらみ書房)
もちはこび短歌を始めるにあたって、真っ先に思い浮かんだのはこの歌だった。夏から春先にもちはこんできた一首。この歌が入っている歌集『シネマ』は、わたしの家の近所の文京区立本郷図書館に『現代短歌全集』(筑摩書房)があり、そこで読んでいたのだけれど、昨年ついにながらみ書房の復刻版を手に入れてから、ちょくちょく読み返している。
『シネマ』はどの歌も好きだけれど、この歌は特に忘れがたい。パッと夏の理想像が浮かぶ。いまみたいな冬と春の間のような三寒四温の日々でも、この歌を思うと「ある佳い夏」がかえってくる。「てがみ」なんてめったに書かなくなった今でも。夏は特別な季節。あかるい季節。瞬時にそれを思い起こす時とは、自分の脳が希望を携えていることに気づく瞬間でもある。
あかるさがあり、すこし気だるさもある。遠い夏がまたいつか来ることを思う3月って、わたしはとても好きだ。
文・写真●小野田光
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「もちはこび短歌」では、わたしの記憶の中で、日々もちはこんでいる短歌をご紹介しています。更新は不定期ですが、これからもお読みいただけますとうれしいです。よろしくお願いいたします。