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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【64】22日目 長万部〜森① 2017年11月3日

週末や有休を利用して、50代のサラリーマンが、ロードバイクで北海道一周した記録。
2017年5回目の渡道は、初冬の渡島半島を走ります。まずは、前回の終了地点である長万部まで戻らねばなりません。

▼「週末北海道一周」のここまでの記録はこちらです。よろしければご笑覧ください。

◆ 早朝便で千歳へ

4時40分に目覚ましが鳴り、10分後に、羽田空港近くのビジネスホテルをチェックアウトしました。
11月の三連休初日。関東は行楽日和との天気予報だったのに、予想外の土砂降り。

このような時刻にもかかわらず、空港へ向かう送迎バスは満席。通路に立っているおっさんもいます。

プレミアムチェックインのカウンターも、長い行列ができていました。
これまでは、いつも輪行袋をそのまま預かって貰えたのに、最近、その場で保安検査が行われる方式に変更されたとのこと。
係員が来るまでさらに5分ほど待たされました。
ようやくやって来た若い女性の係員は、輪行袋を覗き込み、中の汚さと油臭にたじろぐ風を見せながら「パンク修理材やスプレー缶はないですか」と型通りの質問をするだけで終わりました。

ラウンジへ行くと、朝からビールや水割りを呑んでいるおっさんがいます。こういう典型的な日本のオヤジの姿は正直好きになれないのだけど、休日の朝から呑む気持ち良さは確かに格別なのであり、自転車旅じゃなかったら自分も仲間入りしてしまうのでしょう。

昨夜は寝つきが良くなかった上、深夜に廊下の嬌声で起こされました。さらにヘルニアの影響か、咳込んで目が覚め、結局、5時間も眠れませんでした。
飛行機の中でもう一眠りしておきたいので、モーニングコーヒーは自重。ホテルで貰ったクロワッサンを青汁で流し込みながらスポーツ紙を広げます。日本シリーズ第5戦は、横浜が筒香のホームランで連勝し、3勝2敗としたことが大見出しで報じられていました。

6時15分発の新千歳行き始発便は満席。離陸前からまどろんだが、子供が泣きわめき、ヘルニアによる上腕神経痛もあって、熟睡はできないままに着陸。

新千歳空港も雨の中でした。滑走路には水が浮いています。
しかし、上空には青空の欠片も覗いていました。上空の風が強いようで、雲が低く、とても速く流れています。

まだ朝早いので、快速エアポートはガラガラ。私の隣には初老の母と娘が座り、母が職場の人間関係について話しています。娘の職場に難しい同僚がいるようで「でもそれは同期だからまだいいのよ。最悪なのは昔仕事を教わった先輩とか上司とか。遠慮もでるからね」などと母親が声高に話しています。何かと身につまされます。
目の前には観光旅行風の若い女の子二人が座りました。欠伸しながら札幌の情報誌を見て、楽しそうに今日の計画を練っています。地図を見ながら、中の島がどうこうと話しているのが聞こえます。中の島は観光に行くようなところではありません。初めての札幌で、中島公園と混同しているのでしょうか。

8時15分発のエアポートは南千歳に8時18分に到着。2分の待ち合わせで函館行き臨時特急「北斗81号」に接続しています。 長万部には10時20分到着予定。
臨時特急「北斗」は、バブル期のリゾート列車として流行したハイデッカー車両でした。窓の大きい開放的な設計なのだけれど、内装造作は、スペースが小さすぎて使い物にならないスケルトンの網棚とか、もはや使われていない旧型の吊り下げモニターとか、20年前のセンスという風。

乗車するなり、飲食物を何も買ってないことに気づきました。空港駅のキオスクで何か調達しようと思って、すっかり忘れていたのです。北海道では、殆どの特急列車で車内販売が廃止されています。その中で、通常「北斗」には車内販売があるのですが、これは臨時列車なので期待できません。
長万部に着いたら取り急ぎ何かチャージしなければ。羽田で腹に収めたクロワッサン1個と青汁だけでは、とても体が持ちません。

◆ 寒冷前線の中を…

道央の紅葉は既に終わったようで、裸木の根元に落ち葉が堆く積もり、雨に濡れています。行く手の空は、オレンジ色の不気味な朝焼けに染まっていました。

苫小牧駅の手前で、熱帯のスコールのような激しい雨が襲って来ました。前方が雨に煙って見えないほど。ちょうど寒冷前線が通過している最中なのか、大気が極めて不安定な感じです。
激しい雨は程なく過ぎ去りました。しかし陸上には厚い帯状の雲がずっと続いています。ただ、沖合で雲は切れ、その地点で海の色が明るくなっていました。

▲ 不穏な空模様

今年の盛夏と秋に走った経路を、今日は鉄路でなぞっていきます。
社台ファームの先で丘陵地に入り込むと、この辺りはまだ木々の葉が色づいていました。
白老の先で雲が切れ、朝日が疎らな住宅地を照らし出しました。教習所の水溜りがまぶしく反射しています。

登別のあたりでは青空が広がり、風景はすっかり秋色に変わりました。朝日に煌めく小さな漁港を右手に見て、ホームにアーチ型の立派な屋根のある登別駅に滑り込みます。中国人の家族連れが乗り込んで来ました。

廃止された広い機関区を右手に見ながら東室蘭着。隣の番線に札幌行き特急「すずらん」が停まっていました。ユーシートはかなり混雑しているのに、自由席は空席が目立ちます。
東室蘭を発車するなり、ふたたび雨が降り始めました。先月、曇天の下を走った道に沿って、きょうも重苦しい朝の風景をぼんやり眺めながらシートに身を委ねます。前回との違いといえば、今朝は有珠山と昭和新山の輪郭が靄の中に辛うじて見えることくらいでしょうか。

雨脚はどんどん強くなりました。この辺りは山が海岸に迫っているので、雨雲が発達しやすいのでしょう。
前回、束の間の旅情を楽しんだ大岸~礼文の海岸線を瞬く間に駆け抜け、トンネルの間にある秘境駅・小幌は駅名標も確認できないうちに通過し、その先は険阻な海岸線に穿たれたトンネルの連続でした。
礼文華の険路を過ぎると、再び青空が広がりました。

◆ 雨あがりの長万部〜国縫漁港

雨上がりの長万部駅前で、輪行袋を地面に敷いて自転車を組み立てます。
「30分前まで土砂降りだったんだよ」同じ列車で来た人を迎えに来たおっさんが、そう話しながら歩いていきました。

11時前という中途半端な時刻ですが、まずは腹に何か入れないと身体がもちません。駅に近いコンビニで、アンパンと肉まんで軽く栄養補給しました。

▲ 雨上がりの長万部駅前

今日の行程は、噴火湾に沿って、変化に乏しい道を走っていきます。昔から鉄道で何度も行き来しているエリアなので、変化をつけながら走らねば退屈すぎます。
そこで、まず、国縫漁港に寄ることにしました。 砂浜から数十メートルの沖合に、コンクリートの護岸を円形に構築した「ワイングラス型」と言われる珍しい港です。

▼ 国縫漁港

鉄道旅行作家の宮脇俊三氏は、長万部というと枕詞のように「毛ガニの看板が林立する」と記していますが、昭和から平成の世に代わって既に30年か経とうとしている今日、カニ飯を売り物にするドライブインも相当に淘汰されたよう。店仕舞いした建物も目立つ郊外を南へ向かい「国縫漁港」の標識に従って左折しました。

漁港へ渡る橋には「関係車両以外立ち入り禁止」とあります。釣り人がたくさん入り込んで、業務に支障を来したのでしょうか。自転車でちょっと覗くくらいなら許容範囲と解釈。

▲ 国縫漁港

このエリアは遠浅で、潮の干満の差が大きく、しかも噴火湾の最奥部なので波も高いそう。このような環境の下、砂浜や海流への影響を最小限に抑えつつ、漁業者の負担軽減を図る目的で建設が始まり、1994年に完成したとのこと。
長万部町のホームページに掲載されている上空からの写真を見ると、確かにワイングラス状の美しい流線型の構造物です。しかし地べたから見るとどうということはなく、単なる殺風景なコンクリートの構造物に過ぎませんでした。今日は文化の日。埠頭には漁網の手入れをする関係者が一人、二人見られるだけで、ワイングラスの中は静まり返っていました。
早々に踵を返し、港と砂浜を結ぶ橋の上で足を止めます。風が強い。

▲ 冬の到来を思わせる噴火湾

依然として雲が多く、その隙間から海に光のカーテンが差しています。山々は相変わらず靄を被っているが、輪郭は割合とはっきり見えています。
北の方を見ると、湾曲した海岸線がずっと続いていて、長万部の市街地あたりには光が差していました。
砂浜は流木が散乱し、数筋のわだちが続くばかり。風と波の音だけが響いています。

大きな海の広がり。空の青は、冬に向かってちょっと薄い色合い。

今日は一日、こんな向かい風と寒々しく変わりやすい天気の中を走ることになるのだな、と覚悟を決めました。

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ここまでお読み頂き、ありがとうございました。引き続き、八雲、落部を経て、森へ向かって走ります。よろしければ続きもお読みいただけると幸いです。

私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかの自転車旅や海外旅行の記録などを綴っています。宜しければこちらもご覧頂ければ幸いです。


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