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学校に「紙の本」は必要か③「予算を倍に」市長は語った

 熊本市の公立小学校の図書室の現状を描いたニュース特集は大きな反響を呼びました。中でも多かったのは「こんなことになっているとはぜんぜん知らなかった」という感想でした。一方で「紙の本はもう必要ではないのでは」という意見はほとんどありませんでした。
 こうした反響に加え、「教育の優先度が高いか低いか、それは自治体の意識の表れだ」という設楽理事長の厳しい問いかけを受けて、私は熊本市長を訪ねました。教育に、学校に、図書室にいくらお金をかけるのか。最終的に決める権限は市長にあります。

熊本市長の大西一史さんは2023年現在3期目です。熊本地震の際にはSNSを活用してフェイクニュースへの注意を喚起し「Twitter市長」として一躍注目を浴びました。ドラマーとしてプロデビュー寸前だった経歴を持ち、毎朝「目覚めの一曲」をツイートするなど音楽好き・読書好きの顔も持っています。

「熊本市は数値目標は達成している」

 市長専用応接室で大西熊本市長と対峙。私しか説明する人はいないのに、わざわざ3枚のフリップまで用意する周到な準備です。大西市長はそのフリップを私に示しながら、熊本市の学校図書室は充実していると説明しました。
熊本市長「東島さんから『熊本市の学校図書館は大丈夫か』『図書が少ないんじゃないか』という指摘がありましたが、図書が多ければいいという話ではなく、図書は学校図書館の図書標準というのがあって、文部科学省が定めているんです。図書標準、学校規模に応じた蔵書の整備目標というのがある。熊本市は結構全国平均に比べて学校図書館の図書標準を達成している小中学校の割合は非常に多いんです。ですから実は蔵書数という意味では、割と充実している
 想定内のお答え。私もテニスのラリーのように打ち返します。
東島「図書標準を達成するために、読めもしないボロボロな本を準備室に大量に抱え込んでいる、それは本末転倒ではないかなと思いますよ」
 私の切り込みも想定内だったのでしょう。市長もよどみなく返してきました。
熊本市長「そうですね。蔵書があれば良いという話ではなくて、きちんと更新されているかどうか、辞書なら改訂版がそろっているかとか、そういうのも大事です。量よりも質の転換というのがこれからはとても大切だなと思っています。熊本市は学校図書館に司書(正確には司書補助)を100パーセント配置しています。全国の政令市の中でも100パーセントという所はそうはたくさんはないはずなんです。その司書さんとともに図書室を充実させていかなければいけないなと思っています」

「司書補助の待遇改善を検討したい」

 少し話は逸れますが、司書補助の身分の問題も深刻な問題です。
東島「そのこと自体は非常に良いと思うんですが、司書補助の身分が不安定という問題があります。しかもかなり忙しい。そこを手当できないものでしょうか」
熊本市長「おっしゃるとおり。教育にかかるものというのは、やっぱり人、特に人材ですね。人材を確保して育成していくと言うこと。これは簡単なことではなくてですね、今学校の先生が教員不足と言われていますけれども、ひとりの子どもを育てるために、教育する環境を整えるうえで、そういう大人たちの周りの環境は非常に大事ですので、今ご指摘のような、学校の司書さんたちが安定して生き生きと働けるような環境を作ると言うこともありますし、職員の採用と言うこともしっかり積極的にこれからやっていかなければいけない。そこは今、待遇改善も含めてですけれど、教育委員会としっかり検討していきたいと思っています」

「政府は政策を自治体任せにするな」

熊本市長「熊本地震があっていろいろな行政需要が高まっていて、災害対応を含めて様々な面で予算を使ってきたということはありますので、なかなか現場のニーズに応じた対応が十分出来ているかと言えばそこは必ずしも十分とは言えないと思っています。私の所にはあらゆる部局から予算を『ここにつけてください』『あそこにつけてください』と話が来ます。議会からもご提案を頂きます。もともと、国の方でいろいろ政策をお示し頂くんであればですね、やっぱり国からの財源措置というのは、もっと無いと厳しいというのが私の本音です。あんまりいえませんけど、言えませんというか言ってますけど、子育てや子どもの貧困・教育の問題は、どこの地域でも同じくらいの水準で高くあるべきだと思うんです。ですから文部科学省の方もですね、図書標準を示す、あるいは子どもたちにもっと本を読んでもらおうというのであれば、国全体としての政策として、そういった財源を手当てして頂くということは、自治体任せではないということは思っています」

「放送を見てすぐに財政当局と話し合った」

熊本市長「とはいえ、今限られた財源の中でも、子どもたちの環境をもっとよくしていかなければいけない。私自身も本をよく読む方なので、図書購入費はかなり自分の生活費の中でも高いんですけれども。そういった所にシフトしていくのは大事だと思っています」
「先日の放送を見てすぐに財政当局の方に話をしてですね、来年以降、これはこれからの話になりますが、予算全体を措置する中で、教育委員会の中でやりくりしてもらうということはあるんですけれども、たとえばどうしても例えば教育ICTのほうにお金がいると『タブレット高いし』とか、そっちの方にお金が要るとなると、じゃあちょっとここは(筆者注・本を買う予算を少なくしよう)ということで、どうしてもトレードオフの関係になってしまいますよね。だから、限りある財源でありますから、福祉の予算もあれば、これから道路作っていく財源もあれば、復旧の予算もあればコロナ対策の予算もあればということでいろいろありますけれどもそこを調整しながらできるだけ現場で不都合なことが起きないようにですね、私の責任だと思いますのでこれからしっかり対応していきたいと思っています」
「本に関して言えば、あらゆる書籍が出版されていて、私も市長室で読んでいるだけでも今20冊くらい読んでいるんですよ。時間が無いので隙間時間にぱっぱっぱと読んでいくのであれなんですが、それでもたくさんの本を手にとって読むようにしています。(秘書に向かって)机の上にある本を持ってきてくれる?」

市長の図書購入費(自腹)は小学校より多かった!?

熊本市長「相模原の4倍(この取材の直前に政令市ワースト2だった相模原市が図書購入費を4倍に増やした)というのは、まあ、政令指定どうしだから比べるというのはどうかなと思うんですが、報道でご指摘頂いたように、ぼろぼろの本とか、新しい本がなかなか入らないよねということではなくて、質も量も含めて目標を掲げるというのが大事だと思います。全体の予算の中で、図書に使う予算を充実させていく、よく精査しながら、そこはつけていくということはやっていきたい」
東島「メリハリを付けてと言いますが、図書購入費はこれまでずっと変わらず低いままでした」
熊本市長「これはだから、予算を増やすということは、ちょうど報道でのご指摘もあって、現場で大江小学校を取材されていましたよね、
ああいうことをみると、いやあ現場もご苦労されているなと思うので、そこで少しやっぱり予算を使うということはある。それから今、国からの財源がなかなか少ない中で、以前であれば私小学校の頃は、地域の方が寄付された何とか文庫とかがあって、そういうものに助けられていたというのもありますし、私自身も図書委員長をしていましたので、生徒会の、中学校の時ですけれども、本はものすごく好きでしたので、そういう意味で、子どもたちの読書環境をもっと高めるための予算をしっかり組んでいくということは、この前の放送でも指摘を受けましたので、これから検討をさらに進めていきたいと思います」

「少なくとも倍増という気持ちでやっていく」

東島「大西さん、1年間でどのくらい本を自腹で購入されますか?
熊本市長「お金で言えば……もう何十万…いつの間にかポチッとしてますので。本屋さんに中々行く機会が無いのでどうしても、地元の本屋さんで買おうと思っていますが……それでも何十万ですね」
東島「小学校1校分より多いですね」
熊本市長「それを言いたかったわけですね」
東島「大西市長が年間使われる本代を学校1校あたりの図書購入費の目標に設定するのはいかがでしょう?」
熊本市長「それがいいかどうかわかりませんけど、ある程度の目標は定めて、引き上げていくのは必要ですので……。(同席していた教育委員会の方を向く)今の、どうでしょうね、倍とか?いま「ギクッ」て顔しましたけど。もちろん子どもがどんどん本を借りてくれるということが前提だと思いますね。利用を進めていくための取り組みはもっと進めていかなければならない。司書さんたちの待遇改善とか充実と言うこともそうですし、そういう意味では目標をきちっと定めて、しっかりやっていきましょう」
東島「倍という言葉がありましたが」
熊本市長「今、何万円でしたっけ(小学校1校あたり)17万円か。(再び教育委員会を向いて)35万円とか。むり?。そういうことも現場と相談しながらで、でも少なくとも倍増くらいの気持ちでやっていきたいと思っています」
熊本市の学校の百科事典に熊本地震がないというのは、これはもう本当に、残念だなあと。報道を見て、ワナワナと思いましたね。これは早く替えてあげたいなと思いましたし、子どもたちに新しい知識を、最新のものを与えたい。そういう所にしっかりお金を使っていくということが、未来の子どもたちを育てていく。熊本の未来を作っていく、日本の未来を作っていくと言うことにつながりますので、元図書委員長としてもがんばりたいと思います」

(④に続く)


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