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学校に「紙の本」は必要か②専門家は

そもそもなぜ、学校が本を買うという基本的な予算がこんなに自治体で格差があるのでしょうか。
全国学校図書館協議会の設楽敬一理事長に聞いてみました。

設楽さんは、埼玉県の公立中学校教諭を経て2008年に全国学校図書館協議会に入り、17年に理事長に就任しました。共著に「学校図書館の活用名人になる」などがあります。柔らかい物腰でゆっくりお話になりますが、元教諭らしい説得力あふれる話しぶりでした。

「ニーズを把握できない学校」

「まずひとつ、公立の学校に予算が十分にないということは前提としてあります」
「もうひとつは、非常に難しい問題ですが図書館に専任の司書がいないということです。つまり図書の整備やどういう本が必要なのか学校そのものが十分に把握していない部分があります。どういうことかといいますと、実は学校が本を欲しがっていないという部分があるんですね。どういう本を入れていいのか、どういう本にニーズがあるのか学校がわかっていない」
「全国的にはそういう傾向がありますが、一部の自治体では市長や町長といった首長が中心になって図書標準100%を目指そうというところもあります。そういう自治体は、教員自身も図書館の資料を使った授業に慣れてきて、子どもたちの学びが深まってくると実感しています。一度そういう体験すると、教員の方も『来年もこういう資料が欲しい』という要求に繋がるんです。
 ですから、教員自身が授業でどう使うか、引き金になるような措置をまず自治体がしていくことが大切です。教員や司書といった人員が揃っているのであれば、次は予算化していく事が大切です」

「1人1台タブレット配備のその次は?」

「デジタル教科書、テキストの推進との兼ね合いで言えば、現在は児童生徒1人に1台タブレットを配布して、使い方を教えたり、使える環境の整備を最優先にすることが必要とされています。でもこれは過渡的なもので、あと何年かすれば今度は何がタブレットに入っているかが大切になってきます。タブレットの使い方なんてすぐに慣れてしまうものです。タブレットを配備するための予算の次に必要なものは何でしょうか?」
「少し話が飛んで聞こえるかも知れませんが、実はこれ、自治体の長が市や町をどう経営していくかという問題になってくるんです。首長さんは選挙で選ばれます。ということは逆に言うと市民がどういう行政を望んでいるかということに尽きると思います」
「次の世代、次の日本を背負って立つ子どもたちに十分な教育を与えているかというと、非常に残念ながら教育費の割合が少ない。どんどんどんどん国力が落ちて行っているのが現状です。やっぱり今、十年後百年後の日本を支える人口が激減している中で子どもたちひとりひとりに十分な教育を与えていく重要性は大きいです」
「十分とまではいかないまでも、それなりに図書を整備して、学びの環境を整えている自治体さんは私たちの調査を見てもそれなりの成果は出ていることがわかっています」

「子どもの優先度の高い町と低い町の差が出始めている」

「確かに、市や町全体を良くするためにはインフラの整備などいろんな課題あると思います。将来を担う自分の市の成長を考えた時に、子どもたちの成長というのは非常に重要だと、そういうことはみなさんどこの市や町も思っていると思うんですが、その優先度が高い自治体と、そうでない自治体との差が今出ているような気がしますね」
「たとえば『橋を整備しました』『公共施設を作りました』というように、教育は市民の方にパッと目に見えて『よくやったね』と言われるようなものではないので、なかなか成果が市民に実感として伝わらない部分があるかもしれません」
「でもやっぱり背表紙の取れた本、それは大人でも読みたくないですもんね。学校図書の整備みたいなことは地味ですが、しかし長い目で見れば確実に成果が出るのではないかと思っています。少なくとも学齢期のお子さんを持っている保護者は、そういう形で授業が充実しているなということを実感しているのではないでしょうか」」

(続く)


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