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~2000字前後の短編・掌編です。
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2021年1月の記事一覧

竜やこんこん

 奇妙な天気だった。朝から雪が降っていて、季節はずれの祭囃子が花火にまじって弾けていた。火の粉といっしょに庭に降ってきたちいさな白い竜の仔は、うつろいも詫び寂びも頼りない乳歯で噛み切って、まっさらな季節に戻してしまった。  迷子の木枯らしが、竜の仔のお腹のなかでびょうびょうと泣きながら凍えている。竜の仔はまるいお腹を膨らませ、爪が伸びすぎた赤ちゃんみたいな手のひらで、不器用におさえてみせるのだった。  冬なんか食べるからお腹をこわしてしまうんだろう。雪はけして綺麗なものではな

硝子のびんにきみを入れたら

硝子のびんにきみを入れたら 月をつかまえて枕にしましょう 朝露のついた月桂樹の葉で きみの肩をなぞったら、おやすみを言う 月にからだを預けて 眠るきみを奪い返しに 朝はうつくしい鳥をよこすでしょう 花びらのリボン しゃぼん玉の歌 スコアを綴っていくきんいろの蜘蛛糸 ほどけた太陽は 雲の縁にからまって いつもとおなじ夜に おはようを言う きみは言えるかな? 硝子のびんからきみを逃がして 虹のうら側におちた雨を集める きみはうつくしい鳥の声