動物たちは「表現」し合わない (“動物のジェスチャー”から始まるシンボリックプロセス — ジェンドリンとミード: 1)
“動物のジェスチャー” に関するジェンドリンの理論は、チャールズ・ダーウィン (1809-1882) 、ヴィルヘルム・ヴント (1832-1920) 、ジョージ・ハーバート・ミード (1863-1931) の先行研究にそのルーツがあります。ここでは、ダーウィンの情動表現理論が後の世代にどのように批判されたかに着目したいと思います。
『プロセスモデル』の「VII‐A シンボリックプロセス」には、「(e)表現」という皮肉めいたタイトルの節があります。この節で最終的に論じられているのは、動物たちが内的な何かを表現し合っているように見えるとき、私たち人間の観察者が単に自分自身を投影しているだけであって、動物たちは実際には内的な何かを表現し合っているわけではない、ということなのです。
上記の考え方のルーツを概観しましょう。
まず、Darwin (1872) の情動表現理論は、Wundt (1900) によって批判されました。
次に、Wundt (1900) の主張は、Mead (1934) に引き継がれました。
続いて、Mead (1934)の主張は、Gendlin (1973) に引き継がれました。
最後に、冒頭で引用した『プロセスモデル』 (Gendlin, 1997/2018) の「(e)表現」の論述に結実し、その論述は次のように締めくくられるのです。
参考文献
Darwin, C. (1872). The expression of the emotions in man and animals. John Murray.
Gendlin, E.T. (1973). A phenomenology of emotions: anger. In D. Carr & E.S. Casey (Eds.), Explorations in phenomenology: papers of the society for phenomenology and existential philosophy (pp. 367-98). Martinus Nijhoff.
Gendlin, E. T. (1997/2018). A process model. Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン [著]; 村里忠之・末武康弘・得丸智子 [訳] (2023). プロセスモデル : 暗在性の哲学 みすず書房.
Mead, G. H. (1934). Mind, self, and society: from the standpoint of a social behaviorist. (edited by C.W. Morris). University of Chicago Press. ジョージ・ハーバート・ミード [著]; 植木豊 [訳] (2018). 精神・自我・社会. G・H・ミード著作集成:プラグマティズム・社会・歴史 (pp. 199–602). 作品社. ジョージ・ハーバート・ミード [著]; 山本雄二 [訳] (2021). 精神・自我・社会. みすず書房.
Wundt, W. (1900). Die Sprache (Völkerpsychologie: eine Untersuchung der Entwicklungsgesetze von Sprache, Mythus und Sitte, vol. 3). W. Engelmann.