【書籍】心理的安全性を高める「任せ方」のすすめ:組織文化を変える具体策ーTHE21:鳥潟幸志氏
The21 2025年1月号の中で、「「コーチング的1on1」でやる気と能力を最大限引き出す」(鳥潟幸志氏)(p50)を取り上げます。
本記事では、部下が視野を広げ主体性を育むことで、結果として成長に繋がる理想的な「任せ方」について取り上げています。「任せる」とは、単なる業務の割り振りではなく、部下の能力開発や信頼関係の構築、そして組織全体のパフォーマンス向上を目指すものです。
「任せ方」に悩むビジネスパーソンは多いはず。一方、企業内でもきちんと展開できれば、成果にも影響してくるのではないかと思います。内容を確認し、考察を深めてみたいと思います。
理想的な「任せ方」に必要な三つの要素
部下の視座を高める
上司が担当する仕事を部下に任せる際、単に作業内容を伝えるだけではなく、その仕事の背景や目的、そしてその結果がどのように組織やチームに影響を与えるかを共有します。これにより、部下は目の前のタスクだけでなく、チームや会社全体の目標、さらには外部環境まで視野に入れることができるようになります。
例えば、資料作成を依頼する場合でも、「単にデータをまとめる」のではなく、「会議で提案するための重要な資料」と伝えることで、その仕事の意義を深く理解させることができます。これにより、部下の仕事への向き合い方が変わり、より意欲的な取り組みが可能になります。
部下の主体性を育む
仕事を任せる際に、その背景や目的をしっかり説明し、部下がその仕事の重要性を理解できるようにすることで、ただの「雑用」ではなく、責任ある役割として認識されるようになります。例えば、単に「この資料を作ってほしい」と伝えるのではなく、「次回の会議で提案を通すために、この資料が必要です。そのために、お客様とのやりとりを経験しているあなたの視点が役立つと考えています」といった具合に依頼することで、部下の意識が大きく変わります。このように、仕事における責任感や達成感を感じられるようにすることが、主体性を育むための鍵となります。
部下の「成長」に繋げる
上司がこれまで担っていた仕事をあえて部下に任せ、挑戦的な課題として取り組ませることにより、部下の成長にも寄与します。こうした課題は、部下にとって自分の限界を広げるための絶好の機会となります。主体性が高まり、自分で考え、行動し、成長していくための重要なステップとなります。例えば、部下にとって初めての業務を任せる場合には、途中で適切なサポートを行いながら、最終的な成果に繋げていくプロセスを重視します。
「任せ方」を実現するための具体的なアプローチ
理想的な任せ方を実現するためには、いくつかの実践的なステップがあります。まず、部下に仕事を任せる際には、その目的や背景をしっかりと共有します。この際、上司自身がその仕事の意義を深く理解し、部下にわかりやすく伝えることが重要です。また、進捗を確認するための中間チェックポイントをあらかじめ設定することも有効です。例えば、「3日後にアウトラインを提出してもらい、確認しよう」といった具合に、段階ごとに進捗をチェックすることで、軌道修正がしやすくなります。この方法は、任せられる側の部下にとっても、安心感とサポートを感じられる大切なプロセスとなります。
さらに、定期的な1on1ミーティングを活用することも効果的です。この面談は、単なる業務の進捗確認ではなく、部下の状態を把握し、課題解決や成長支援を目的とするものです。1on1を通じて、部下との信頼関係を深め、互いに意見を交換しながらより良い結果を目指します。こうした取り組みは、部下の主体性を引き出すと同時に、上司が部下の状況を正しく把握するための重要な機会でもあります。
現代のリーダーシップに求められる視点
現代の組織では、トップダウン型の指示命令だけで運営されるスタイルは時代遅れとなりつつあります。代わりに、全ての従業員がリーダーシップを持ち、自ら考え行動する組織が求められています。このような環境では、上司自身が自分の業務を見直し、「本当にやるべき仕事」と「部下に任せるべき仕事」を明確に分けることが必要です。また、全社員がリーダーシップを発揮できる環境を整えるために、上司は部下に適切な仕事を任せることで、チーム全体の生産性を高める努力が求められます。
まとめ
部下に仕事を任せることは、単なる業務の分担ではなく、部下の成長と組織全体の成果向上に直結する重要なプロセスです。理想的な任せ方を実践することで、上司は自分の本来の役割に集中でき、部下も主体的に行動し、成長することができます。そのためには、目的の共有や中間確認、1on1を通じた信頼関係の構築といった具体的な取り組みを継続的に行うことが不可欠です。
人事の視点から考える理想的な「任せ方」の重要性
部下の成長を促進し、組織全体のパフォーマンスを向上させるためには、理想的な「任せ方」を深く考えることが欠かせません。このテーマは、単に部下に仕事を割り振ることを超え、個人の能力開発、リーダーシップの強化、そして組織文化の革新にまで及ぶ重要な課題です。ここでは、人事の視点から見た理想的な「任せ方」の意義と、具体的なアプローチについても考察してみます。
育成型マネジメントを支援する仕組みの整備
上司が部下に対して育成型のマネジメントを実現できるよう、必要な仕組みやリソースを提供することが重要になります。これには、上司が「任せ方」のスキルを身につけ、実践できる環境を整えるための具体的な支援などが考えられます。
まず第一に、「任せ方」のスキル向上を目的とした研修プログラムを提供することが有効です。この研修では、仕事の目的を明確に伝える方法、進捗管理やフィードバックの効果的なやり方、さらには部下のモチベーションを高めるコミュニケーションスキルについて学ぶ機会を設けます。例えば、部下に単純な業務を依頼する場合でも、「なぜこの業務が重要なのか」「その成果がどのように組織に貢献するのか」を伝えることで、部下の仕事への取り組み方が大きく変わることを理解させるのです。
次に、1on1ミーティングを組織全体で定着させるための仕組みを整えることが重要です。1on1は、上司が部下と定期的に話し合う場であり、部下の状況を把握し、課題解決や成長を支援するための貴重な機会です。この取り組みを組織的に推進するために、1on1の目的や進め方に関するガイドラインを作成し、全社的に共有することが有益です。また、実際の1on1で利用できるツールやテンプレートを提供することで、上司が効率的かつ効果的に部下と向き合える環境を整えます。
さらに、業務内容を可視化し、役割分担を明確化することも欠かせません。各チームや部門が抱える業務を洗い出し、その中で重要度の高い業務や成長機会となる業務を特定する仕組みを構築することで、部下に適切な仕事を任せるための基盤を作ることができます。
人材開発と評価の連動
部下に仕事を任せるプロセスを人材開発の一環として捉え、それを評価制度と連動させることが重要です。これは、単に業務を遂行することを評価するのではなく、その過程で得られるスキルや姿勢、成長の成果を公正に評価する仕組みを意味します。
まず、評価制度の中で成果だけでなくプロセスを重視するアプローチを採用することが有効です。例えば、部下が新しい業務に取り組む際の主体性や課題解決力、またチームへの貢献度などを明確な指標として取り入れることで、仕事を任された部下が積極的に成長を目指す動機づけを強化できます。
さらに、挑戦的な業務への取り組みを奨励するための報酬やキャリアアップの仕組みを導入することも効果的です。たとえば、新しいプロジェクトや高難度の業務に取り組んだ部下には、成果が出たかどうかにかかわらず、その挑戦自体を評価する制度を設けることで、部下が安心して新しいことに挑む文化を醸成することができます。
心理的安全性の醸成
部下が安心して意見を述べ、自律的に行動できる環境を整えることは、人材育成の基盤として極めて重要です。心理的安全性を確保することで、部下は失敗を恐れずに挑戦できるようになり、結果的に個人と組織の成長を促進することができます。
心理的安全性を高めるための文化を組織全体で醸成することが重要です。これには、心理的安全性をテーマとした研修やワークショップを提供することが考えられます。例えば、「意見を言うことを恐れない」「失敗を受け入れる」文化を構築するために、上司と部下が共に参加できるセッションを企画し、互いの信頼を深める場を作ります。
また、フィードバックを自然に行える環境を整えることも重要です。上司から部下へのフィードバックだけでなく、部下から上司へのフィードバックを奨励する仕組みを導入することで、双方向の信頼関係を築きやすくなります。
リーダーシップの分散と育成
現代の組織では、一部のリーダーだけが意思決定を行うのではなく、全社員がリーダーシップを発揮できる体制を整えることが求められています。このような分散型リーダーシップを実現するための施策を推進する必要があります。
リーダーシップトレーニングを拡充し、特定の役職者だけでなく、すべての社員がリーダーシップを学べる機会を提供することが効果的です。また、横断的なプロジェクトを通じて社員が新しい視点を得る機会を増やすことで、個々の成長を促進します。さらに、キャリアパスの多様化を進め、専門スキルを深めるキャリアとリーダーシップを強化するキャリアの両方を選べる仕組みを整えることで、社員一人ひとりの志向に合わせた成長支援を可能にします。
まとめ
企業としても、部下に仕事を任せるという行為を単なる業務分担にとどめず、組織の成長戦略の一環として捉えることが重要です。育成型マネジメントを支援する仕組みの整備、人材開発と評価の連動、心理的安全性の確保、そしてリーダーシップの分散と育成を通じて、部下の成長と組織全体の成果向上を実現することが求められます。これらの取り組みを通じて、組織は全社員がリーダーシップを発揮し、変化するビジネス環境で競争力を保つ基盤を築くことができることでしょう。