DXで「コスト」を削減(できない)
はじめに
「DXでコストダウンを実現した!」とか「多くの企業ではまだまだDXによるコストダウンが進まない!」などと言われることが多々あります。しかし、
そもそも「ダウン」させる「コスト」とは何か?
の定義をあまり見たことがありませんでした。この定義がないと、なぜ「DXによるコスト削減が進まないのか?」を考えるのが難しいと感じました。今回はそのあたりについて考えていきます。
(復習)「DXでコストダウン」について
ここで改めて「DXでコストダウン」という言葉について振り返っておきます。DXには
デジタルを使ってコストを下げる
デジタルを使って新たな売上を立てる
の二つの方向性があります。
「DXでコストダウン」という言葉は、このうち前者の話であり、取組み内容としては
守りのDX:自社でコントロールできる改革的なテーマ
業務処理の効率化・省力化
業務プロセスの抜本的改革・再設計
経営データ可視化によるスピード経営・的確な意思決定
などがその範疇に入ります。詳細は過去の記事をご覧ください。
コトラーの純顧客価値と純顧客コスト
ところで、いままたマーケティングの勉強をしているのですが、本を読んでいると「コトラーの純顧客価値」という言葉が出てきました。このキーワードは検索するとたくさんのドキュメントが出てきますが、たとえば以下のサイトではわかりやすく図で示されています。
このうち、「金銭コスト」「時間コスト」「労力コスト」「心理コスト」という4つの分類は非常に納得性の高いものでした。というのも、
DXの文脈で議論される「コスト」は「金銭コスト」や「時間コスト」
に関するものばかりだったからです。この辺の違和感も過去に記事にしたことがあり、詳細はそちらをご覧いただきたいです。
上記文章で「業務を9分縮めても、金額換算すると全然評価されない」という書き方は、まさに「金額コスト」「時間コスト」の話だけを書いているからだと感じました。
改めて「10分の業務を1分に縮めるDX」のコストダウンについて考える
ここで改めて「労力コスト」「心理コスト」も加味して、前回のテーマを考えてみます。
ここで重要なのは、上3つは管理者側がコメント(文句)を出しているのに対し、一番下の心理コストだけは現場側がコメント(文句)を言っている点です。理由は簡単で
心理コストは、現場が追加で払うことになってしまうから
です。この軸だけコストの意味合いが全く異なり、現場からするとむしろコスト増とすら言える状況になってしまうのです。
厳密にいうと、労力コストも現場が支払うのですが、現場から登って行った管理者だと、なまじ昔のやり方を知っているせいで、今回議題になっている労力コストが思っているほど高く見えません。そのため「困らないでしょ?」というコストと関係ない回答が来る可能性があります。
おわりに
今回は、コストの定義と、DXでコスト削減できない理由について考えてみました。コストのうち、心理コストまで含めると、実はコストを払ってまでやりたくないという別の軸が出てきます。DXによるコストダウンを考える場合はこういった点まですべて明らかにして考える必要があります。この点を踏まえ、今後もいろいろ考えていこうと思います。
(つづく)