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私の好きな現代美術① 塩田千春「遠い記憶」

好きなもののひとつに現代アートがある。
学生の時から絵を見ることも描くことも好きではあったけど、より明確化したのは2010年。一眼レフカメラを購入し、瀬戸内国際芸術祭に初めて足を運んでからだ。
カメラを手にしてから私は写真を撮る楽しみを覚え、旅先の風景や芸術祭の作品を捕らえてシャッターを押すことに夢中になっていった。旅行の楽しさを知ったのもこの年である。

芸術祭、それはアート好きにとってのワンダーランドだ。その響きを耳にしただけでアドレナリンが出る。限られた時間の中でどの作品を見よう・どう巡ろうと思索して、アートとその舞台を目一杯楽しむ。
このnoteでは、芸術祭で見た特に心動かされた作品について記していこうと思う。

① 塩田千春「遠い記憶」

老朽化のため2019年に取り壊されてしまったが、かつて香川県の離島、豊島の甲生地区にあった野外アート作品だ。甲生は豊島の南に位置する集落で、港からはやや離れていて人も少ない。

中にも入ることができる
使われなくなった島の窓や扉
光と影のコントラストが美しい

「遠い記憶」は、瀬戸内海の島々から使われなくなった廃屋の木製建具約600枚を集めて作った秘密基地のようなトンネルで、コンセプトは「かつて島が見ていた風景を蘇らせる」だ。トンネルを潜った先には水田の景色、振り返れば海が広がっている。
見る者を過去から現在、そして未来に繋がる時間旅行に連れてっていってくれるような、とても素敵な作品だった。

トンネルから覗く鯉のぼり

初めてこの作品を見たのは、2010年10月の瀬戸内国際芸術祭だ。この作品に出会ってから私は塩田千春さんと豊島に魅了され、塩田さんの作品には出来る限り駆けつけ、豊島にも何度も足を運んだ。おそらくこの14年で8回ほど。
塩田千春さんは、2019年に森美術館にて開催された大規模な個展「魂がふるえる」で圧倒的に人気と知名度が増えたように思う。そのため、塩田千春さんの作品に対して退廃的でやや狂気めいたイメージを持つ方も多いだろう。
だが、私にとって塩田千春さんと言えば出会いの作品でもあるこの「遠い記憶」の印象が強い。闇の塩田千春さんが存在するなら、こちらは光の塩田千春さんだ。この作品には温かさと希望がある。
余談だが、後のトーク会で塩田千春さんからこの作品を制作した時に、豊島に確か数十年ぶりに子どもが産まれたという話をお聞きした。だからトンネルから鯉のぼりが覗いているのだ。

もうこの作品が見れないのは寂しい。けど、作品名のとおり、記憶には残り続ける。
これから塩田千春さんの作品に出会う多くの方々に、そしてちょっと怖いイメージから敬遠しがちな方々にも、「塩田さんはこういう優しい作品も制作されるんだよ」ということはこの先もずっと言い続けていきたい。

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