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【いまさらレビュー】映画:カモン カモン(アメリカ、2021年)

今回は、しっとりしたモノクロ映像で綴る感動の一編、映画:カモン カモンについて記録しておこうと思います。
監督・脚本はマルチな分野で活躍するマイク・ミルズ。主演はアカデミー賞俳優のホアキン・フェニックス、甥の役をウディ・ノーマンが輝くような演技で見事に演じています。

おはなし

映画は全編モノクロ。おじのジョニーと甥のジェシーが、初対面の親戚から親友へと変わっていく過程が中心だ。映像はほぼ対話・インタビュー・独白・告解の積み重ねで、ゆっくりとストーリーが展開する。観客にとって、後悔の念にかられたり、耳の痛い部分もたくさんある。

ジョニーは全米各地で子どもたちへのインタビューを行っているジャーナリスト。ある事情により、妹ヴィヴの1人息子ジェシーの世話を一時的に任されることになる。やや多動傾向のあるジェシーにイラつきながらも、仕事をしつつ世話役に臨むジョニー。

かつてジョニーとヴィヴが認知症の母の介護をめぐり対立した過去や、ヴィヴの夫は精神を病んで別居・治療中であることが少しずつ明かされる。それぞれ複雑な立ち位置・距離感の中、うまく打ち解けないまま時が過ぎる。

舞台はデトロイト〜ニューヨークへ。相変わらず衝突したり甘えたり、駄々をこねて行方不明になったりを繰り返すジェシー。ジョニーはヴィヴにヘルプを求めつつ、ストレスを抱えながらも真摯に向き合っていく。だがある日、仕事の都合でニューヨークを離れなくてはならなくなり、ジェシーを自宅に戻すことにするがジェシーは拒否。ジェシーはレストランのトイレに閉じこもる。

ジョニーは仕事をキャンセル。ジェシーとともに過ごす時間を選択したことで、2人の距離が一気に縮まる。そして、インタビューの地はニューヨーク〜ニューオリンズへ。2人は一緒だ。

ジェシーは自分で自分にインタビュー、テーマは「未来」について。ヴィヴの夫は回復し再び家族3人、一緒に暮らすことになる。ジョニーとジェシーは壁を乗り越え、ともに大きな一歩を踏み出した。「C'mon C'mon(前へ、前へ)」

普通に子育て経験を持つ人なら、“ちゃんとやってきたぞ”的なある程度の自負はある。だが、同作の子どもたちへのインタビューやジェシーへの接し方をみれば、多くの点でショックを受け、後悔を覚えるだろう。ジョニーのジェシーへの態度は、あまりにも優しく神々しささえ感じる。

タイトルの「カモンカモン(C'mon C'mon)」の意味がわかるシーンには、思わず心を揺り動かされる。

ちなみに公式サイトで「名優に引けを取らない天才ぶり」と紹介されているジェシー役のウディ・ノーマン。英TVディレクターの父と、人気シンガーの母との間に生まれたいわばサラブレッドだ。2015年に子役デビューすると、着実にスターへの道を歩んでいる。これからどんな成長を遂げるのか、楽しみでならない。

I Am Easy To Find

マイク・ミルズ監督の短編『I Am Easy To Find』(2019年)が非常に興味深い作品だ。ロックバンドThe Nationalsの同名アルバムとコラボして制作された作品だが、後の『カモン カモン』につながる世界観が繰り広げられており、しっとりとした優しさに包まれている。

YouTubeでもご覧いただけるので、興味がある方はぜひどうぞ。

テーマはある女性の一生。幼少期〜青春時代〜出会い〜結婚・出産〜子供の成長〜人生との別れ…すべて1人の女優が各年代をそのままの姿で演じている(※接点がある人たちは年齢相応で登場するので面白い)。全編モノクロ。ゆったりしたカメラワークとThe Nationalsの楽曲が、ごく平凡な女性の細やかな感情の揺れを、瑞々しく表現している。20数分の作品だが、なかなかの感動作である。

父や母が読み聞かせに込めた深い思い。やがて訪れる別れのとき。親しい人との間がぎくしゃくすることもある。こうした出来事が、とても優しく温かい視点で捉えられている。『カモン カモン』も同じアプローチ、同じ視点が貫かれていると感じられる。

I am easy to find、私は簡単に見つかる…自分探しの旅なんかいらないよ、答えは自分の中にあるんだからとの意味か。

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

同作に『ジョーカー』のような大仕掛けはない。アカデミー賞俳優が主演だけど、もしかすると観る人によっては地味で退屈な映画かもしれない。刺激がほしい若者には、物足りなく感じられるだろうか。

一方、ある程度人生経験を経た方、あるいは子育て経験者であれば、大いに共感できる表現に満ちている。インタビューに登場する子どもたちの声にも耳を傾けたい。エンドタイトルまでじっくり楽しみたい作品だった。

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