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【いまさらレビュー】映画:カラマリ・ユニオン(フィンランド、1985年)

今回は、フィンランドを代表する名監督、アキ・カウリスマキの長編第2作、映画カラマリ・ユニオンを観ることができたので、一丁腕まくりして書き残しておこうかと思います。
アキ・カウリスマキが製作・監督・脚本を担当。群像劇なので明確な主役は存在しませんが、マッティ・ペロンパーをはじめ後のレニングラード・カウボーイズなどにも顔を出す俳優が何人も出演しており、ある意味カウリスマキ人脈の原点。ちょっとうれしくなります。

おはなし

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

映像はモノクロ。舞台はフィンランドの首都ヘルシンキ。ストーリーは時々不条理な展開を孕んでおり、即興演出であることを物語る。ただ、閉塞感から抜け出して何か起こしてやろう的な流れは、カウリスマキ監督の他作品にもみられるモチーフだ。例によって出演者は一切笑わず、孤独と悲哀とユーモアが同居する微妙な空気感を醸し出す。

ユニオンのメンバー全員が集まり、何やら決起集会。メンバーの名前はみんなフランクだ。リーダーが呼びかける。先が見えないここを飛び出してブルジョアの象徴エイラを目指そうと。いざ、サングラスをかけ行動開始。

地下鉄を乗っ取り中心部へと向かうメンバー。目的地に到着すると、メンバーは予定通り自由行動を始める。

銃で撃たれて死ぬ、無銭飲食、銀行にお金を借りに行き逮捕、バイトをしたり万引きしたり、女性とのロマンスがあったり、メンバーはそれぞれタバコをスパスパやりながらやりたい放題だ。

あるフランクはホテルのドアマンとして働き始める。あるフランクは万引きしたスーツを着てビジネスを模索するが結局自殺。あるフランクはファストフード店で撃ち殺される…

歌うシーンが何度か挿入される。彼らの一部はロッカーだ。劇中のスタンド・バイ・ミーが染みる。「ただ、ボクのそばにいてよ」

最終的に、ユニオンでエイラに行くという目的を達成したのは数人のみ。あるフランクは夢破れ、エストニアに向かって小さなボートを漕ぎ出す。人生の悲哀感を残しつつ、The End。

悪さを働いてもスルーされたり、死んだはずのメンバーがライブシーンで歌っていたり…辻褄なんて行方不明。多くのセリフ 、エピソードが即興的で、きちんと整理されているわけではない。不条理だがそれが世の中、それが人生だと言わんばかりに。

暗さや出口のなさ、絶望の果ての悲哀感とユーモアが不思議とセットになっているところは、いかにもカウリスマキらしい。繰り返しになるが、登場人物は陰気で笑わないし、とりたてて面白いセリフも言わない。それでもふっと笑ってしまうのはなぜだろう。

ユニオンの一人を演じたマッティ・ペロンパーは1995年、44歳の若さで亡くなった。ベルリン映画祭で最優秀俳優賞を受賞したり、ジム・ジャームッシュ監督『ナイト・オン・ザ・プラネット』への出演もあった個性派俳優である。長〜いリーゼントとペンギンブーツ姿がなつかしい。

なんちゃってフィルム・ノワール

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

ワルの集団といっても、本格的に計画犯罪を実行したり、はたまたテロ行為に走ったりというわけではない。お尋ね者として追われるわけでもないし、さっそうとしたカッコよさは見当たらない。なにせカラマリ・ユニオン(イカ野郎ども)なのだから笑

それはさておき、フィルム・ノワールっぽさを拾ってみる。

  • 冒頭、リーダーがユニオンの思いとなすべきことを読み上げる:しばしば導入部には主人公の独白が用いられる

  • ローキーな画面と効果的な広角:ノワール独特の画作り

  • いわくありげな女性の誘惑:いわゆる男を破滅に導くファムファタル

  • 救いが見つからない悲劇的なラスト:しばしば主人公がラストに死ぬ

いずれも不完全ながら、モチーフとして引用されているように思う。積極的にワルの世界観を描こうというよりは、実生活で向き合う現実・世の中にフォーカスしているので、パロディと呼ぶべきか。リアルな人生を、1950年代の希望のなさを描いたノワールの時代になぞらえて…ということなのかもしれない。

カウリスマキ監督はとてつもない映画フリークだったそうなので、当然引出しは無数に持っている(はず)。そのアイデアのひとつがフィルム・ノワールだったと考えても不思議はないだろう。

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

後のインタビューを読む限り、カウリスマキ監督という人物は相当なひねくれもの(自覚あり)で、商売第一的なスタンスが大嫌い。そんな監督の映画の登場人物は、自身を投影させたものらしい。と考えると、ユニオンみんながフランク(率直さ)という名前の、ある意味失敗者なのもなるほどと思う。

もしかすると陰気な世界観を拒否してしまう方がいるかもしれないが、地味な映像ながら音楽を含めて非常に味わい深い作品なので、コアな映画通には観てほしい。あと、愛煙家にも。

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