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不登校の高校生の彼の「はじまり」

連休最終日、翌日の仕事に備え、早めに寝る準備をしていた私に彼はこう言った。
「学校を辞めて、通信制高校に行きたい」

突然のことで言葉が出ない私に、彼は高校の嫌なところを説明し続けた。
クラスや部活の人間関係には問題がないことは確認した。その上で、説明を聞いても、それが辞める理由には思えず、
「学校辞めて、通信制高校に行きたいと言われ て、わかった、はい、いいですよと言えるわけないよね
 人生が変わる大きな決断だから、ゆっくり考えよう
 とにかく明日は学校は休めばいいよ」
と言うと、学校を休めることに安心したのか、彼は部屋に戻った。

この時の私は、「少し休めば落ち着くだろう。中学校の時もこんなことあった」とあまり深刻には考えないようにした。

新しい高校生活、部活、塾
がんばりすぎて少し疲れているだけと思っていた。

翌日、彼は学校を休み、私は仕事に行った。
心配はあったので、休憩時間は自宅に戻り、一緒にお昼を食べた。

「体調はどう?」
「普通」
「明日はどうする?」
「分からん」
「そっか、じゃあ明日決めようか?」
「うん」

そんな簡単な会話をした。
深い話をするのは怖かったのかもしれない。

翌朝、いつもの時間に声をかけた。
「どうする?」
「どうしようかな」
「迷ってるなら行ってみればどう?しんどくなれば帰ってくればいいし」

いつもの元気がないのは明らかだったが、学校に行くことを後押しした。そして、彼は、学校へ行った。

仕事中、学校に行かせたことを心配していたが、連絡がないことに安心した。
夕方、1日休んで落ち着いたかなと思いながら彼の帰宅を待っていたところ、電話が鳴った。

「お母さん、だめかもしれない」

絶望的な声に、私の心は押しつぶされそうになる。
自転車に乗りながら電話をしているのだろうか、続けて話す言葉が途切れ途切れで上手く聞き取れない。
「家に帰ったらゆっくり話そう。気を付けて帰ってきて」
と、伝えたら
「分かった」
と、電話が切れた。

帰ってくるまで気が気でなかった。
最悪の事態まで想像してしまった。

帰宅した彼の話を聞いた。
「授業中、心臓はバクバクするし、手汗も出て、本当にしんどかった。何とか6時間目まで耐えられたから、部活には行った。
部活は楽しかったけれど、授業はしんどい。もう無理」

明日は休むことを決めて、彼は夜ごはんも食べずに布団に潜った。
何度か様子を見に行き、寝ていることを確認し安心した。

私は眠れない。
あの悲壮な声が耳から離れない。

翌朝、ベッドでスマホを触っている彼に話しかけた。
「体調はどう?」
「学校のことを考えるとしんどい」
「お母さん、今日はどうしよう。家にいた方がいいならいるけれど」
「家にいて」

職場に電話をし、休みをもらった。

彼を一人家に残しておくのは怖かった。
休ませてもらってよかった。
ただ、家にいても高校生に彼にしてあげられることはそうそうない。
話を聞こうとするが、「しんどい」と、早々に会話を終えられてしまった。

私は落ち着かず、インターネット上に答えを求める。
「無理に学校に行っても好転しない、ゆっくり休もう」という多くの情報の中に、どうにか学校に行けないかと情報を探した。

次回
不登校の高校生の君の「親の葛藤」


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