本の世界に浸ること
以前、会社の同僚に「これまでに、何か悪いことしたことってないの?」と聞かれたことがあります。その時、パッと思いついた悪行の1つが、「本屋さんで立ち読みすること」でした。
立ち読み程度を悪行と呼ぶなんて、と思うか、立ち読みなんて本と本に関わる人への冒涜だ、と思うかは一旦置いておくとしましょう。
ほとんど「本の虫」といってもいいくらい読書に勤しんでいた小学生の頃、私は、本屋さんに行くたびに立ち読みをしていました。しかも、立ち読みといっても、本のさわりを読むのではなく、最初から最後まで読み通してしまうのです。
私の母は活字がそれほど好きではないので「その集中力はどこからくるの?」と呆れた顔で、私を本から離そうと急かしたものでした。けれど、私は「続きが気になるの」とそのまま読み続け、とうとう読み終えてしまうことも少なくなかったのです。
もちろん、分厚い本となるとそうはいかないので、「この本を本屋さんで読み切ることはできないから」という理由で本を買ってもらうこともありました。
本の世界に完全に入り込む、あの豊かな時間を何と表現すればいいでしょう!
本屋さんで、学校の教室で、電車の中で、登下校の道で、私は本を読み続けました。最寄り駅に着いても本を手放せず、「歩きスマホ」ならぬ「歩き読書」をしていたこともあるほどです。
家の前に着いてもなお読むことをやめられず、家の玄関の前で立ち読みしているところに母に見られ、彼女を驚かせたことも何度もあります。
大人になってからは、長時間同じ本を読むことはなくなってしまいましたが、物語の世界に入り込むあの時間だけは、自分自身からも自由になれるような気がするのです。
それがたとえ5分であれ、10分であれ、本の世界に浸る時間は、大人になった今でも私を幸せにしてくれています。
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この作品は、アドベントエッセイです。クリスマスまでの24日間をワクワク過ごしてほしい、という思いから、「24年の人生で見つけた、24の幸せ」をテーマに毎日1本ずつエッセイを書いています。
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